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人脈チートに片足突っ込んでるみたい

 すっかり夜の闇に包まれた道を戻り、リリアさんの屋敷に付いた頃には深夜と言っていい時間になっていた。


「おかえりなさいませ、ミヤマ様」

「ルナマリアさん。すみません、遅くなりました」

「いえ、お嬢様方もほんの少し前にお戻りでしたので、それほど差はありませんよ」


 玄関でおそらく馬車の音を聞いて出迎えに出てくれたであろうルナマリアさんに、時間が遅くなった事を謝罪するが、偶然にもリリアさん達が戻ってきたのもつい先ほどという話だった。


「食事会はいかがでしたか?」

「ええ、とても楽しかったですよ」

「それは何よりです。お嬢様が随分と心配されていましたので……」


 軽く雑談を交えながら廊下を進む。

 う~ん。不思議な感じというかなんというか、改めて比べてみるとルナマリアさんってアインさんとは雰囲気が違う気がする。アインさんは極限まで磨きあげられ一切隙がない感じで、ルナマリアさんは逆にお仕事的なとでも言うのか少しのんびりしたイメージだ。同じメイドでもこうも雰囲気が違うものなのか――それともただ単純にアインさんが異常なだけなのか……


 そんな事を考えていると食堂に案内され、出迎えてくれたリリアさん達に挨拶をした後、一緒にお茶を頂きながらそれぞれあった事を話す。


「……成程、元異世界人の魔族ですか……それは本当に珍しい例ですね」

「ですね。こちらに永住を希望された勇者役が過去に居たと言う話は聞いた事がありますが、魔族に転生となると……」

「というか、そもそも人族から魔族に転生する方法なんてのがあるんですか?」


 話の中でリリアさん達の注目を特に集めたのは、やはりと言うべきか元日本人であるノインさんの話だった。

 ノインさんは当り前の様にクロの力で転生したと言っていたので、俺としてはそう言う事も出来るのか程度の認識だったが、リリアさんもルナマリアさんもかなり驚いた表情を浮かべている。


「無いとは言い切れません。実際、その方はカイトさんと同じ人間でありながら数百年生きている訳ですしね。膨大な年月を生きた高位魔族の方々の中には、未だ我々人族には知られて無い独自の秘術を持つ者も多いです」

「ただ、本来の種としての寿命を変える事が出来る程の力となると……ミヤマ様の知り合った高位魔族は、少なくとも『伯爵級』……もしかすると『公爵級』の高位魔族なのかもしれませんね」

「その何とか級みたいなのって、魔族の階級みたいなものですか?」

「ええ、魔界に人界の様な貴族社会や階級制度というのは殆どありませんが、単独で強大な力を持った魔族を便宜上爵位に例えて大別したりします。伯爵級の高位魔族ともなると、単独で国家に匹敵するほどの力を持った存在で、神界の高位神と同等かそれ以上。それより上の公爵級等は広い魔界でもほんの一握りしか存在しない。少なくとも会おうと思って会える存在ではないですね」


 クロが凄まじい力を持った高位魔族というのはもはや疑いようがないが、どうにも俺が想像しているよりも大分とんでもない存在らしい。

 でもその位とんでもない存在なら、リリアさんやルナマリアさんなら名前を知っててもおかしくないんじゃないかと思うんだけど……


「……ああ、カイトさん達にはまだ言っていませんでしたが、高位魔族の多くは情報隠蔽の魔法を常用している場合が多くて、第三者が情報を得る事が出来ないんです」

「え? それってどういう事ですか?」

「今のお話の例で挙げますと、カイトさんは私達に対して普通にその高位魔族の名前等を伝えてくれてたかもしれませんが、私達はそれを聞きとる事が出来ない魔法と言った感じですかね。互いに同じ存在を認識していたのなら聞き取れるんですが、カイトさんから一方的に情報を得る事が出来ません」

「今までのミヤマ様のお話の中で、私達が聞き取れたのはノイン様、アハト様、ラズリア様という三体の魔族についてのみです。他に話題にあげられた方については、数も見た目も会話の内容も私達は聞き取れていません」

「そ、そうなんですか……」


 情報隠蔽の魔法……成程、そう言えばアハトが高位魔族というのは基本的に一匹狼で、配下等を動かして自分は動かない事の方が多いって言ってたし、クロも俺が一人でいる時にしか基本的には出現しない。

 確かに仮にクロを伯爵級以上の高位魔族と仮定した場合、単独で国家戦力に匹敵する力を持った存在な訳だし、街中を歩いてたら騒ぎになったりするのかもしれない。有名人が変装したりするのに近い認識かもしれないな。


「例えば、私やルナは当然六王様方の名前やお姿も知っていますが……例えばここでルナが冥王様の名前を口にしたとしても、カイトさん達がそのお姿を頭の中で認識できなければ聞き取れないと言った感じですかね」

「情報隠蔽の魔法は非常に高度な上、常時展開となると凄まじい魔力を消費しますので、余程の高位魔族でなければ不可能ですね。なのでこの情報隠蔽の魔法が使えるか否かも、爵位級の判断基準の一つだったりします。まぁ尤も人族で情報隠蔽の魔法が使える存在は居ないので、効果の範囲等不明な部分も多いですが……」


 リリアさんの説明をルナマリアさんが補足する。

 う~ん。つまり今回知り合った中でノインさん、アハト、ラズさんは普通の魔族で、ゼクスさんとアインさんは高位魔族に分類されるらしい。


「まぁ、中にはあえて情報隠蔽の魔法を使用していない存在もいますね。先程例に挙げた六王様で言うなら……『戦王メギド・アルゲテス・ボルグネス様』、『界王リリウッド・ユグドラシル様』、『竜王マグナウェル・バスクス・ラルド・カーツバルド様』は情報隠蔽の魔法を使っていないので、皆さんも名前を聞きとれるかと……」


 おおぅ、なんか物凄い長い名前が立て続けに言われた。やっぱり何処の世界も王だ何だとつく方々は、長い名前になるものなんだろうか?

 というかその中で一つ聞き覚えがある名前があった。竜王の名前って、アハトが自分より何倍もでかいって例に挙げてた名前じゃなかったっけ?


「何か名前聞いただけで凄そうな方々ってのは伝わってくるんですけど、そのお三方は何故情報隠蔽の魔法を使用していないんですか?」


 俺がそんな事を考えていると、楠さんが俺と同じ様な感想を抱きつつも疑問を口にしてくれる。


「それぞれ理由は異なります。私も直接お聞きした訳ではありませんが……戦王様は単純にそう言った隠し事を好まない性格故。界王様は配下の数が非常に多く、界王様自身が一部の地域において信仰の対象となっている事もあってでしょうね。竜王様に関しては……山脈と見紛う程に巨大な体躯を持つ方なので、あまり意味がないのだと思います」

「……なんか、改めて六王ってのはとんでもないって分かった気がします」


 竜王が想像以上にでかかった!? 山脈とか言われてるって事は、何千メートル級!? そりゃ、それと比べたら5メートル程のアハトも小人みたいなものかもしれない。てかそんなサイズのが動きまわったら、歩くだけで地震とか起きるレベルなんじゃ……


「まぁ、六王様と直接お会いする機会など先ずありませんが、勇者祭の折にはお姿を見る事は出来ますよ」

「それは、楽しみというか、恐ろしいと言うか……」

「通常であれば高位魔族と知り合う機会さえ貴族ですらそうそうありません。あまつさえ食事を共にする等……ミヤマ様はかなり数奇な状況といえますね」

「良縁に恵まれるのも一種の才能といえるでしょう。高位魔族に名前を覚えていただけると言うのは、それだけで一種の力を得るとも言えますし……是非大切にして下さいね」

「あ、はい」


 う~ん確かに言われて見れば、それだけ凄まじい存在と交流を持てたのは幸運なのかもしれない。うん、色々思う所はあるが、ここはプラス思考で行こう。

 貴族ですらそうそう知り合えない相手が、殆ど毎晩遊びに来てるとか、魔法を教えてくれてるとか……改めて考えると、とんでもない事態だ。


「というか、お嬢様はミヤマ様の才能を少しでも分けてもらった方がいいのでは?」

「うぐっ……確かにカイトさんの社交力は見習うべきものですね。もし何かコツがあるようなら、是非ご教授を……」

「……は、ははは……」


 何故かこちらに尊敬する様な目を向けてくるリリアさんに、俺は思わず苦笑いを返す。

 い、言えない……元の世界では友達すらロクにいないぼっちでしたとか、今さら言えない。現状の交遊関係だって、ほぼクロに流された結果そうなってるだけで、俺のコミュ力とかミジンコみたいなものなんだけど……


 拝啓、母さん、父さん――地球に居た頃はエリートぼっちだった筈なんだけど、何故かこちらの世界では――人脈チートに片足突っ込んでるみたい。


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