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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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閑話・楠葵~鳥籠の初恋~

 楠さんと意外な共通点が発覚した事で、話は思っていた以上に弾み、二人とはかなり打ち解ける事が出来たんじゃないかと思う。まぁ、柚木さんはネットゲームの話にはついてこれず、若干不貞腐れていたけど……
 楠さんは意外なことにそのネットゲームを小学生の頃からプレイしていたらしく、通算の年数で言えば大学進学と同時に引退した俺より長い位だった。
 ただやはり真面目な性格なのか、日に1時間程度しか接続はしないライトユーザーだったみたいで、レベル的には俺の方が大分高そうで、ちょっとばかし過去の自分を反省した。
 小学生の頃からネットゲームというのは驚いた事は驚いたが、実際俺がプレイした頃もそう言うプレイヤーを見かけたり、話を聞いたりした事もあるし、仲が良かったプレイヤーにも居た……思い出すと懐かしくなってきた。

 偶然見かけた初心者の子で、色々教えている内に随分懐かれて仲良くなった子が居た。非常に丁寧な敬語でチャットをしていた事もあり、覚えも良く考え方もしっかりしていて聡明な印象だったので近い年齢か年上かと思ってて、年齢が11歳と聞いた時には本気で驚いた覚えがある。
 俺が引退する時も、かなり別れを惜しみながらも応援してくれたっけ……あの子は今どうしてるんだろう? まだあのゲームを続けてるのか、それとも俺と同じ様に引退したのか……親しかったとは言っても、所詮はネット上だけの付き合いだったし、今となっては確認する方法も無いけど、元気にしてると良いな。

 っとそんな事を考えていると、いつの間にか日付が変わりそうな時間になっていた。明日は神殿に出かけるという事もあり、過去を懐かしむ頭を切り替えてベットに入ることにした。






















 恵まれた家庭に、恵まれた環境――それが世間から見た私に対する評価だと思う。
 楠グループというそれなりに大きな会社を経営する家に一人娘として生まれ、幼い頃から様々な物を与えられた私は恵まれていたのかもしれない、だけど私にとって家の環境とは決して気の休まるものでは無かった。
 物心付いた時から、片手で数えては足りない数の習い事をし、同世代の子達が外で仲良く遊んでいる時も、家で勉強ばかりの毎日で酷く窮屈だった。
 何より周りが私を見る目、浮かべる愛想笑い……それが凄く嫌いだった。

 皆私を見ていない。私じゃ無く『楠家の娘』という目で見る。それがどうしようもなく嫌だった。
 物は沢山あっても自由は無い鳥籠――それが私自身が思っていた自分の環境だった。

 ネットゲームを始めたのは、そんな日々の中でのちょっとした息抜きだった。習い事を終え、夕食を食べてお風呂に入り、就寝するまでのほんの30分から1時間という短い時間。当時の私にとって貴重とも言える自由な時間に、ネットゲームという遊びを選んだのは……有体に言えば『理想の自分になれる場所』というキャッチコピーに惹かれたからだった。

 自分じゃない自分という言葉を意識して、性別も男性のキャラクターで作成し、いざ遊んでみた訳だが……何分ネットゲームはおろかこの手のゲームをプレイする事自体が初めてだった事もあり、正直初めは楽しい楽しくない以前に何をすればいいのか分からなかった。
 公式サイトのヘルプを見てもイマイチ分かり辛く、専門用語も多くゲーム内のチャットも訳の分からない話が飛び交っており、当然ながらそれが聞ける知り合いもおらずスタート地点の街で既に困り果ててしまっていた。

 そんな時に出会ったのが――『あの人』だった。
 見るからに強そうな装備を付けたその人は、困り果てていた私に声をかけてくれて、ネットゲームもチャットも初めて尽くしの私に親身になって世話を焼いてくれた。
 ゲームの事は勿論、ネット上での専門用語や暗黙のルール等、文字を打つのも遅い私に優しく丁寧に指導してくれ、お陰で段々とまともにゲームがプレイできるようになり、そのネットゲームを楽しむ事が出来る様になれた。

 慣れてくるとネットゲームは本当に楽しかった。そこでは誰も私を楠家の娘なんてフィルターを付けては見ず、私自身を見てくれ、幼い私にとってそれはたまらなく嬉しく、一日ほんの30分から1時間の息抜きの時間が何より楽しみな時間になった。
 特に最初に色々教えてくれたあの人は、レベルの引っ張り上げみたいなのを私が嫌がった事もあって、態々新しく低レベルのキャラクターを作成してくれ、私とレベルを合わせて公平パーティを組んでいつも一緒に遊んでくれた。
 私が接続すると迎えに来てくれて、プレイも下手で知識も無い私に文句の一つも言わず、色んな狩場に連れて行ってくれ、雑談や愚痴と言った他愛の無い話も沢山聞いてくれた。

 ……その人と一緒に居る時間が一番楽しかった。優しくて頼りになって、でもどこかのんびりしてて、一緒に居てホッとできる人。兄弟のいなかった私は、もしお兄ちゃんが居たとしたらこんな感じだろうかと考えていた。
 今になって思い返してみれば、それが私の――初恋だった。
 白状してしまえば、当時の私はネットゲームで遊ぶ為に接続していたというよりは、その人に会いたくてネットゲームをしていたという方が正しい状態だった。
 とは言え当時の私にそう言った恋愛という感覚は無く、優しいお兄ちゃんと一緒に遊びたいという感覚だった訳だけど……
 実際の顔も名前も知らない相手に恋というのも、口にしてみれば変な話なのかもしれないけど、結局今の私が思い描く恋愛対象の理想像は優しくて頼りになる年上の男性……つまるところ、あの人みたいな人なので、たぶん間違いないと思う。
 ともかく当時の私にとって、あの人と話している時間が一番楽しく幸せなひと時だった事は間違いない。

 けどそんな幸せな時間も唐突に終わりを迎えた。あの人から現実世界の都合で引退をすると聞かされた時は、頭の中が真っ白になる程ショックだった。
 我儘を言って迷惑をかけたくなくて当たり障りの無い応援の言葉を伝えたけど、本音を言えば辞めて欲しく無かった。ずっと一緒に居て欲しかった。
 けど結局何も言えないまま時間は過ぎていき、3年前の春にその人はネットゲームの世界から居なくなってしまった。

 その人が最後に接続した日には、私は生まれて初めて夜更かしをした。少しでも長くその人と話していたかったから……
 あの人も私との別れを惜しんでくれ、今まで使っていた高価な装備や沢山のアイテムを貰った。当時の私では手に入れるなんて夢のまた夢と言えるほどレアなアイテムだったけど、少しも嬉しくは無く、ただただ悲しかった。
 あの人が居なくなったゲームの画面を見つめながら涙を流し、ようやくそこで自分にとってあの人の存在がどれだけ大きかったのかを知り、同時にいつも自分の話ばかりを聞いてもらってあの人の事をロクに知らなかった事を後悔した。

 その後、高校生になり将来に対して必要な物を理解出来る様になった為か、それとも曲りなりにも優秀と呼ばれる成績を維持できているからか、習い事の数も減って両親もアレコレと私に制限を付ける事も無くなり、部活を頑張れる程度には自由な時間も増えてきた。
 陽菜ちゃんを初め、友達と呼べる人も沢山できて毎日は本当に充実していると言って良い。
 でも、私は今もそのネットゲームは変わらず毎日30分から1時間ずつ接続を続けている。自分でも未練がましいとは思うけど、もしかしていつかひょっこりあの人が戻ってくるんじゃないかと、そんな淡い期待を抱いて……














 明りを消してベットに入り、窓から微かに差し込む月明かりを目に映す。
 今日は色々な事があった。王宮でのパーティもそうだけど、今まであまり話す機会の無かった宮間さんと多く言葉を交わせたのは良かったと思う。

 正直言って今までは、宮間さんに対しての距離感と言えば良いのか、それを掴み辛く感じていた部分があった。
 私や陽菜ちゃん、光永君と同じくこの異世界に召喚された人で、私達の中では一番の年長者……強いて言うのであれば、何を考えているのか分からない人というのが今まで私が宮間さんに対して抱いていた感想だった。
 良く言えば冷静、悪く言えば淡白とでも言うのだろうか……突然の異常事態の筈なのにどこか落ち着いて見えて、リリアさん達の話に率先して質問をしてくれたりする反面自分の事は全然話さなくて、何て言えば良いのかよく分からないけど、早々にリリアさんやルナマリアさんに対してだけでなく、私達に対しても当り前の様に一歩引いた壁を作り、冷めた様に接してるみたいに感じて……正直、少し怖かった。

 けどその印象は今日の事でかなり大きく変わったと言って良い。自分の得た情報を色々私達に説明してくれたり、殆ど話していない光永君の事を案じていたり、今までずっと冷めた様に落ち着いていた表情が今日は色々変化していて、宮間さんという人物がようやく見えてきたように感じた。
 特に印象的だったのが、お米を見てはしゃぐ陽菜ちゃんにお茶を差し出す時の表情――妹を見る様に穏やかに微笑みを浮かべたその顔を見て、根は優しい人なんだって感じられた。
 そしてゲームの話題に付いてこれず不貞腐れていた陽菜ちゃんに対し、困った様に苦笑を浮かべながら色々丁寧に教えてあげている姿を見て、あの人の事を思い出した。

 もしかしたら、今まで冷めた様に見えていたのは宮間さんも色々な事態に巻き込まれて混乱してて、それを私達が見て不安にならない様にあえてそうしてたのかもしれない。そう感じる程、今日の宮間さんの印象は今までと違って見えた。
 少なくとも今日の宮間さんは、年長者らしくどこか頼りがいがあって……勝手な想像で怖がっていた事を申し訳なく感じた。

 変にアレコレ深読みして警戒してしまうのは私の悪い癖なのかもしれない。実際宮間さんとゲームの話をしていて想像以上に会話が弾み、話がしやすい人だと感じた。やっぱり、実際ちゃんと話してみないとその相手の事はよく分からないものって事なんだろう。
 何と言うか我ながら極端というか単純というか……何故だか自分でもよく分からないけど、今日少し長く話しただけで、宮間さんに対する印象は随分良い物へと変化した気がする。

 そんな事を考えながら訪れる眠気に従って瞼を落とそうとした時、またあの人の事を思い出した。

「……『シェルさん』」

 本当の名前も顔も何も知らない初恋の相手。あの人と過ごした時間は今でも私の心に残る大切な思い出で、あの人が残した装備やアイテムは一切手つかずのまま、大切にネットゲームの倉庫に保管している。いつあの人が帰ってきても良い様に……

 それでも三年という月日が流れ、最近は思い出す事も減っていた筈だけど……今日は何度もあの人の事を思い出してしまうのは何でだろう? 
 久しぶりにあのネットゲームの話をしたから? ううん、たぶん違う。
 ああ、そうか……似てたんだ。陽菜ちゃんにゲームの事を色々教えてる宮間さんの様子が、どこか思い出のあの人に重なって見えたから……

 そう言えば、シェルさんも宮間さんと同じで私より4つか5つ上だったような……ハンドルネームは本名から取ったって言ってたっけ?
 宮間快人――快人――貝――貝殻――シェル?

「ふふふ」

 流石にそれは、都合よく考えすぎかな? けど、なんだか今日は良い夢が見られそう。

 思わず口元から自嘲気味に笑みが零れ、どこか暖かさを感じながら私の意識はまどろみに沈んでいった。

 

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