茶会の話~胃痛なる者⑯~
戦王メギド、竜王マグナウェルという六王ふたりの襲来で、早々から香織の胃はノックアウト寸前ではあったが、それでもプロとしての意地なのかふたりから注文を取って料理の準備をする。
メギドもマグナウェルも大量に食べたりというよりは、食事はそこそこで酒をというタイプだったので、以前メギドに出したことがある熱燗とつまみとして料理をいくらか出す。
ちなみに店内にいた客はそそくさと食べ終えて店を出ており、元々ピーク時は過ぎていたこともあって現在の店内は香織と六王ふたりだけという、大変に胃に厳しい状態だった。
「……ほぅ、これは悪くないのぅ。この酒は抜群に美味い」
「ああ、マグナウェルはこのタイプの酒が好みか……ノインとかが作って取り扱ってたぜ。飲み方としてはワインに近いか? 大量に飲む感じじゃなくて、チビチビ飲むタイプの酒だな」
「うむ。ワシにとって食事や飲食は嗜好の範囲。別に大量に飲む必要は無いからのぅ、こうして小さな盃で少しずつ香りを楽しみながら飲むのがよい。ミズハラカオリよ、実によい仕事じゃ」
「あ、ありがとうございます」
マグナウェルは熱燗を気に入ったらしく、どこか満足げな表情で猪口を傾けていた。それはいい、それは問題ないのだが……こちらに話しかけてくるのは止めて欲しいと思うのが香織の本心だった。
なにせいまは、快人という防波堤ともいえる存在が居ないのだ。なにか粗相でもあったらと思うと、まともに受け答えができる気がしない。
というよりも六王ふたりと間近で接している事態で、魔力による圧も凄まじいし、胃も締めあげられるように痛く眩暈すらしてきた。
(だ、誰か、助けてぇぇ……)
ともかく、心に安心が欲しい。対応間違えたらデッドエンドなんじゃないかと思うような状況から脱したいと、そう切に願う香織の祈りに呼応するかのように……救いとなる存在が現れた。
「……なるほど、こういう状況でしたか」
「お、オリビア様ぁ……」
扉が開く音が聞こえてそちらに視線を向けると、そこには既に昼に来店して昼食を終えたはずのオリビアが居た。なぜ、既に一度来店して帰ったはずのオリビアが再び店に来たのかは分からないが、香織にとっては本当にありがたい登場だった。
「あん? オリビアじゃねぇか」
「奇遇じゃの」
「そうですね。ですが、私のことは気にしなくて結構、そのまま食事を続けてください」
メギドとマグナウェルの言葉に淡々と「これ以上特に会話する気は無い」という意味の言葉を告げた後、カウンターの席に座る。
「とりあえず、あのふたりが帰るまではここに居ましょう」
「ほ、本当に助かります。オリビア様が来てくれてよかった」
心の底から安堵したように呟く香織……実際ここでオリビアの存在は大きい。オリビアはメギドやマグナウェルにも正面から意見などを言える存在であり、また同時に強者でありながらメギドが絶対に喧嘩を売らない相手のうちのひとりでもあるのだ。
理由は単純で、オリビアは三界の中立という特殊な立ち位置の存在であり、デリケートな立ち位置の存在だ。彼女と六王が揉めれば大問題のため、メギドはクロムエイナからオリビアには絶対に喧嘩を売ったりしないようにとそれはもうキツク言われているので、やらかせば待つのはガチの説教であるため、メギドがオリビアに喧嘩を売ることはない。
マグナウェルは元々喧嘩っ早い性格ではなく、対立も問題だが親しくしすぎても問題であるオリビアに積極的に話しかけることも無いため、オリビアが六王ふたりと香織の間の席に居るというのは、香織を守る強固な壁としてしっかり機能していた。
香織にしてみれば、本当に地獄で仏を見た思いではあるのだが、疑問はやはりオリビアがなぜこのタイミングでこの場に来たのかということで、喜びつつも首をかしげていた。
時は少し遡り、六王ふたりの来店に香織が心の中で悲鳴を上げていた頃、友好都市ヒカリの中央大聖堂の最奥……教主の間では、祈りを行っていたオリビアがピクリと表情を動かして立ち上がり、入り口の方を見る。
すると直後に空間にノイズが走るように景色がブレ、アリスが姿を現した。
「……幻王ノーフェイス……いえ、その姿の際はアリスでしたか? なにか御用ですか?」
「いやまぁ、さすがに不意打ち過ぎて可哀そうなので助けてあげようかと……というわけで、オリビアさんはさっさと水蓮に行ってください」
「ミズハラカオリの店に? なぜ?」
「行けば分かりますよ」
突然現れたアリスの言葉にオリビアは首をかしげるが、アリスは必要なことは伝えたと言わんばかりに姿を消した。
それを見送ってからオリビアは意識を水蓮の方に向ける。彼女はその気になれば友好都市内で起こっていることを把握するのは容易い。
「……これは、ミズハラカオリの店に戦王メギドと竜王マグナウェル? ……ミヤマカイト様の気配は感じませんね。このふたりによってミズハラカオリが困っているということでしょうか? ……足を運べば分る話ですね」
そう呟いたあとでオリビアは神官に出かけてくる旨を伝えて水蓮に向かい。店内で委縮して青ざめている様子の香織を見て状況を察し、防波堤となることを選択した。
シリアス先輩「おっ、助けてあげるのか……」
???「いや、カイトさん付きで行ってるなら、なにかあってもカイトさんがなんとかするので私は美味しくワイン飲んでますが、カイトさん無しの状況でゴリラは危険なので、カオリさんは気に入られてるので問題は無いとして、他の客と揉める可能性もありますからね」




