同居者④
宅飲み……部屋飲みか? まぁ、俺の所有している家なので宅飲みでも間違いではないと思うが、ヴァネッサさんと飲み始めてある程度経ち、現在ヴァネッサさんの横には空のビール瓶が4本ほど並んでいる。飲むペース早いな……そのうちラッパ飲みとかしそうである。
ただ、ヴァネッサさんとは何度か飲んだことがあるが、まだ全然酔ってはいない……ヴァネッサさんにとってはまだ序の口もいいところの量である。この辺りは「早く酔いたいな~」とか言いながら飲んでいる段階であり、もうしばらくすると「ほろ酔いってところかな~」となり……最後までそのままである。
「いまさらですけど、ヴァネッサさんってお酒に強いですよね? 俺みたいに祝福で無効化していたり、魔法で酔いを醒ましたりってしてるわけじゃないんですよね?」
「うん。まぁ、体質的に強いんだろうね。四分の一ほどドワーフ族の血も入ってるし……まぁ、魔法で酔いを治すのも別にできないわけじゃないから……仕事の前日に飲み過ぎたりしたら、魔法使ってなんとかして匂いも消すけどね。流石に酒臭い状態で仕事するわけにはいかないし」
相変わらず声などはローテンション気味に聞こえるが、若干声が弾んでいる感じなで普通に上機嫌である。そんなヴァネッサさんは、現在は洋室であることに違和感を覚えるぐらいには、畳の居間で酒飲んでるおっさんみたいな雰囲気を出しているが、仕事中は本当にビシっとした感じで隙が無く、出来る女性って雰囲気を漂わせている……まぁ、プライベートはこれであるが。
「そういえば、ヴァネッサさんは他の人みたいに騎士団出身ってわけじゃなくて、王城に居た頃からメイドなんでしたっけ?」
「うん。リリアちゃんが爵位を貰って家を立ち上げる時にさ、国王陛下の許可を得て志願者……まぁ、メイドとか使用人とか募集してて、それに志願して来た感じだね。厳密にいえば違うんだけど、扱い的にはイルネス先生と同じ感じかなぁ」
イルネスさんに関してはリリアさんが頼み込んで一緒に来てもらったらしいが、対外的な扱いとしては新興の公爵家に志願してメイドとして雇われたという形である。
「そういうのって志願する人は多いんですか?」
「う~ん、リリアちゃんのケースは特例だからなぁ。まず新興の貴族家の使用人やメイドの募集事体はあるけど、そういうのは紹介とか世界メイド協会とかからくることが殆どだから、王城で募集がかかるってのはかなり珍しかったね。リリアちゃんは王族で、国王陛下も新しく家を立ち上げるリリアちゃんを心配して、志願制で募集をかけた感じだろうね」
「ああ、ライズさんらしいですね」
たぶんだけど、その頃のタイミングは……騎士団の情報すり替えとかで疑心暗鬼になっていたタイミングだったろうし、ライズさん的には素性とかを調べやすく信頼できる王城内の人員からリリアさんの屋敷の使用人とかを選びたかったんだろう。
ただ一から十まで世話を焼くのはいろいろ立場的な問題とかもあるだろうし、その辺りを考慮して志願制で募集をかけた感じかな?
「結構志願した人は多かったんですか?」
「いや、ほぼ居ないと思うよ。公爵家とは言え新興だし、給料とか安定性で言えば王城勤務の方が上だからね。まぁ、新興で人手不足だからこそ有能さを示せれば重用してもらえる可能性はあるけど、基本的に志願したのはリリアちゃんとかなり親しかった少数だよ。だからこそ、騎士団員から使用人とかメイドに転職した人も多いわけだね」
リリアさんの家の使用人は、元騎士団の人が多いという話は聞いたことがある。メイドも含めてイルネスさんが相当な数を指導したらしく、屋敷内のメイドや使用人はほぼイルネスさんの教え子ともいえる。だからこそイルネスさんをメイド長にって声は多いし、リリアさんもそうしたいとは思っている。
イルネスさん本人にまったくその気がないだけである。
「……なるほど、ヴァネッサさんも王女だった頃のリリアさんと仲がよくて志願した感じなんですね」
「いや、全然。立場上ある程度の付き合いはあったけど、殆ど話したことなかったね~」
「えぇぇ……じゃ、じゃあなんて志願を?」
「楽できると思ったんだよね~新興のバタバタがあるとはいえ、イルネス先生も居るわけだし、適度に緩い感じで仕事できるかな~って……あと、イルネス先生抜けたら、配置変更でベア先輩の下に回されそうだったから……」
「ベア先輩?」
「ベアトリーチェ先輩だよ。いい人なんだけど、自分にも他人にも厳しいタイプだからね」
「ああ、なるほど」
確かに労働はクソだと言っているヴァネッサさんと、心のスーパーメイドとまで呼ばれるベアトリーチェさんの仕事スタンス的な意味での相性は悪そうである。
ただまぁ「ベア先輩」とか呼んでるし、イルネスさんの事を同じような呼び方をしているしで、仲が悪いわけではなさそうである。
「誤算だったな~いや、本当にね。まさか、そもそもメイドが経験の浅い子……というか、イルネス先生に指導されてメイドに成りたての子ばかりで、経験的にも能力的にも私がイルネス先生の次で、イルネス先生が固辞したメイド長の立場に私が据えられるとは……」
「でも、しっかりメイド長としてやってるじゃないですか」
「まぁ、ほら、私は自認もそこそこクズだけど、他人には迷惑かけないタイプのクズだからね。酔ってカイトくんに絡んだりするのは別として……」
「おっと、それは迷惑判定じゃないんですか?」
「私とカイトくんの仲じゃないか~ベタベタしようぜ~」
俺の言葉に緩くそう返した後で、ヴァネッサさんは立ち上がって俺の座っているソファーに来て、俺の隣に座るとワザとらしく肩を組んできた。
Tシャツ一枚しか着ていないことを考慮していない!? いや、分かった上で気にしてないのか……とりあえずそんなことをされると凄く柔らかい感触がして平静を装ってもかなりドキドキする。
「ヴァネッサさん、もう酔ってます?」
「早く酔いたいんだけどね~まだもうちょっとかなぁ」
ヴァネッサさん的にも軽い冗談というかスキンシップの一巻だったみたいで、すぐに肩を離して苦笑した後で再び酒を飲み始めた。
……え? あれ? ……このまま隣で飲む感じで?
シリアス先輩「もうイチャイチャしてない? こいつら、イチャついてるだろ!!」




