同居者②
真昼間から晩酌に誘われてヴァネッサさんの部屋に来たわけだが、いままでも何度か来ているので特別新鮮というわけではないが、相変わらず綺麗に整理整頓された部屋でありプライベートのヴァネッサさんを見ていると、どうしても意外という感想が湧いてくる。
「いつも思いますけど、ヴァネッサさんの部屋って綺麗ですよね」
「ん~ほら、単純に散らかってたり汚かったりする部屋で生活するのが嫌だし、職業柄掃除は得意な方だからね。あ~カイトくん、その辺適当に座って」
プライベートのだらしなさで忘れてしまいがちになるが、ヴァネッサさんは公爵家のメイド長であり、当然ながらメイドとしての技術は高い。
あとついでに、メイド力だとかメイドスピリットだとか、訳の分からないことも言わないので個人的にはメイドとして真っ当に優秀な方だと思う。
まぁ、この世界における真っ当側のメイドは……メイド力とか言う方なのだが……。
そんなことを考えていると、ヴァネッサさんは俺をソファーに座るように促し、部屋に置いてある箱型の魔法具……冷蔵庫のような機能を持った魔法具の方に移動していく。
「ビールでいいよね?」
「ええ、問題な――は? ちょっ、ヴァ、ヴァネッサさん!? なにしてるんですか!」
「え? いや、ビール用意しようと……」
「そうじゃなくて、なんで下! ホットパンツ脱いで下着になってるんですか!!」
それは本当に唐突で、完全に虚を突かれた。冷蔵庫の扉を開けてビールを出そうとしているヴァネッサさんの方に視線を向け、冷蔵庫の中に酒しか入って無いなとそんな感想を抱いた直後、ヴァネッサさんのホットパンツが消えて黒い下着と形の良い綺麗な臀部をハッキリと見てしまった。
「……いや、だって晩酌するのにホットパンツは窮屈だし、部屋でくつろいでる時はだいたいこの格好だし」
「いやいや、いまは俺も居るんですが!?」
「別に私は君が相手なら気にしないんだけど……あ~まぁ、君の方が気になるならシャツの方大きくしよっか……じゃ、こんな感じで」
ヴァネッサさんが相変わらずのローテンションで告げた直後、着ていたTシャツの裾が膝ぐらいまで伸びた……これはこれでいかがわしい格好に見えるのだが、ま、まぁ、さっきよりはマシか……。
そしてヴァネッサさんは、瓶ビールを数本手に持ち、ついでにたばこ用の風を操作する魔法具を持って俺の向かいのソファーに座り、テーブルの上に瓶を置く。
「つまみはさっき買ってきたやつを……」
「おっ、スルメですか……いろいろありますね」
「シンプルだけど、やっぱり酒にはこれだよね。調理の手間もないから楽だしね」
丸ごとのスルメもあれば裂きイカもある。あとたぶんイカじゃなくてタコとか、魚……見た目はエイヒレっぽいけど、とにかく結構な種類と量である。どうやら相当ガッツリ飲む気だったみたいだ。
いまも普通に瓶ビール四本持ってきてるし、スタートから四本テーブルに置いてるってことは、ハイペースでの向きなのだろう。
「はい、カイトくんコップ」
「あ、ありがとうございます」
「零れたらごめんね~」
ヴァネッサさんは俺にコップを手渡して、瓶ビールの蓋を親指で軽く外して注いでくれる。物凄く普通に栓抜き使わずに指で外してるところを見る限り、なんだかんだでメイドという名の超人のひとりである。
「じゃ、かんぱ~い」
「乾杯」
「……んぐ……ぷはぁっ! 冷えてるビールは最高だね。ああ、カイトくんも好きに摘まんでくれていいからね」
軽くグラスを合わせると、そのままコップに注がれたビールを一気の飲み干して幸せそうな笑顔を浮かべ、あたりめを手に取って咥える……公爵家メイド長の姿か、これが? 完全に週末のおっさんではなかろうか……。
「……結構のど越しが爽やかなビールですね」
「いい味だよね。私もこのビールはお気に入りだよ。どこで売ってるビールか忘れたけど……」
「えぇぇ……」
「いや、基本的に見かけたら買って冷蔵魔法具に放り込むからさ、どこでどれを買ったとか覚えてないんだよね。まぁ、安酒なんて飲んで美味しければそれでいいよ」
ヴァネッサさんはそう言いつつ、息をするかのような自然な動作でタバコを咥えて火をつける。魔法具のおかげでこちらに煙とかはこないのだが、昼間だけど完全に休み前の晩酌スタイルである。
まぁ、それはいいんだけど、無造作にソファーの上に足上げたりしないで欲しい。いまの自分の格好が結構危うい感じだと自覚を……いや、この人の場合自覚した上で気にしてないのだが……。
「ヴァネッサさんはビールが好きですよね」
「冷えてるのが好みだね。エールよりはラガーがいいね。苦味ある方が好きなんだよ」
「俺もビールで言えば、ラガーの方が好みですね」
「気が合うね~。それにやっぱ、安酒は気を使わなくていいからいいよね。ほら、なんていうのかな、高級なワインとかも美味しいけどさ、ああいうのって飲み方にもある程度の気品が求められるって言うか、気楽にごくごく飲めないのがね~」
「確かにワインとかって上品なイメージがあって、飲む時とかに少し背筋が伸びる気はしますね」
「そうそう、そういう意味だと雑に飲める酒が好きだね~。やっぱ気が合うね、カイトくん。ちゅーしてあげよっか?」
「もう酔ってます?」
「早く酔いたいけど、まだまだかな~」
ケラケラと表情はどこか気だるげな雰囲気ながら、それでも楽しそうに笑うヴァネッサさんは、なんというかやっぱり気軽に話しやすい相手な気はする。
頭に「駄目な」とオプションは付くが、気安い年上のお姉さんって感じの強い人である。
シリアス先輩「……アレだろ、コイツ気楽な雰囲気で誤魔化してるけど、快人に対する好感度かなり高いやつだろ……知ってるぞ、私は詳しいんだ!」




