同居者⑥
元々はヴァネッサさんがひとりで晩酌する気で買ってきていたつまみということもあり、ふたりで食べると結構消費のペースは速かった。
いやまぁ、そもそもヴァネッサさんがガンガンハイペースで酒を飲んでいるので、つまみの消費も加速しているのだが……それでもまだまだ量はあるが、乾物ばかりはちょっと飽きてきたので、マジックボックスから適当につまみを出すことにした。
「……ちょっと、待ってよ、カイトくん。この卵……美味しすぎるのでは?」
「ネピュラやイルネスさんが世界樹の木のウッドチップで燻製にしたものですね。肉や魚だけじゃなくフルーツとか、結構いろいろ貰いましたよ」
ヴァネッサさんが絶賛しているのは、うずらっぽいサイズの卵の燻製であり、一口で食べれて味は濃厚で燻製の味わいも素晴らしい品で、食べやすさも含めて酒のつまみには合ってる気がする。
「これほど美味しいつまみを出されたら、私も秘蔵のやつを出さねば無作法だね。しかたない、私のとっておきを出そう」
「とっておきですか? それは楽し……ヴァネッサさん? ちょっ、な、なにしてるんですか!?」
「いや、この奥に隠してて……」
「いまの自分の格好分かってますか!? その格好でベッドの下を漁らないでください!」
とっておきのつまみを出すといったヴァネッサさんは、そのままベッドの前で四つん這いのような姿勢になり、ベッドの下に手を伸ばしてなにかを取ろうとしている様子だった。
しかし、現在のヴァネッサさんは下着とオーバーサイズのTシャツという姿であり、しかも悪いことにベッドは俺の座っている場所から見て正面と言える方向にある。
となるとベッドの前で四つん這いになった場合、どういう風に見えるかというと……あまりにも刺激が強すぎる格好というか、ベッドの下に手を伸ばしたりするせいでやけにお尻が強調されるような動きになる。
俺も気づいてすぐに目を逸らしはしたのだが、顔を横に向けても視界の端にチラッと見えるというか、変にそちらに意識が向いてしまうというか……いろいろ複雑な心境なのである。
「おっ、取れた取れた。思ったより奥の方に入ってたね」
「……ヴァネッサさん、取れました? もう俺、目線戻して大丈夫ですか?」
「別に見たければ見ればいいのに……紳士だねぇ」
「いくら自室だからって言ってガードが緩すぎるというか、もうほぼノーガードじゃないですか……仮にも異性が部屋にいる状況なんですよ?」
ベッドの下からなにやら厳重に密封された箱のようなものを取り出し、上機嫌で俺の隣に戻ってくるヴァネッサさんは、本当にまったく気にした様子がない。
まず間違いなく、俺がお尻を凝視していたとしても一切気にしなかっただろうと確信ができるレベルである。
「う~ん、その辺はまぁ、相手次第じゃないかな? 君はより取り見取りだから、別にがっつく必要はないと思うし、そもそも性格的にやらないだろうけど……私は別にいまこの場でカイトくんに押し倒されたとしても、酒の合間に少し運動する? ぐらいの感覚で受け入れるぐらいには君のこと好きだしね~。あれ? 結び目どこだっけ……裏かな?」
「また、そういうことをサラッと……」
困ったことにヴァネッサさんは別に冗談で言ってるわけではなく、本気でそんなつもりというか……実際に俺がここで欲望に負けて動いたとして、緩い調子で受け入れてくれる感じはある。
ヴァネッサさんは持ってきた箱をくるくる回して、ぐるぐる巻きにしてある紐を解こうとしつつ言葉を続ける。
「いや、私は恋人とか旦那とかは大げさというか、面倒だからパスなんだけど、性欲とかは普通にあるし好きな相手に抱かれるなら別にいいんだけどね~。たまに味変したくなったら、声かけてくれればいいからね~おっ、開いた。味見してみる?」
「……それはどっちを?」
「とりあえずいまは秘蔵のつまみかな……どうよ?」
「黒い肉? なにか漬け込んでる感じですかね?」
薄着な上に精神的に完全ノーガードなヴァネッサさんの誘惑は、酒の入ってる身には大変キツイので、あんまり先程の発言とかは考えないようにしつつ秘蔵のつまみに意識を向ける。
パッと見た感じは黒い肉という感じで、なにかに漬け込んでいたというのは理解できた。だから、マジックボックスじゃなくてベッドの下にしまってたんだろう。マジックボックスに入れておくと時間が経過しないので、漬け置きとかには向かない。
「これね~魚なんだよ。ぶつ切りにした魚の身に、特殊な状態保存魔法をかけることでタレを染み込ませつつ痛ませないってことができてね。結構高度な魔法だし、この魔法使うと熟成するスピードもかなり遅くなるから、完成まで時間がかかるだけど、味は最高だよ」
「へぇ、じゃあ、せっかくなのでひとつ……あっ、凄い。滅茶苦茶濃厚な味なのに、しっかり魚って感じの味わいというか、ビールにかなり合いますね」
「うんうん……これを食べつつ、酒を……ぷはぁっ、たまんないね!」
ヴァネッサさんの秘蔵のつまみは、漬けマグロに近い感じの味わいだが、かなり複雑で噛めば噛むほど旨味が広がる味わいでかなり熟成されている筈なのに、どこか採れたての魚の刺身のような新鮮さも感じる一品で、ヴァネッサさんが秘蔵というだけあって、相当な美味しさだった。
うん。本当に美味しい……美味しいのはいいんだけど……ヴァネッサさん? ほぼ密着するぐらいまで隣に来てるんだけど? ワザとなのか無意識なのか……判断に迷うというか、この服装胸元も緩いから、上から見下ろす場合の目のやり場も困るな……。
シリアス先輩「おい、ふざけんなよ。お前らもう恋人だろ……完全に恋人が宅飲みしてる距離感じゃねぇか!? くっそイチャつくし!! シリアスはどこにあるんだ!!」
???「そこに無ければ無いっすね」




