同居者⑤
隣に移動してきたヴァネッサさんは俺の肩に回していた手は戻したものの、そのまま継続して酒を飲み始める。どうやら対面の席に戻る気は無さそうである。
「でもさ~本当にカイトくんが部屋を貸してくれて楽になったよ」
「あれ? でも、元々リリアさんの屋敷に住んでたんですよね? なら、あんまり変わらないのでは?」
ヴァネッサさんは……というか、リリアさんの屋敷の使用人や私兵は希望すれば部屋を貰える。使用人は屋敷内に使用人用の部屋があって、客室とかよりは小さくワンルームマンションの一室ぐらいの広さではあるが、家賃なども給料天引きで格安で住めるし、食事も付いている。
私兵に関しては、屋敷の裏から少し離れた場所に訓練場付きの寮みたいなものがあり、そこに住んでいる人が多いのだが、警備隊長であるジークさんなど一部の方は屋敷に部屋があってそちらで寝泊まりしている形だ。
もちろんルナさんのように通いの人もいるのだが、そもそもの問題としてリリアさんの屋敷があるのは貴族などが屋敷を構える中央区画であり、いわゆる高級住宅街みたいなものなので近場で部屋を借りるのは難しいし、借りれたとしても月の家賃などはかなりの額になる。
家賃が安いところで部屋を借りると、リリアさんの屋敷までそれなりの距離になるので毎日の通勤が大変ということもあって、通いの人はそれほど多くない。
ルナさんに関していえば、本人の能力が極めて高く、速度を出して走っても問題がない早朝などの人が少ない時間帯であれば数秒で到着するとのことなので、特殊な例である。
そして、ヴァネッサさんはリリアさんの屋敷で部屋を貰っていたし、メイド長という立場もあって他の使用人と比較すると大きな部屋を与えられていたので、俺の家に移り変わってもそう変わらない気もする。
「いやさ、職場で生活はさ~なんかこう、心の奥底でギリギリのストッパーが働くというか……プライベートな時間だから自由に過ごしてるつもりでも、どこか制限がある気がするんだよ。風呂上がりに上半身裸でうろついたりもできないというか……」
「いや、それは俺の家でもやらないでください。まぁ、でも、なんとなく言ってることは分かる気がしますね。ほぼ隣でも心境的には変わりますか?」
「やっぱ渡り廊下ひとつとはいえ、職場かそうじゃないかってのは大きいね。あと、カイトくんの家の部屋広いのに滅茶苦茶家賃安いし……まぁ、あの格安家賃は私とカイトくんの愛の絆あってこその物とは理解してるけどね」
「形式上貰ってるだけですしね。あっ、瓶とってください」
「注いだげるよ~」
ヴァネッサさんを含め部屋を貸している人の家賃は、月に100R……日本円にして1万円である。いやそもそも、俺としては別に家賃とか必要はない。ただでさえお金は持て余してるのに、さらに家賃収入とか欲しいわけではなく、あくまで仲の良い人たちが希望したから部屋を貸してる感じである。
ただ、無料だとそれはそれで気を使うだろうから、形式的にちゃんと貸し出してるという形で100Rずつ貰っている。安すぎるとは言われているが、そもそもまったく使ってなかった部屋を貸してるだけで収入があるんだから、俺としては別になんの損もしていないどころか得しているぐらいである。
「風呂とかも使い放題だもんね。本当にいい生活させてもらってるよ」
「あはは、俺としては本当に家が広すぎて持て余してたんで、仲の良い人が住んでて賑やかになって嬉しいぐらいですよ。まぁ、それでもまだまだ部屋は余りまくりですけどね」
「リリアちゃんの屋敷と同じサイズだから、そりゃ余るよね。まぁ、使ってない部屋は状態保存してるんだろうし、管理に手間がかかるってわけじゃないんだろうけどね」
「そうですね。かといって、誰にでも貸し出すって気にはならないですしね」
「そこは自宅だしね。よっぽど信用してる相手じゃないと嫌だよね~。むっ? もしかして、いまのは遠回しのアプローチかな? 私も好きだよ~カイトくん」
「酔ってます?」
「そろそろ、ほろ酔いは行けそうな気がするな~」
実際ヴァネッサさんの言う通り、俺が部屋を貸しているのは本当に仲がよくて信頼している相手……まぁ、言い換えれば好きな相手にだけだ。
両親やアニマたち身内以外だと、葵ちゃんと陽菜ちゃん、ヴァネッサさんを含めた五人……あと、カナーリスさん? いや、カナーリスさんはアニマとかと同じく身内のカウントでいいだろう。
そういう意味であれば、ヴァネッサさんの言葉も間違いではないというか、ヴァネッサさんに関して好きか嫌いかで言えば、迷いなく好きだと返答できる。
「……おっ、この貝の乾物美味しいですね」
「お目が高い、それは……えっと、どこで買ったかな?」
「今日買ってきたばっかりじゃないんですか?」
「う~ん、先に買い物してマジックボックスに入れてからカジノに行ったから、カジノの事で頭がいっぱいであんまり覚えてないね。北区画の通りだったと思うけどな~」
「あの辺ってチーズが美味しい店も無かったですっけ?」
「あ~あったね。あのちょっと変わった看板の店でしょ? あそこのは濃厚で美味しいよね。ビールのつまみというよりは、ワインと一緒に楽しむのに向いてる感じの味だけど……」
「ビールだと、スモークチーズとかですか?」
「いいね。スモークしてあると、抜群に合うよね」
こうして飲みながら他愛のない話をしていても、全然会話が途切れないし楽しいので、間違いなく相性もいいと、そんな風に感じた。
シリアス先輩「だいぶいちゃついてんなコイツら……それはそうと、どっかで流れ弾くらったゴッドが悶えてそう」




