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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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迷う事なく確信できた



 アニマをやや強引ながら食事に誘い、一緒に大通りを歩く。

「アニマはなにか食べたい?」
「い、いえ、自分はご主人様の決めたもので構いません!」
「……アニマはなにか好きな食べ物はある?」
「好きな食べ物ですか……なんでも食べますが、強いてあげるなら……魚料理、でしょうか?」

 ……元ブラックベアーだからかな? 確かに熊って鮭食べてるイメージがあるし、魚料理が好きというのは納得できる。

「よし、じゃあ、魚料理を食べに行こう!」
「え? い、いえ、自分は……」
「俺が魚料理を食べたいからね……問題無いでしょ?」
「うっ、は、はい」

 ここまでの会話でアニマが遠慮するというのは分かり切っていたので、例によって例の如く強引に決定してしまう。
 今日の最大の目的は、アニマに十分羽を伸ばしてもらう事……なのでここではしっかりと好みを押さえておきたい。
 以前クロに色々美味しい料理の店を教えてもらった事を思い出しながら、どの店に行こうかと考えながら昼時で賑わう大通りを歩いていると、前から歩いて来ていた男女と軽く肩がぶつかってしまう。

「あっ、すみません」
「いえ、こちらこそ」

 ごく自然に軽く謝罪を告げ、そのまま道を進んでいこうとしたタイミングで……隣を歩いていた筈のアニマの姿が無い事に気付き、同時に後方から低く威圧感のある声が聞こえてきた。

「……貴様、ご主人様にぶつかっておきながら、その程度の謝罪……万死に値する! 今すぐ地に頭を擦りつけ――「アニマ、ストップ!!」――え? あ、はっ!」

 忘れてたっ!? 屋敷の使用人の人達に対しては、俺が何度も口をすっぱくして注意した事もあって、態度が軟化していたけど……そう言えばアニマって、こういう苛烈な所があったんだった!?
 今にも殴りかかりそうだったアニマを止め、慌てて頭を下げる。

「うちのアニマが申し訳ありません!」
「い、いえ、大丈夫です」

 幸いアニマが強硬な行動を起こす前に割って入れたお陰で、アッサリと許してもらう事が出来た。

「アニマ! 駄目じゃないか、あんな脅迫みたいなことしちゃ……」
「し、しかし、奴等はご主人様に危害を……」
「いや、肩がぶつかっただけだからね!? 俺の不注意でもあるから、ともかくすぐに手を出そうとしない事!」
「は、はい……申し訳ありません」

 俺の言葉を聞いたアニマはシュンと落ち込んだ表情を浮かべ、素直に謝罪の言葉を告げる。
 す、少し厳しく言い過ぎたかな? い、いや、ここはしっかり注意しとかなくちゃいけない場面だ!! うん……でも、アフターフォローぐらいはしないと……可哀想だし。

「……アニマが俺の為に動いてくれたのは凄く嬉しいよ。でも、もう少しだけ控えめにね」
「はい」
「うん。でも、ありがとうアニマ。俺の為に怒ってくれて」
「は、はい!」

 そう言いながら軽くアニマの頭を撫でると、アニマはパァっと明るい表情に変わって頷く。
 うん、まぁ、困った所はあるけど……結局アニマは、なによりも俺の為を想って行動してくれてるんだし、それは素直に嬉しく思う。
 まぁ、また暴走しそうな時は注意する事になるとは思うけど……









 少しトラブルはあったものの、無事に魚料理を扱う飲食店に辿り着き、アニマと一緒に昼食を食べる。
 アニマは普段の苛烈な言動等から、少し脳筋っぽい印象があるが……テーブルマナーもしっかり身に付けていて、上品な仕草で食事を行っている。

 っと言うのも、実はアニマは頭も良いらしく、リリアさんの屋敷に住むようになってから、かなり熱心に勉強をしていて、そこで学んだ事を俺の為に役立ててくれている。
 特に助かっているのが手紙の整理……宝樹祭以降少し有名になってしまった俺の元には、今も多くの貴族から手紙が届いている。

 アリスのお陰で変な手紙は来なくなっているが、茶会やパーティーの招待状がとにかく多い。
 しかし俺の手元にはその手の手紙は殆ど回ってこない……というのも、俺宛に届いた手紙は、まずアニマがチェックしてくれていて、個人的な用件のもの以外……茶会の招待等、俺が参加する気が無いものはアニマが代わりに断りの返事を書いてくれている。

 以前少しその手紙を見せてもらったが、余程勉強したのか非常に丁寧な文面でやんわりと断ってくれており、本当に助かっている。
 手紙の書き方等をルナマリアさんや他の使用人から教わっているという話も聞いたし、本当にアニマは頑張り屋だと思うし、俺にとっては本当に頼れる子だ。

「……アニマ、味はどう?」
「はい、とても美味しいです」
「そっか、良かった」

 そんな普段から色々頑張ってくれているアニマには、一度ちゃんとこうした形でお礼がしたかったので、今回の外出は俺にとっても丁度良かった。
 っとそんな事を考えていると、食事をしているアニマの口元にソースが少しついているのが見えたので、手元にあったナプキンを持ちながら声をかける。

「……っと、アニマ。動かないで」
「え?」
「口元にソースが……はい、取れた」
「なぅっ!?」
「なぅ?」
「な、なんでもありません!? お、お手をわず、わず、煩わせてしまい! 申し訳ありません!!」
「……う、うん。気にしないで?」









 昼食を食べた後も、俺はアニマをあちこちへと連れ回した。
 ショッピングを楽しんでみたり、出店で買ったものを立ち食いしたり……かなり楽しく過ごす事が出来たと思う。
 そして周囲が茜色に染まり始めたタイミングで、アニマと一緒に屋敷に帰る事にして、今は夕日に照らされながら並んで歩いていた。

「……アニマ、色々連れ回しちゃったけど、疲れてない?」
「は、はい! 問題ありません……むしろ、その、とても楽しかったです」
「そっか、それは良かった……少しは『肩の力は抜けた』かな?」
「ッ!?」

 穏やかに微笑みながら告げた俺の言葉を聞き、アニマは大きく目を見開いて足を止めた。

「……やはり、ご主人様は……気付いていたんですね?」
「……いや、詳しく分かった訳じゃないよ。ただ、最近なんだか『焦ってる』かなぁって……」

 そう、実は今回俺がアニマを連れ出したのは、彼女が休憩を全然していないという理由以外にも、もう一つ大きな理由があった。
 アニマはとても真面目で頑張り屋な子だ……だけど、それを加味しても、最近感応魔法によってアニマから伝わってくる感情には、焦燥感が見え隠れしていた。
 なにか張り詰めているような、そんな感じで……その原因までは分からなかったが、気分転換になればとも思っていた。

 俺の言葉を聞いたアニマは、そのまましばらく沈黙し……胸の前まで自分の手を持ちあげ、その手を見つめながら小さな声で呟く。

「……自分は……ご主人様のお役に……立てているのでしょうか?」
「……え?」

 その言葉と共に俺の感応魔法が、アニマの強い不安を感じ取る。
 弱々しくさえ見えるその表情に、思わず言葉に詰まる俺をチラリ見た後で、アニマは言葉を続けていく。

「……自分が他者に誇れるものは……武力ぐらいしかありません……ですが、自分の力は……『アリス殿』の足元にすら及ばない……」
「……アニマ」
「……自分は、もしかしたら……ご主人様に必要とされていないんではないかと……それが恐ろしくて、もっと他の事でご主人様の力になれないかと、手を広げてみました。ですが、それも本職には敵わず……私は役立たずのままで・……どうすればよいのか……分からなく、なってしまったんです……」
「……」

 アニマの声は震えている。
 ……まったく、自分の馬鹿さが嫌になってくる。頑張り屋で真面目な彼女が、ずっと胸の内に抱えていた不安・……なんでもっと早く気付いてあげられなかったんだ。
 言われてみればそうだ。アニマが必死にいろんな事を勉強し始めたのは、アリスが俺の護衛につくようになってからじゃないか……くそっ……本当に鈍いなぁ俺は……

 いや、後悔するのは後だ。今はそれよりも先にやるべき事がある。

 そう考えた俺は、俯くアニマに近付き、その体を包み込むように抱きしめる。

「え? ご、ご主人様!?」
「……ごめん。アニマ……アニマがそんな風に不安に思ってたなんて、全然気付けなかった。馬鹿な主人で、本当にごめん」
「い、いえ!? 違います! これは、自分の心が弱かったから……」
「思えば、ちゃんと言葉にして無かったよな……アニマは役立たずなんかじゃない」
「ッ!?」
「いつもいつも俺の為に頑張ってくれて、苦手な事にも挑戦してくれて……アニマは本当に頼りになる子だよ」
「……ごしゅ……じん……さま?」

 そう、アニマの不安を拭い去る方法なんて簡単な事だったんだ。俺がただ、心からの気持ちを口にすればいいだけだった……なのに、馬鹿な俺はそれをするのが本当に遅くなってしまった。
 初めは戸惑いが大きかったし、その性格に頭を抱えた事は一度や二度じゃなかった……だけど、いつも真っ直ぐ真面目で、一途に俺を慕ってくれるアニマは、いつの間にかとても大きな存在になっていた。
 それそこ、彼女になにかしてもらうのを当り前のように感じてしまっていたほどに……

「……俺にはアニマが必要だよ。だから、役立たずなんて、そんな悲しい事を言わないでくれ」
「あっ……あぁぁぁ……」

 出来るだけ優しく思っていたより小さなその体を抱きしめながら、今まで口に出来なかった事を言葉にする。
 しっかり者のアニマが初めて見せた弱さ、それをしっかりと受け止めてあげる為に……

「……俺は主人としては半人前以下だと思うし、従者であろうとするアニマに的確に指示は出来ないし……きっとこれからも上手く仕事を割り振ったりは無理だと思う」
「……うっ……ぁっ……」
「主人と従者って関係は、俺にとって難しいし、いつまでたっても慣れないと思う……けど、えっと、これは他人の受け売りなんだけど……俺としては、アニマとの関係は……その、家族みたいな関係でいたいって思うんだ」
「ッ!?」

 そう、たぶん俺は一生立派な主人になんてなれないと思う。なにせ、俺の思い描く理想の関係って言えば、クロのように家族に近い関係だから。
 けど、俺は出来ればアニマとはそんな関係でいたいと思う。

「だから、こんな頼りない俺でも良ければ……これから先も、助けてくれないかな?」
「~~!? は、はい! 自分は……自分の全ては……未来永劫、ご主人様の為にあります! ご主人様が許して下さるなら、この身が朽ち果てるまで……お仕えさせてください」
「うん。よろしくね……」
「はぃ……はぃ……ご主人様……自分は……自分は……ご主人様を主にもてて……幸せです」

 夕暮れの中、静かな嗚咽が響く……それは今までの不安を洗い流すような、そんな優しい涙だったと思う。

 拝啓、母さん、父さん――初めは色々戸惑ったし、困った事もあった。だけど、その実直な力強さに思えばいつも励まされてきていたと思う。主従関係なんて、俺にはよく分からないけど、アニマが俺にとって家族のように大切な存在だというのは――迷う事なく確信できた。



実はアリスが幻王と分かって以降ほぼアニマが登場していなかったのは、武力以外で快人の役に立つ為必死に勉強していたから……このいじらしさ。

???「こ、これは、流石に私もふざけられない……てか、アニマ編だって聞いてないんですけど!? もぅ、これほぼプロポーズですよね!? え? まだ、アニマ編は別にあるの!? マジで?」
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