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空中庭園だった



「神殿ってどんな所なんでしょうね?」

「う~ん。勝手な想像だけど、やっぱりギリシャ的な?」

「またもの凄い大雑把なイメージですね……分からなくはないですが……」


 馬車の窓を眺めながらやや高めのテンションで話しかけてくる柚木さんと、冷静ながら自然と会話に加わっている楠さん。

 う~ん。やっぱり白米の力は偉大なのだろう、今までちょっとギクシャクしてたのが嘘の様に、スムーズに会話が行えている気がする。これは、アレか? 俺のコミュ力がレベルアップして、少し社交的になった感じだろうか?


 今俺達は朝食を食べた後で小休止を挟み、祝福とやらを受ける為に神様の住む神殿へと向かっていた。


「そう言えば、リリアさん。聞き忘れてましたけど、祝福って具体的には何をするんですか?」

「あ、それ私も気になってました!」

「そうですね。簡単に言ってしまえば、神様の加護を得る……一種の防御魔法の様な物をかけていただくと考えるのが分かりやすいですかね? 今回向かっているのが健康を司る神殿ですから、病気を防ぐ魔法みたいなイメージを持っていただければ大丈夫です」


 成程、その辺りは概ねイメージ通りと言っても良いかもしれない。

 そして神官による祝福、つまり一般人が受けるものに関しては基本的におまじない程度の効果だが、神様が直接行うものに関しては明確な効果が得られるらしい。

 ただし、有料――もう一度言う。有料らしい。俗っぽいな神様……


「「「……」」」

「……えと、言いたい事は分かりますが……それが神殿の主な収入源なので……」

「ちなみに神官による祝福は一律鉄貨1枚。神様による祝福は、それを行う神様の格にもよりますが平均して金貨1枚です」


 ええと、鉄貨が確か10Rだから……神官による祝福は一人1000円くらい。神様による祝福は、何と10000R――100万円である。そりゃ貴族じゃないと受けられないわ。


「更に補足ですが、今回は健康を司る神様より祝福なので金貨1枚ですが、以前お嬢様が受けた恋愛を司る神様の祝福は金貨5枚でした」

「「「高ッ!?」」」

「る、ルナッ!?」

「……残念ながら効果は無かったみたいですがね」

「ぐ、ぬぬぬ……」


 もはや恒例と言えるルナマリアさんの余計な一言補足により、リリアさんの顔はみるみる赤く染まっていく。

 可愛らしいが、馬車内の雰囲気が――あ、そう言えばさっきの話で気になる所があったし、ここは話題を逸らす為にもそれを……


「と、ところで! さっき、神様の格ってお話が出てきましたけど、神様にも階級みたいなのがあるんですか?」

「ル――え? ええ……下級神、上級神、最高神と三つの格と呼ばれる階級がありまして、その上に立つのが創造神様ですね。基本的に人界に神殿を構えているのは下級神の方々で、上級神様の祝福等になると金銭以前に神界からの評価が重要ですので、受けられるのは国王ぐらいの物です」


 どうやら上手く話を逸らせた様で、リリアさんはルナマリアさんへの文句を止め俺の質問に応えてくれる。いや、別にルナマリアさんを助けた訳じゃなく馬車内の雰囲気が悪くならない為に話を切り替えようとしたのであって……サムズアップするな、駄メイド!


「最高神様――時、運命、生命を司る三大神様に関しては、祝福以前に勇者祭以外の場でご尊顔を見る事はまず叶わないでしょう。極稀に人界に出向く事もある様なので、余程運が良ければ別ですが……」


 確かに時の神様だとか運命の神様だとかって言葉だけで、もうとんでもない存在というのは伝わってくる。

 しかし改めて考えてみると、六王に三大神、創造神とそうそうたる顔触れが揃う勇者祭ってのは、本当にどれだけの規模のお祭りになるんだろう? 楽しみな様な、恐ろしい様な……















 程なくして馬車は見るからに巨大で荘厳な神殿の前に到着した訳だが……


「……物凄い人ですね」


 呟く様な楠さんの声を聞き、俺も目の前の光景を見ながら無言で頷く。

 確かによく考えてみれば、この祝福は日本で言う所の初詣みたいなものな訳で、それをしっかりイメージしておけばこの光景は想像できた筈。

 そんな風に納得しかけていると、意外な事にリリアさん達も非常に驚いた表情を浮かべていた。


「これは……どういう事でしょう?」

「確かに、妙ですね。確認してきます」


 その言葉と共にルナマリアさんが動き出し、少し離れた場所に居たシスターの様な服を着た……おそらく神官だろうか? そちらに事情確認に向かう。


「あの、リリアさん。この物凄い人だかりって、普通とは違うんですか?」

「ええ、街にある教会等ならともかく、ここは本殿です。この時期ここに足を運ぶのは普通神様から祝福を受ける貴族が大半……しかも通常新年4日目が一番混み合う日なので、態々その日を外して5日目の今日にした筈なんですが……」

「混んでる日を避けようとするのは、皆同じって事ですかね?」

「……だとしても、この5日目は通常もっと閑散としてる筈なんですよ。毎年この5日目は王宮に上級神様が招かれ、国王に対して祝福を行う日なので……滅多にない上級神様のお姿を見られる機会とあって、王宮に多くの貴族や神官が集まる筈なんですが……」


 成程、貴族って言うのは横の繋がりを大切にするイメージがあるし、通常人界に住んでいない上級神と知り合えるかもしれない機会は貴重。となればこぞって王宮に向かうのは納得できる。

 だからこそ態々リリアさんは一番神殿が空くであろうこの日に俺達の祝福をすませてしまおうって考えたんだろうけど、実際訪れてみれば予想外に混雑していたって事か……


 そうしてリリアさんから説明を受けていると、ルナマリアさんがどこか慌てた様な表情で戻ってきた。


「お嬢様! 原因が分かりました……どうも、とんでもないタイミングで来てしまったみたいです」

「どういう事ですか?」

「実は確定という訳ではなく、あくまで噂程度ではあるらしいんですが……今日ここに『時の女神様』が立ち寄るかもしれないと……」

「時の女神様が!?」


 時の女神というと、確か神界で創造神に次ぐ力を持った三体の最高神の内の一神だった筈。


「ええ、神官の方も事情を詳しくは知らないらしいのですが……おそらく今回通常とは異なる事態が発生した召喚魔法陣の確認に訪れ、そのついでにこの地の神々の様子も見に来るのではないかと……」

「成程……それで近隣の貴族だけでなく、神官もこれだけの数が……参りましたね。これは流石に予想外でした」

「出直す……という訳にも行きませんね。もう神殿には公爵家の名前で訪問を伝えていますし……」

「ええ、流石に祝福を受けない者は本殿の中までは入ってないでしょうし、一先ず本殿に向かいましょう」


 たぶんだけど上級神と最高神の間にはかなり大きな差があるのだろう。毎年必ず王宮を訪れる上級神より、確実ではないものの勇者祭以外では先ずお目にかかれない最高神を見ようと考える人は多いのかもしれない。

 特に神に仕える神官たちにとっては、他事を投げ出してでも駆け付けておきたい状況なのかもしれない。

















 そこまで長い距離ではなかった筈だが、凄まじい人ゴミを抜けて神殿に辿り着くのにはかなりの体力を使い、移動するだけで中々の疲労感だった。


「うへぇ……人の多さに酔いそうです」

「ヒナさんの気持ちはよく分かります。私も流石にこれは……」

「噂程度とはいえ、あわよくば最高神様に顔を覚えてもらえるかもしれない機会。そもそも最高神様が勇者祭以外で人界を訪れる事自体が異例中の異例とあっては、いたしかたない状況なのかもしれませんね」


 うんざりしたように呟く柚木さんの言葉に、流石のリリアさんも疲れた様子で同意の言葉を返す。


「楠さんも、大丈夫?」

「ええ、ありがとうございます。宮間さんが前を歩いてくれて助かりました」


 流石に神殿の中はリリアさんの言った通り、外程大量の人が居る訳ではなかったが、それでも通常に比べれば数倍の人数が居るらしい。

 特に俺が見た印象では神官らしき人の数が多いように感じたし、どの人も目に見えて気を張っている様子に見える。これは最高神が訪れるという噂に、かなり信憑性が出てきたかもしれない。


 とは言えあくまで通常通り祝福は行っているらしく、リリアさんとルナマリアさんが手続きを行い。俺達は神官に案内されて移動、途中で俺だけリリアさん達とは別れて移動する事になる。

 というのも、どうやら祝福を受ける際には専用の法衣を着る決まりがあるとの事で、着替え等がある為男女は別になる。

 態々男女を分ける事から薄着である事は予想できたが、実際案内された部屋で着替えてみると上質なシルクに似た素材で作られた肌着に近い服だった。


 別に透けていたりする訳ではないが、白色の薄着という事もあって結構体のラインが分かる服装で……正直、リリアさん達がこれを着た姿を見る事が出来ないのは残念だ。

 しかもこの後は広めの部屋で待機して順々に呼ばれて祝福を受けるらしい。という事は必然的に、俺がこれから案内される場所には、現在俺が着ている白いワンピースみたいな法衣に身を包んだ男が沢山いる訳で……何と言うか、もう今すぐ引き返したい気持ちでいっぱいだ。


 案内してくれた神官の方に聞いてみた所、流石にすし詰めの様な状態ではないみたいだが、数十人は順番待ちをしているらしく1時間以上待つのは確定らしい。もうそれ、祝福どころか殆ど拷問だよ。

 広間への扉の前まで来ると、神官の男性は次の案内があるらしく深く頭を下げて早々に去っていった。

 俺は正直この男の園への扉を開かずに帰りたい気持ちでいっぱいになりながらも、何度か深呼吸を行い覚悟を決め扉を開いて中に入る。


「……」


 中に入った俺の目の前に広がった光景は、正しく男の園――ではなかった。

 優しく吹く風が心地よく頬を撫で、花の香りを優しく運んでくる。


「……は?」


 眼前には色とりどりの花々が美しく咲き、視線を動かせば青い空と大地の境が見える。大地を見下ろす様な美しくも荘厳な雰囲気を漂わせる景色……


「え? えぇぇぇぇ!?」


 思わずあげた叫び声に誰かが反応する事は無かった。というか、俺以外誰もいない様にさえ見える。


 拝啓、母さん、父さん――祝福を受けに神殿を訪れたんだけど、扉を開くとそこは広間じゃなくて――空中庭園だった。


 




 


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