茶会の話~胃痛なる者⑰~
ジム体験から数日が経ち、ハミルトン侯爵家にてもはや恒例となりつつある家族会議という名の快人対策会議が開かれていた。
とはいえ今回に関していえば、緊急で会議を行う必要がある議題は無く、ハミルトン侯爵夫妻とエリスの三人の予定が合う日に行われていた。
「……という形で、カイト様と共にニーズベルト様が今後展開していく予定のジムという施設を体験させていただき、その際に竜王マグナウェル様と挨拶をして、名前を憶えていただいた形になります」
「そうか……事前に簡単な報告は聞いていたが……なんというか、六王様と会うなど本来であればそうそうありぬ話ではあるのだが、ミヤマカイト様が関わっているならまぁそうなるかと、納得し始めている己が恐ろしいな」
「貴方だけではありませんよ。私もエリスの報告を聞いて、今回は即座に影響があるようなものが無くてホッとしていましたが……よくよく考えれば、竜王様と知り合った時点でとてつもないことですね」
マグナウェルと会ったという報告を聞いて、もちろんそれ自体には驚いたし今後意識して対応していく必要はある。マグナウェルはアルクレシア帝国に対する影響力はかなり大きく、非常に重要な繋がりであるのは間違いない。
それでも、それでもである……ある種快人の発生させる事体に毒されてきたのか、少なくとも即座に胃にダメージがくるような事態では無かったので、まだマシだと感じ始めてしまっていた。
もちろんマグナウェルと直接会ったエリスはかなり胃を痛めたのだが、それでも即座になにかしらの取引や交流が始まるわけではなく、あくまでマグナウェルが今後の付き合いも見据えて名を覚えてくれたという形だ。
今後それが原因でなにかしら大きな影響が出る可能性はあるが、それでもこれまでの嵐のような報告と比較すれはかなり胃に優しいと言える。
……もちろん……そんな風に気を緩めたら、別の方向から刺されるのだが……。
どこか穏やかな空気も流れ始めていた家族会議の場に、ノックの音と共にエリス付きのメイドが入室してきた。
「……お話し中失礼いたします。エリスお嬢様に、ミヤマカイト様からのお手紙が届きました」
当然ではあるが快人からの手紙は最優先事項であり、会議中の入室もまったく問題ない。というよりは、快人に関わる用件の場合は入室許可を待たずに入ってもいいと事前に通達すら出ているほどだ。
「……カイト様から……確認しますね」
エリスがそう告げるとハミルトン侯爵夫妻も静かに頷く。封を開けて手紙を少し恐る恐るといった様子で確認するエリスだったが、すぐになにかに思い至ったような表情になった。
「……ああ、なるほど、こちらの手紙は以前話していたカイト様主催で開催される茶会に関して、本格的な日程はまだ決まっていないようですが、参加者は確定したのでその連絡のようですね」
「エリスが招待される例の茶会か……事前に参加者を知らせてくださるのはありがたいな。それならば、事前に対策や心の準備ができるだろう」
「ええ、クロムエイナ様とシャローヴァナル様が確定している時点で胃はとても痛いですが、それでも事前に分かっているのは心のゆとりが……心の……」
茶会の事を考えると胃は痛いが、それはそれとして事前に参加者が知れるのはありがたいと苦笑しながら手紙を読み進めていたエリスだったが、途中で笑顔は消え……サァッと血の気が引くように顔が青を通り越して白くなっていき、ガタガタと座っている椅子が音を立てるほどに震えだした。
それは感情を律して冷静に務めるべき貴族令嬢としてはあるまじき、両親から厳しく叱咤されてもおかしくないほどに動揺が表に出ている。
だが、ハミルトン侯爵も夫人もエリスを咎めようとは欠片も思わなかった。なぜならふたりとも分っているから、これはエリスが未熟だから大げさなほどに動揺しているというわけではない……優秀で自慢の娘であるエリスであっても、動揺を抑えることが出来ないほどの内容が手紙に書かれているということに他ならないのだから……。
「も、もも、申し訳ありません。こ、このような醜態を……」
「い、いや、構わない……そ、それほどの面子なのか?」
いまだに震えが収まらずに告げるエリスに、ハミルトン侯爵は問題ないと伝えつつ暗に続きを促す。これから地獄の底を見るというような、覚悟と恐怖が一体になった表情で……。
「……ま、まず、人族の参加者は私を含めて三人、私とリリア公爵とクリス陛下です」
「の、残りは?」
「事前に確定していた冥王クロムエイナ様、創造神シャローヴァナル様の他に……エデン様こと、マキナ様」
「そ、そこまでは、我々も予想していたが……」
「そして……教主オリビア様」
「「!?」」
「……異世界の神であらせられるイレクトローネ様」
「「!?!?」」
「……さらに別の世界の神であらせられるティアナ様」
「「!?!?!?」」
「……いまはカイト様に仕えられている元異世界の神たるカナーリス様……い、以上です」
「「……」」
絶句という言葉がここまで似合う顔は無いと言わんばかりに、ハミルトン侯爵夫妻は唖然とした表情を浮かべていた。
三人の間に、あまりに重い沈黙が流れ……ポツリとハミルトン侯爵が呟く。
「……その神々の祭典は……ただの人間が参加していいものなのか?」
「……むしろ駄目だと言われたいです……本当に……心から……」
ハミルトン侯爵の言葉に、エリスは絶望に染まり切った表情とハイライトの消えた目で虚空を見つめて呟いた。
シリアス先輩「……そうね。茶会ってタイトル入ってるもんね……胃痛回避から別ターゲットに飛び火したと思わせておいて、そっちは早急にアリスが動いて助けて……フェイントで油断させてから胃をすり潰してきた。まさに悪魔……」




