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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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無事一件落着だ

 風の月25日目。俺は自分の部屋で机に向かい、ノインさんから送られてきた手紙に返事を書いていた。
 アニマが多くの手紙を処理してくれているが、それはあくまで俺の知り合いではない相手からの物だけで、ノインさんやクリスさんの手紙はちゃんと俺の手元に届く。
 特にノインさんは非常に筆まめらしく、かなりの頻度で手紙のやり取りをしている。

 内容は基本的にあたりさわりのない事で、今回はラズさんがとても上機嫌だった事や、季節の料理を食べた事などが綺麗な字で書かれていた。
 その手紙を軽く読み返しながら返事を書いていると、部屋の扉がノックされイータとシータが入ってきた。

「ご主人様。洗濯物を預かりに参りました」
「ありがとう、じゃあ、そこにある服を……」

 かつてはメギドさんの部下だった赤髪の双子魔族……イータとシータは現在は屋敷のメイドとして精力的に働いてくれている。
 双子ではあるがやはり性格や得意な分野は違うらしく、それぞれ別の仕事を担当している。

 長い髪をポニーテールで纏めたイータは、騎士のような性格とでも言うのか真面目な出来る女と言った感じで、主に洗濯や清掃関係の仕事をしていて、普段俺が着ている服を洗濯してくれているのも彼女だ。

「ご主人様、紅茶を持ってきました……です」
「ありがとう、シータ」

 髪を短か目に切りそろえ、イータより少し身長が低いシータは、物静かで冷静な性格をしていて、敬語があまり得意ではないのか語尾に少し遅れてから「です」とつける喋り方が特徴的だ。
 彼女は主に料理関係の仕事をしているみたいで、いつも丁度いいタイミングで紅茶やお菓子を持ってきてくれるので助かっている。

 そんな風にすっかりここでの生活に馴染んでいる二人を眺めながら、ふと俺は昨日アニマと出かけた事を思い出す。
 もしかしたら俺がよく知らないだけで、イータとシータも働き過ぎてたりするんじゃないかと……そういった様子にも気を配ろうと決めたばかりだし、丁度二人揃っているので聞いてみる事にする。

「……そういえば、イータとシータは、仕事の調子はどう? なにか困ってる事とか無い?」
「お気遣いありがとうございます。私は特に問題ありません」
「私も、大丈夫……です」
「そっか、でも屋敷の仕事の他に、訓練とかもしてるんだよね? あまり無理はしないようにね」

 二人の様子を見る限り、アニマみたいな焦りの感情は読みとれない。
 確かにこの二人は、元々護衛と言うよりはメイドとして俺に仕えると言ってきてたし、二人共しっかりしてるからその辺は上手く整理してるのかもしれない。

「はい! ありがとうございます。ですが、いざという時ご主人様をお守りする為にも、しっかりと武を磨いていきます」

 俺の言葉を聞いてどこか嬉しそうな表情を浮かべつつ、背筋をピンと伸ばして答えるイータ。その様子を見て本当に心配なさそうだなと思った矢先、不穏な言葉が聞こえてきた。

「……いざという時、ご主人様を『守る』のは私の役目……イータに守護とか無理」
「……なにが言いたい……シータ」
「……イータは……脳筋……槍振り回して敵に突っ込んでればいい……ご主人様は私が守る」
「……ほぅ、言うではないか……盾に隠れて防御するしか脳の無い根暗が……亀のように縮こまるだけで、ご主人様をお守り出来るとでも?」
「……ちょっと、二人共?」

 シータがボソリと呟いた言葉にイータが反応し、眉が微かに上がる。
 そしてそのままさらに言葉が重なり、なんというか一言毎に二人の間に流れる空気が鋭く、そして重く変わっていく。

「……猿みたいに飛び跳ねるだけの単細胞には、防御の大切さは分からない」
「貴様こそ、どうやら攻撃は最大の防御という言葉を知らぬらしいな……尤も、愚鈍な亀にそのような事を実践出来るとは思えんがな」
「……」
「……」

 気のせいかな? 今二人の間にバチッと火花が散った気がする。
 そして二人の目が据わっていき、どこからともかくそれぞれ大槍と大盾を取り出す。

「……表へ出ろシータ。貴様のその姉を敬わぬ腐った性根、打ち貫いてくれる」
「……少し早く生まれたぐらいで姉面するな……望むところ……羽虫みたいに叩き潰してやる」
「……お~い」

 完全に据わった目と低い声で言葉を交わし、唖然とする俺には気付かないまま二人は部屋の外へ出て行った。
 あの二人、仲悪いのかな? いや、仲がいいからこそ遠慮なくぶつかり合えるのか? まぁ、どっちにせよ困った事態になった事だけはハッキリしている。
 しかも喧嘩の原因が、どっちの方が俺を守れるかって……なんていうか、妙に口を出しにくい話題だ。

「……まぁ、ぶっちゃけ、カイトさんには私が居ますし、攻撃も防御も私だけで事足りるんで、問題無いんすけどねぇ~」
「……というか、なに当り前のように俺のクッキー食ってるの?」
「毒味ですかね! カイトさんになにかあると大変ですから、むむ、サクサク香ばしい……これは危険ですよ。安全の為にも全部私が――あいたっ!?」








 アリスと少し馬鹿なやり取りをした後、二人の様子が気になって屋敷の外に出ると、すぐにイータとシータの姿を発見する事が出来た。
 二人の戦いはどうなったのか……どうやら決着は着かなかったらしい。なぜそれが分かるかって? そりゃ、二人共頭に大きなタンコブを作って、仲良く並んで正座しているからだ。

「全く! お前達はなにをやっているんだ!! 職務を放棄し決闘など恥を知れ! その行いがご主人様の顔に泥を塗ると認識しろ!!」
「も、申し訳ありません」
「……ごめんなさい」

 二人の前で腕を組み、怒気の含まれた声で叱りつけているアニマ……うん。もう大体分かった。
 庭が少しえぐれているから、たぶん喧嘩しようと外に出て数発は打ち合ったんだと思う。
 そしてそこでアニマに見つかり、二人共げんこつを落とされたと、そういう訳だ。

「そもそも、そんな事をするなら訓練場でやれ! 屋敷の庭を傷つけるなど言語道断!! お前達にはご主人様の従者としての自覚が足りん!」
「うっ……はい」
「返す言葉もない……です」

 う~ん。なんかこうしてみると、アニマって結構従士長ってポジションが板についてる気がする。昨日色々あって吹っ切れたってのもあるだろうけど、なんだか頼もしい。
 ま、まぁ、それはともかくとして、このままだと長い説教になりそうだ……喧嘩しちゃったのは問題だと思うけど、イータとシータは俺の事で喧嘩したという負い目もあるし、少し助け船を出す事にしよう。

「……いいか、そもそも従者とは……」
「アニマ、もう、その辺で……許してあげてくれないかな?」
「こ、これはご主人様!?」
「二人共しっかり反省してると思うし……」
「ご、ご主人様がそう仰られるのでしたら……」

 俺が申し出るとアニマはアッサリ引いてくれた。
 今回の件には、こうなる前にしっかり止められなかった俺にも責任があるし、なにより俺は仮にも二人の主な訳なんだから、こういう所ではアニマ任せにせず俺が注意しなければいけないと思う。

「イータ、シータ」
「「は、はい!」」
「二人が俺の事を守ろうって言ってくれたのは本当に嬉しいよ。実際俺は弱いし、出来ない事の方が多いくらいだから、二人にはこれからも色々助けてもらう事になるとは思う……だけど、こんな風に喧嘩しちゃ駄目だよ」

 実際今回はたまたま、イータとシータが喧嘩している事なんて初めて見たし、普段はよく一緒に居る事からも仲が良いのは分かっている。

「イータもシータも、それぞれ得意な事が違う。イータにはイータの、シータにはシータの良い所があるんだから、相手の事もしっかり尊重してあげて欲しい」
「……はい。イータ……ごめんなさい。私は、明るくて強いイータに嫉妬してたのかもしれない」
「いや、私の方こそすまない。そして前言を撤回させてほしい。お前の強さは、私が誰よりも分かっているつもりだ。これからも共にご主人様をお守りしていこう」
「うん」

 やっぱりこの二人は仲が良いみたいで、それぞれ自分の非を認めて謝罪し、しっかりと握手をして和解しあった。
 これで一件落……

「まぁ、繰り返しますけど、私がいれば十分なんすけど――ふぎゃっ!?」
「お前、ちょっと来い」
「へ? あ、ちょ、カイトさん、目が据わって――ぎにゃあぁぁぁぁ!?」

 拝啓、母さん、父さん――イータとシータ、双子だけどそれぞれ違う彼女達もまた、俺にとってはもう無くてはならない存在だ。まぁ、それはともかく、場を茶化すばかりの悪も滅びた事だし、改めて――無事一件落着だ。



お気づきの方もいるでしょうが、今回の話は活動報告にて妹が描いたイータとシータの8コマ漫画を元に、アレンジしたものです。
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