魔界の遊園地①
魔界の景色が流れるのを眺めつつ、楽しそうな葵ちゃんと陽菜ちゃんの方を向く。
「ふたりは、魔界にあんまり来たことなかったんだっけ?」
「ほぼ無いですね。前の船上パーティの時とか、ハーモニックシンフォニーとかぐらいなので」
「冒険者の仕事も人界が中心ですしね。最上位冒険者とかだと魔界の仕事とかも回ってきて、六王配下に協力したりすることもあるみたいですけど……」
現在俺たちは、クロとアリスが魔界に作った遊園地のプレオープンに向かうために移動している最中だった。リリアさんたちも一緒に来ているのだが、移動用の馬車……まぁ、いちおう馬車ってことでいいかな? ひとつの馬車に全員入ることは難しいので別れて乗っている。
転移魔法で一気に現地へというのもありなのだが、今回は遊園地へのアクセスも含めてプレオープンみたいな感じで、クロムレイクから遊園地行きの馬車で移動していた。
俺と葵ちゃん、陽菜ちゃんの三人、リリアさん、ルナさん、ジークさんの三人、アニマ、キャラウェイ、イータとシータの四人という形で別れて乗っており、計十人での参加である。
イルネスさんも誘ったのだが、別の用事があるみたいで今回は不参加……後に予定されているシロさんの作った温泉街のへプチ旅行の方へは参加するとのことだった。
「でもこの馬車、全然揺れ無くて快適ですね……引いてるのは馬というか、もの凄い怪獣みたいな魔物ですけど……」
「たぶん、魔界は人界と比べて魔物が多いから普通の馬とかだと魔物の気配に怯えたりするからかも?」
陽菜ちゃんの言葉に葵ちゃんが答えるのを聞きつつ、馬車を引いている魔物の方を見る。引いているのはなんか、恐竜っぽい見た目の魔物である。
表現は難しいが、ティラノサウルスの前足を大きくして四足歩行にしたような……見るからに強そうな雰囲気ではある。
「なんて魔物だろう?」
「……たぶん、グラップフットと呼ばれる魔物だと思いますよ。人界には生息してなくて魔界にだけ居る魔物で、見た目は凄く肉食獣っぽいですが、草食だったはずです」
「おぉ、さすが葵先輩、物知りですね。あれ? なんか、魔界で恐竜っぽい魔物って……講習で習ったのとは違うやつですか?」
なんの魔物だろうという俺の疑問に、冒険者として日々いろいろ勉強しているであろう葵ちゃんが答えてくれた。陽菜ちゃんの方はあまり得意な分野ではないのか、記憶を呼び起こすような表情で呟いている。
「講習で習ったのはアギサウロって魔物でしょ? そっちは、凄く狂暴で危険だから生息地に近付かないようにって……」
「……ああ、ベルのおやつの……」
アギサウロは俺もよく知っているというか、ベルが大好きなビーフジャーキーの原料である魔物だ。ベルが嬉しそうに食べているので忘れがちになるが、狂暴で皮膚も肉も鋼鉄より硬いというレベルなので確かにかなり危険な魔物なんだろう。
「でも、楽しみですね! 遊園地ですよ、遊園地! まさかこっちの世界で遊園地に行けるとは思いませんでした」
「陽菜ちゃんはそういうの好きそうだよね。葵ちゃんは?」
「私は、知識としては知っていますが、一度も行ったことが無いですね」
話を切り替えてこれから向かう遊園地の話題になったわけだが、陽菜ちゃんが遊園地を好きなのは完全にイメージ通りというか、傍目に見ても分かるぐらいテンションが上がっている。
逆に葵ちゃんはそんなに遊園地とかに行ってるイメージが無かったのだが、実際に聞いてみると一度も行ったことが無いらしい。
「えぇぇ!? 葵先輩、遊園地いったこと無いんですか? 子供の頃に家族と行ったりとかは?」
「実家の連中と出かける? ……想像するだけで吐き気がするわね」
「……ちょいちょい、家庭環境関連では闇を見せますよね、葵先輩」
反抗期とかそういうわけでもなく、本当に純粋に死ぬほど嫌というような嫌悪感しかない表情を浮かべる葵ちゃんを見て、陽菜ちゃんもなんとも言えない表情になる。
葵ちゃんの家族嫌いはガチであり、なんなら家族と呼ぶことすら嫌がってる気がする。なにせ、そもそも家族と呼ばない……だいたいいつも「実家」とかそういう風に呼称するので、本当に心底嫌いらしい。
「ま、まぁ、初めて行くなら結構新鮮で面白いんじゃないかな? もちろん、どんなアトラクションがあるとかは想像できるだろうけど……この世界に合わせて改良してるわけだし、いろいろ違うんじゃないかな?」
「……そうですね、なんだかんだで楽しみです。快人さんは、なんかいか行ってるんですよね?」
「行ったけど、俺の時は本当にシロさんが作った状態と改良途中のやつだったからね。シロさんが作ったやつなんて、ジェットコースターが音速の10倍で10分以上とかだったし……初期状態だと、リリアさんの身体能力基準で作られてたし……」
「えぇぇぇ……こ、これから行くとこは大丈夫ですよね? リリアさん基準だと、私たち肉片になっちゃいますよ!?」
「ま、まぁ、クロとかアリスが調整してるから大丈夫だよ」
リリアさんの評価である。いやまぁ、たしかにリリアの身体能力基準のアトラクションは、一般人が乗れば挽肉製造機にしかならないだろうが……。
シリアス先輩「ここがデート回と身構えたが……本番はここじゃなくて、温泉か? いや、そう油断させといて刺してくるパターンも……」




