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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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家族でした


 美味しいバーベキューを食べながら、アインさんの凄まじさに唖然としていると巨大なカップを持ったアハトさんが話しかけてきた。

「おぅカイト。飲んでるか?」
「ええ、美味しいお酒ですね」
「ははは、良い景色眺めながら美味い酒を飲む。これ以上の贅沢はねぇよな!」

 豪快に笑いながら告げるアハトさんの言葉に、俺も迷うことなく頷く。
 穏やかに流れる川に夕日が輝き、鮮やかな緑色の木々にコントラストを添える。大自然と表現するのが相応しい絶景は、心地良い解放感を与えてくれる。

「しっかし、お前も大変だよな。クロム様からある程度聞いちゃいるがよぉ、勇者役と同じ異世界から来たんだろ?」
「ええ、まぁ」
「俺はゼクスの旦那みてぇに学がある訳でもねぇから、正直異世界とか言われてもいまいちピンとこねぇけど、いきなし訳の分からねぇとこに飛ばされりゃ、アレコレ大変だろ?」
「確かに、まだ色々な事に驚いてばっかりですね」

 アハトさんは兄貴肌とでも言うのだろうか、酒を飲みながら俺を心配する様な言葉を投げかけてくれる。
 実際この世界に来てから同性と会話する機会が少なかったせいか、俺も少ししみじみとした気分になりつつ視線を動かす。
 料理に舌鼓を打っている地球では見た事がない種族の方々……そんな光景を見ると、改めて自分が異世界にやって来たんだと実感する。

「……まぁ、アレコレ驚くって気持ちは俺も分かるぜ。ノインの奴がさっき自分が一番の若輩とか言ってたけどな。俺も今居る面子ん中じゃ若い方でなぁ、初めの方は驚きっぱなしだったな」
「そうなんですね」
「っつても、俺も1000年以上は生きてる訳だから、カイトから見りゃ年寄りか? ははは」

 再び笑いながら酒を飲むアハトさんを見て、俺の頭にはある疑問が浮かぶ。
 そう言えばここに参加しているメンバーは、クロ曰く身内という事だけど……見た感じ種族はバラバラで、親や兄弟という訳ではなさそうだ。実際ゼクスさんは自分をリッチ、アハトさんはオーガだと言っていたし、一体どういう関係なんだろうか?

「そういえば、クロから皆さんの事は身内だって紹介されたんですけど、種族っていうんですか? そう言うのはバラバラに見えますけど、魔界ではそれが普通だったりするんですか?」
「ああ、いや、そんな事はねぇぞ。なんつぅか……魔界には色々な種族が居るってのは知ってるか?」
「はい」
「人族みてぇに親が子を生んでってのも居れば、魔力とかが集まって親無く生まれる単一種ってのもいるんだけどよ。ラズ姐さんや俺みたいな妖精族、オーガ族って種族で固まるのが基本で、クロム様やアインの姐御みてぇな単一種は一匹狼ってのが殆どだ。だからうちみてぇなのは珍しいな」

 その辺りはイメージ通りというか、同じ種族で固まるって言うのは理解出来るし成程って思う。しかしクロの身内、つまるところ現在一緒にバーベキューを行っている方達に関しては、魔界においても珍しい集まりという事らしい。
 どういう事なんだろうか? 疑問に思う部分はあるが、それは果たして部外者である俺が踏み込んでいい領域なんだろうか?
 そんな事を考えてると、アハトさんはそれを察したのか椅子ではなく地面に腰を降ろし、少し遠くを見つめる様な眼で景色を見ながら言葉を発する。

「……まぁ、酒の肴代わりに、少しくだんねぇ昔話をしてもいいか?」
「はい」
「さっき言った通り、俺はオーガ――種族名のある魔族だ。ただし俺の場合は『特殊個体』って呼ばれてる」
「特殊個体……ですか?」
「ああ、極稀にそう言うのが生まれる事があるんだよ。本来オーガってのは緑か赤の皮膚で角が一本生えた魔族でな、俺みたいな青い皮膚に二本の角ってのは特別な個体なんだよ」

 少し違うかもしれないがアルビノとかそういう感じだろうか? ともかくアハトさんは基本的なオーガとは違う容姿をしているらしい。

「特別なんて言えば聞こえはいいかもしんねぇけどよ……特別ってのは、結局の所『異質』ってのと同じでな、周りから向けられる視線は同族に対するソレじゃなかった。同情、恐怖、侮蔑……腹立たしいもんばっかだったな」
「……」
「俺は他のオーガより力って面で優れてたつうのもあったし、他に合わせられる様な器用な性格でも無かった。種族内で孤立して、集落から出ていくまで大した時間はかかんなかったよ」

 特別は異質。それに関しては理解出来る。人間でも同じ事だろう……勿論、それでも上手く周りと同調出来る人もいるだろうけど、アハトさんは出来なかった。結果として種族の集まりから孤立し、単独で生きる道を選んだ。

「それからは色々馬鹿やったなぁ、イラついたら喧嘩して暴れて好き放題に生きた。自分と同じ様な相方も見つけた。そいつは黒狼族って黒い狼みてぇな種族だったんだが、銀色の毛で生まれたせいで俺と同じ様に孤立したらしい」
「……」
「で、だ、俺達は今までの鬱憤を晴らすみてぇにあちこちに流れながらで暴れ回った。幸い俺もソイツもかなり強い部類でな、まぁそれなりに楽しかったが……結局どこ行っても、俺等の扱いなんて変わんなかった。まぁ、そりゃそうだよな、手負いの獣みてぇに誰かれ構わず噛みついてたんだ。何処行ってもが煙たがられて当然っちゃあ当然だ」

 その頃の自分を嘲笑う様に苦笑を浮かべるアハトさん。その表情は昔の自分は何故そんな当り前の事に気付かなかったのかと言いたげで、どこか寂しそうなものだったが、後悔の様な感情は読みとれない。

「どいつもこいつも俺等をゴミ見るみたいな目で見やがった。それに苛立って暴れて、孤立して、またそれに苛立って暴れて、そんな馬鹿をなげぇ事繰り返した訳なんだが……いつの間にかそれに疲れちまった。なんも変わらねぇ繰り返しに疲れて、それを変えたくてもっと馬鹿な事やって、ヘマやらかして相方と命からがら廃墟に逃げた」
「……」
「ボロボロの体を相方と癒しながら考えた。結局俺等は何がしたかったんだ? 何が欲しかったんだ? って……答えなんて出てこなかった。考えれば考える程、心はどんどん冷たく、重くなっていって……まるで体から、熱が抜けてくようなそんな感覚だった。笑えるだろ? 結局俺等は図体がでかくても、心はガキのまんま……気に入らねぇもんに駄々こねてただけって、100年以上かかってようやく気付いたんだぜ、我ながら頭のわりぃ話だ」

 何と答えていいのか、すぐには分からなかった。目の前に生まれた時から異質という名の壁があって、それをひたすら避けて回って、最終的に行き止まりに辿り着く。言葉にしてしまえば簡単だ。だけど、そんな安直な表現では、アハトさん達が味わった気持ちの一部も表現は出来ないだろう。

「……そんな時に出会ったのが、クロム様だった。正直、生まれて初めてだった。一目見ただけで、頭じゃなく本能が一瞬でへし折れて――死を覚悟した。コイツには絶対に勝てない、抗う事さえ許されない程の圧倒的なまでの差を感じて、言葉さえ発せなかった。ただ、ああここで俺等は終わりなんだ。突然現れたこの高位魔族が俺等にとっての『死そのもの』なんだってな……」
「……」
「ある意味馬鹿やり続けてきた俺等には相応しい結末だとも思ったけどよ。そうはならなかった。クロム様は俺等を見て、どこからともなく取り出した食い物を並べて『ここで会ったのも何かの縁だし、一緒に食べよ』って、子供みたいな笑顔で話しかけて来た」
「……クロらしいと言うか、何と言うか……突拍子もない」
「ははは、ホント笑っちまうよな! だってそうだろ? クロム様は俺等なんて比べもんにならねぇ程の力を持った高位魔族なんだぜ? なのに、まるで偶然出会った友達相手みたいに話しかけてくるんだぜ」

 クロの突拍子もない行動にアハトさんと相方が面くらってる光景が目に浮かび、思わず笑ってしまう。

「……生まれて初めてだった。同情も侮蔑も敵意もなく、裏も表もない純粋な笑顔と好意に満ちた視線……気が付いた時には、俺も相方も、泣きながら飯を食ってたよ。温かった――冷え切った心が抱きしめられてるみたいに、クロム様の笑顔は温かかった」
「……」
「それから、俺等は自然とクロム様に付いていく様になったんだが、クロム様は格下である俺等を見下す事なんてなく、まるで対等みたいに扱ってくれた。俺等に良い事があれば自分の事みたいに喜んでくれた。俺等が誰かに馬鹿にされたら本気で怒ってくれた。そのどれもこれもが、どうしようもなく嬉しくてたまらなかった」

 アハトさんは本当に嬉しそうに語りながら、視線を上げてアインさんと話しているクロに視線を動かす。

「俺も詳しく知ってる訳じゃねぇが、他の奴等も色んな事があってクロム様と出会ったららしい。けど、共通してるのは俺等は皆、クロム様に心底惚れ込んでるって事だ」
「……」
「俺も相方も、クロム様に絶対の忠誠を誓ってる。クロム様が死ねと言えば、俺等は喜んで自分の首を切るだろうさ」

 そこで一端言葉を区切り、アハトさんはカップに入った酒を一気に飲んだ後で微笑みを浮かべる。

「クロム様はとんでもねぇ力を持った高位魔族だ。だけど、あの方は他を見下したりしねぇ……アインの姐御もゼストの旦那もラズ姐さんもノインも、勿論俺や相方も、クロム様を唯一絶対の主だと思ってる。だけど、クロム様は俺等の事を配下だとか従者だとか眷族だとか、そんな風に呼んだ事は一度もねぇ。当り前みてぇに『家族』『身内』って呼んでくれる。命令なんて一度もされた事はねぇ、クロム様が俺等にするのは『お願い』か『頼み事』……あの方は、勝手に付いてきた筈の俺達を心から対等に扱ってくれる。アインの姐御がメイドしてんのも、本人が勝手にやってるだけだしな」

 確かにクロはアハトさん達の事を身内と呼んでいたし、思い返してみれば招待状を出すのも知人に頼んで、アインさんへはお願い、他の皆には食材の調達を頼んであるっと、確かに命令の様な事は全くしてない。
 それはクロにとって皆は家族であり、上下関係なんてない事の何よりの証明なんだろう。

「俺等がクロム様の元に集まってるのなんて、単純な理由だ。誰よりも強い力を持ちながら、誰よりも優しいあの方に心底惚れ込んでるんだよ……クロム様の願いは俺等の願いで、クロム様の笑顔が俺等にとって何より嬉しい報酬。そしてそんなクロム様が俺等を家族と呼んでくれるから、種族はバラバラでも俺等は家族なんだよ」
「なんだか、良いですね。そう言うのって……」
「おいおい、言っとくけどカイト。お前も他人じゃねぇぞ?」
「……え?」
「クロム様の友達ってんなら、お前は俺等にとっても友達だ。だから、んな固ぇ口調じゃなくて良いし、俺の事もアハトって呼び捨てで構わねぇんだよ」
「……そっか、うん。分かったよ。アハト」
「おう、そうこなくっちゃな! さ、もう一杯やろうぜ!」

 どこかクロを思わせる裏表の無い笑顔を浮かべるアハトを見て、ようやく俺自身クロから感じていた安心感の正体に気が付く事が出来た。
 そう、クロは俺の事を友達だと心から思ってくれている。異世界人だとか特殊な境遇だとかそんな事は関係なく、ただ一人の宮間快人という友人で対等なんだと、そんな気持ちを笑顔と共に向けてくれる。だからクロと話していると安心出来るし、振り回されても楽しいと感じられるんだろう。
 そんな事を考えながら新しく出来た『青い肌の友達』と乾杯する。

 拝啓、お母様、お父様――異世界で友達が出来ました。彼等は姿形はバラバラでも、確かに――家族でした。
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