挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

19/524

友達が出来たよ

 どの位時間が経っただろうか、目を覚まして再びバーベキューの続きに参加し雑談を交わし、気が付いた時にはあっという間に時間は過ぎていた。
 後片付けを手伝おうかと考えたけど、既にアインさんの手により塵一つ現地には残っておらず思わず苦笑を浮かべていると、ノインさんが声をかけてくる。

「宮間さん。よろしければ、お土産を用意してますので……先ずはこれをどうぞ」
「何ですかこれ?」

 アインさんから手渡されたのは黒く四角いブロック状の宝石? 形以外に特に何の変哲も無いように思える。

「これは、そうですね……簡単に言えば持ち運びできる蔵の様なものですね。空間魔法と状態保存の魔法がかかっていて様々な物を保管する事が出来ます」
「……それって、物凄い物なんじゃ……」

 つまり、アレか! 異世界物には必須とも言えるアイテムボックス! 成程、アインさんが一瞬で色々な物を用意したりしてたのは、こう言う感じの魔法具を使ってたからだったのか……でも、これお高いんじゃ?

「いやいや、それほど大したものでもありませんぞ。ワシが今朝方ちゃちゃっと残り物で使ったものですので、遠慮せず受けとって下され」
「ゼクス様は魔法具作成の名人ですからね」
「あ、ありがとうございます」

 俺の不安を察したのか、ゼクスさんが穏やかに笑いながら気にする必要はないを告げてくれる。ある程度親しくなったおかげで気付いたのだが、ゼクスさんは見た目はガイコツでもちゃんと表情が変化する。不思議なものだが、魔界には鉱石で体が出来た魔族とかも居るらしいので細かい事は考えたら負けなんだろう。

「むぅ~カイトくんの『マジックボックス』はボクが作ってあげようと思ってたのに~」
「勘弁して下せぇよ。クロム様の魔力で作ったらそれだけで国宝級の代物になっちまいますって……」

 不満そうに頬を膨らませながら呟くクロを、アハトが何やら不穏な単語を呟きながら嗜めている。
 どうやらこれはマジックボックスというらしい。良く理解して無い俺の様子を察してか、ラズさんがそこに追加で説明を加えてくれる。

「マジックボックスに入れられる量は制作者の魔力によって変わるですよ~」
「そうなんですか?」
「ええ、平均的な魔力の方でクローゼット位から大きくて部屋一つ分ぐらいですが……クロム様の魔力であれば、たぶん大都市が丸ごと入るぐらいのとんでもない容量になりますね」

 流石クロと言うべきかなんというべきか、確かにそんなとんでもアイテム持たされても持て余してしまいそうな未来しか見えない。これはゼクスさんには二重の意味で感謝だな。

「まぁ、ゼクスの旦那の代物だって家一軒分よりはでけぇだろうけどな」
「……」

 ……既に十分とんでもない代物だった。
 アハトの告げた言葉に驚いていると、ノインさんが何やら魔法陣の様な物を箱に出現させ、その中心を指差しながら続ける。

「魔法陣の中心に触れて下さい。それで所有者が宮間さんに登録されます。あ、特に魔力を纏う必要は無いですよ」
「あ、はい」

 言われるままに魔法陣に触れると、マジックボックスは一瞬の光を放つが特に外見的な変化は無い。これでいいんだろうか?

「ええ、無事に所有者は宮間さんに登録されています。後の使い方は簡単です。マジックボックスを持って取り出したい物を思い浮かべれば取り出せ、収納したい物に触れながら収納と思い浮かべれば収納できます。あ、生物は収納できないので、その点だけはご注意を……後、中身を確認したり、マジックボックス自体の出現等も思い浮かべるだけで行えます」

 ノインさんの説明を受け、試しに手元のマジックボックスを消してみると一瞬で黒い宝石は消え、再びマジックボックスを出現させようと思うと手元に現れる。何これ、物凄い便利! 流石魔法!
 マジックボックスに感動している俺を見て、ノインさんは微笑みを浮かべた後で自分の手の上にもマジックボックスを出現させる。

「さて、では改めてお土産をお渡ししますね」
「え? それってこのマジックボックスの事なんじゃ……」
「あ、いえ、それはあくまで持ち運びと保存に便利なので……何と言っても、メインはこちらです!」
「こ、これって……もしかして……」

 ノインさんが取り出したのは、今の俺にとってまるで輝く様に見える白い奇跡が三角形に凝縮された物体。添えられた黄色が見事なコントラストを演出し、今の俺にとっては神々しさすら感じる。

「そう、日本人の心……握り飯とたくあんです! そろそろ、恋しくなっているのではないかと思いましてね」
「ごくっ」

 思わず生唾を飲んでしまった。ノインさん……貴女が神でしたか……
 異世界に来て5日目……リリアさんの屋敷で頂く食事は非常に美味しい。だが、やはり日本人という事だろうか、毎日パンが続くと無性に白米が恋しくなるものだ。
 しかし残念なことに、リリアさんの家に白米は無い。米自体は存在していると言う事を聞いたが、やはりこの世界ではパン食が一般的で米は殆ど流通していないと聞き、1年間パン食を覚悟していた。

「ほ、本当に良いんですか? 米ってあまりこっちの世界では流通して無くて貴重なんじゃ……」
「御心配には及びません。これは個人的に栽培している物です。味は自信を持って保証しますよ。やはり私も元日本人ですので、パン食ばかりというのはどうもにもアレでしてね。沢山用意してきましたので、ご同郷の方々と一緒に召し上がってください」
「ありがとうございます! 本当に嬉しいです!」

 何とノインさんは個人的に白米を作っているらしい。現金ではあると自覚しているが、正直これは本気で嬉しい。ノインさんの背中に後光が見えるようだ。
 しかもこの握り飯は色つやと言い形と言い素晴らしい。見ただけで絶対美味しいと確信できる。見た目だけじゃなく行いも日本人の鏡の様な方だ。

「……つっても、米作ってんのはラズ姐さんで、料理したのは姐御だけどな」
「うぐっ」
「ついでに言えば俺等はあんまし米は食わねぇから、ほぼノインの要望ってか、どうしても米が食べたいって駄々こねたから作ってる感じなんだけどな」
「……『朝餉は、白米とたくあんと味噌汁じゃないと駄目なんです!』と熱弁されていましたね」
「う、うぅ……」

 あ、作ってるのはノインさんじゃないんだ……
 アハトとアインさんによる突っ込みが入り、ノインさんは痛い所を突かれたと言いたげに肩を落とす。

「……私だって初めは自分でやろうとしましたよ。でも、天候とか風土とか関係なく最高品質の農作物を育ててしまうラズ様に、口頭で聞いただけで熟練の料理人以上の味で料理してしまうアイン様にどうやって私が勝てと……」
「あはは、まぁ、ラズはお米さん育てるの楽しいですから~気にする必要はないですよ」
「メイドである私が、一介の料理人程度に後れを取る事はありません。あらゆる料理を作れるのは、メイドとして最低限の嗜みです」

 どうやらラズさんは農業のエキスパートらしい。後、何度目になるか分からないけど……メイドって何だろう? 超人に対する呼称だったっけ?

「まぁ、作っている方がどなたであれ、白米を頂けるのはノインさんのおかげです。本当にありがとうございます」

 項垂れるノインさんに慰めの言葉をかけて、少しして復活したノインさんからお土産を頂く。
 マジックボックスには状態保存の魔法がかかっているとの事で、中に入れた物は入れた時の状態のまま劣化しないと言う素晴らしい機能が付いているので、入れておけばいつでも出来たてのお米を食べられるらしい。
 しかもノインさんが言った様に本当に大量に用意してくれているらしく、当分白米やたくあんについて心配をする必要は無くなる程。
 さらに素晴らしい事に、おまけとして醤油や味噌等の調味料類や羊羹等の和菓子類まで頂いてしまった。これもアインさんがノインさんの要望を受けて作っているらしい……本当に何でも出来るんだなこの方。

「本当に何から何までお世話になりっぱなしで……ありがとうございます」
「気にしないで下さい。同じ異世界出身の者として、食文化の違いへの苦労は人一倍分かりますから……宮間さんは、もうクロム様にとってだけでなく私達にとってもかけがえの無い友人です。困った事がいつでも頼って下さい」
「そうですよ~ラズもいつでもお手伝いするですよ~植物に関してなら、まっかせて下さい!」
「そうそう、気にする事なんてねぇよ。恩なんてのは持ちつ持たれつ、いつか返す位の気持ちで良いんだよ」
「……はて? 貴方が何か手土産に関わった記憶はありませんが?」
「……姐御、それはいわねぇ約束で……」

 うぅ、人? の暖かさが身にしみる。というか、本当にこの方々が良い方過ぎて涙が出てきそうだ。
 沢山のお土産を受け取り、何度も頭を下げる俺に気にするなと口を揃えて言ってくれるだけでなく、当り前の様に友人と呼んでそう接してくれるのは、本当に嬉しくありがたい。本当に今回のバーベキューを企画してくれたクロには、感謝してもしきれない。

 そしてそのまま少し雑談をしていると、ノインさんが少し言いずらそうな様子で再び口を開く。

「……宮間さん。あくまでこれはその、見返りを求めると言う訳ではなく、ご存じでしたらで構わないのですが……」
「はい?」
「……豆腐の作り方とか、ご存じないですか?」
「豆腐、ですか?」

 ノインさんが切り出してきたのは意外な質問だった。
 話を聞いてみると、米やたくあんに関しては元々似た物が存在していて、味噌や醤油に関してはノインさんが持っていた知識で作る事が出来たらしいが、豆腐は原材料が大豆という事以外を知らず作れていないらしい。
 流石のアインさんも完成品の特徴を聞いただけでは制作法までは分からず、ノインさんは何とか豆腐の作成方法を知りたいとの事だ。
 過去の勇者役に聞ければ良かったのだが、そもそも勇者役は基本国賓扱いであちこちの国を回る為話が出来る機会が殆ど無く、クロに聞いてきてもらうようお願いするのも気が引けて今までは我慢していたらしい。
 しかし今回初めてノインさん自身が日本人である俺とゆっくり話が出来る機会を得た為、意を決して聞いてみたと言う事らしい。

 確かノインさんが大正生まれで、召喚されたのは俺よりずっと若い頃だったと言う話だし、当時はネット等も無く個人で知らない知識を得る手段は少なかったんだろう。
 本人としては白米の見返りに情報を得ようとしているみたいで申し訳なく感じているみたいだが、俺としてはむしろ何かしら恩を返す機会を得れたのはありがたい。

「俺も聞きかじった程度の知識になりますけど、確か……」

 とは言え俺も実際に豆腐を作ったりした事がある訳ではない。ただ大学生になり一人暮らしを始める際に、料理系のサイトをいくつか流し読みした中で、たまたま豆腐の作り方というのを見た覚えがあった。その記憶を必死に思い出しながら伝えてみる。
 ただあくまで俺も流し読みした程度なので、分量とかそう言うのまでは良く分からないと前置きはしておいたが……

「……成程、概ね分かりました。ノイン様からは大豆を使って作る白くてプルプルした物としか聞いておらず分かりませんでしたが、カイト様のお話でおおよそ想像がつきました。問題無く制作できそうですね」

 つたない俺の説明ではあったが、アインさんはある程度工程を理解したらしく。再現可能だと頷く。このとんでもない方なら、本当にすぐに作ってしまえると思うから恐ろしい。

「ありがとうございます! 宮間さん! これで、ようやく豆腐にありつけます!!」
「あ、いえ、お礼を言うのはむしろ俺の方で……」

 豆腐が食べられると言うのがよほど嬉しいのか、ノインさんは俺の手を取り本当に嬉しそうに笑顔を浮かべる。
 ノインさんにとっては数百年ぶりに豆腐が食べられるかもしれないんだし、根っからの日本食党らしいノインさんにとっては本当に喜ばしい事なんだろう。ともあれ、喜んでもらえて良かった。

 そしてお開きの時間となり、迎えの馬車に乗り込む俺を皆さんは揃って見送ってくれた。

「じゃ、カイトくん。また明日辺りにでも遊びに行くよ~」
「ああ、改めて本当にありがとうクロ」
「宮間さん、豆腐が出来上がったらお裾分けに行きますね」
「はい。楽しみにしてます」
「お、じゃあそん時は俺も一緒に行くか、クロム様やゼクスの旦那と違って俺は別に人界では有名でも何でもねぇし、正面から訪ねられるからな。相方もカイトに会いたがってたし、丁度いい」
「あはは、出来れば人間の姿で来てねアハト」
「ラズも一緒にいくですよ~」
「はい。是非」
「ワシはセイと共にアルベルト公爵を訪ねる予定ですし、その時にでも話せますな」
「ええ、お待ちしています」
「カイト様、お体お気をつけて……またお会いしましょう」
「ありがとうございます。アインさん」

 口々に告げてくれる言葉に笑顔で答え、こちらに手を振る皆に手を振り返しながら馬車に乗り込む。
 今日は本当に楽しかったし、俺自身にとっても良い心境の変化が出来たと思う。リリアさんの屋敷に戻ったら、癖になってる宛ての無い手紙を書こう。少しだけ、文面を変えて……

 拝啓、母さん、父さん――今日は異世界に来て初めて心から楽しいと感じる一日だった。後――友達が出来たよ。



 


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ