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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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誰かに甘える事が出来たのは……

 アハトと会話をしたおかげか、他の方達とも会話がしやすくなったように感じる。
 料理全般をアインさんに任せてしまってるのは少し申し訳ないとも感じていたけど、話題を振るといつの間にか会話に参加しており、その間の調理や飲み物の補充もバッチリ……中盤以降は考えない事にした。
 夕日も沈み辺りに夜の帳が降りてきた頃、宙に浮かぶ魔法具が放つ光。眩しく感じないが周囲を明るく染めている魔法の力を興味深く見ていると、ノインさんが話しかけてきた。

「宮間さんも、随分皆さんと打ち解けてきたみたいですね」
「ええ、皆良い方ばかりですね。アインさんとゼストさんは独特で掴み所がない感じですけど、ラズさんやアハトは凄く話しやすいですね」
「ふふ、分かる気がしますね……良い頃合いですね」
「うん?」

 ノインさんはやはり不自然に甲高く聞こえる声で話しかけてきた後、俺の言葉を聞いて小さく呟く。
 何の頃合いだろうかと首を傾げていると、ノインさんはこちらを向いて驚くべき言葉を口にした。

「……今の『日本』はどうですか? そろそろ天皇も代わり時代も新しい名前になっていますかね?」
「なっ!?」

 当り前の様に告げられた日本という言葉、それだけならともかくノインさんは天皇の存在も知っている。
 もしかして、この方……いや、この人は……

「……御想像の通り。私も以前この世界に召喚された『日本人』です。まぁ、元がつきますけどね」
「そう……なんですか……」
「驚かれるのも無理は無いかと思います。だからこそ、宮間さんが場の空気に馴染むまでは黙っていましたからね」

 驚いて言葉が出てこない俺の前で、ノインさんは顔を覆っていたフルフェイスの甲冑に触れる。すると甲冑の兜が黒い煙となって消え、艶のある長い黒髪に同色の瞳の女性の顔が現れる。
 大和撫子と表現するのがしっくりくる可憐さと美しさが合わさった日本的な美女。年齢は俺と同じ位に見えるが、纏った雰囲気はどこか力強い。

「改めて自己紹介をしておきましょうか……私はかつて大正の日本で学生をしていたおりにこの世界に召喚され、元の世界への帰還を拒み、クロム様のお力で『人間から魔族へと転生した元日本人』……宮間さんにとっては、過去の時代の人間と言えますね」
「……大正……」

 説明されてみれば、確かにその可能性はあって当然かもしれない。この世界において勇者召喚は1000年も前から幾度となく行われてきている。単純な計算で今まで召喚された勇者役は100人程、中にはこの世界への永住を望んだ者が居たとしてもおかしくは無い。

「ああ、安心して下さい。確かに私は大正の人間でしたが……召喚魔法陣の特性上、1年後の送還に関しては召喚時の時間の直後にちゃんと戻れるそうです。仮にその送還を逃しても、創造神様に頼めば送還を行ってくださいます。ただその場合は少しあちらの世界の時間も進んでいる様ですが、一気に何十年も経ったりはしません。私の例で言えば、召喚されたのはもう何百年も前の話になりますからね」
「……」
「理解が追いつかないという気持ちも分かります。私も、この世界に来たばかりの頃はそうでした」

 先程までの奇妙に甲高い声ではなく、落ち着いた女性の声で説明してくれるノインさんの言葉に反応を返せないでいると、ノインさんは微笑みを浮かべて気持ちは分かると告げる。

「まぁ、そう言う訳で……私は特殊な例ではありますが、宮間さんにとっては召喚経験者の先輩とも言えるので、色々疑問にお答えできるかと思いましてね」
「は、はぁ……」

 そのままノインさんは穏やかな口調で、己の経験談を聞かせてくれた。
 突然異世界に来て戸惑った話、日本との文化や常識の違い、彼女が召喚されてから今までに異世界から伝わった物等……本当に色々な話をしてくれた。
 実際に勇者召喚から異世界での生活を経験した先達者の言葉は、俺自身のこれからに対して色々参考になる事が多く、気付けば時間を忘れて耳を傾けていた。

 話が一通り終わった後、ノインさんは椅子から立ち上がり微笑みながら言葉を投げかけてくる。

「……私は、自分が空っぽで無くなったかどうかは分かりません。けれど……私の心の中にあった願いは――『宝物』はこの世界で見つける事が出来ました。だから、きっと、宮間さんも見つける事が出来ると思います。戸惑いも混乱もあるとは思いますが、どうかこの1年を楽しんでみてください」
「……はい」

 その言葉で分かった。以前クロが話していた俺に似ている人物というのは、ノインさんの事なんだろうと……そしてノインさんはそれを見つける事が出来た。だからこそ、彼女はこの世界に残ると言う選択肢を選び魔族へと転生したんだと思う。
 そして彼女が今日この場に来て、俺に自分の体験を語ってくれたのは……クロからの優しい贈り物という事なのかもしれない。未だ自分自身の感情にすら答えの出せていない俺に対して、遠回しのアドバイスなのかもしれない。
 俺がこの先どうなるかは分からない。やりたい事が見つかるのか、見つからないままで終わるのか、今考えた所で答えは出ないだろう。ただ、少し、ほんの少しだけかもしれないけど……迷いの無い微笑みを浮かべるノインさんを見て、俺もそんな風になれたらって……そう感じた。





















 手に持っていたカップを置いてから立ち上がり、周囲に視線を動かすと探していた相手はすぐに見つかった。
 先程までは串を片手にあちこちで話をしていた筈だが、いつの間にか他の方々から離れ、流れる川のすぐ傍に腰を降ろしている。
 たぶんそれは俺の事を待ってくれてるんだろうと、深く考えるまでもなく理解できた。その証拠に彼女が座っている隣にはスペースがあり、他の方々もそれを察してか近付いてはいない。

「……というか、なんで畳?」
「うん? あれだね。ワサビってやつだね!」
「わびさび……かな?」
「あれ? 惜しかったか~」

 まぁ川縁に畳って時点でもうなんか違う気がするが、今さらと言えば今さらではある。
 相変わらずのクロの様子に、思わす口元に笑みが浮かぶのを実感しながら、ポンポンと畳のスペースを叩くクロに従って隣に座る。
 静かに流れる川の音と微かに漂う葉の香り、先程までの賑やかさが嘘の様に静かで穏やかな空気。

「……そろそろ、かな?」
「うん?」

 クロがそう呟くと共に明かりが消え、一瞬視界が真っ暗になるが、それはすぐに別の色へ変わる。

「お、おぉ……」

 それは幻想的な光景だった。俺の視線の先、対岸にある木々の葉一枚一枚が淡い光りを放ち、まるで森全体がライトアップされるかのような光景。

「この辺りの木はライトツリーって言ってね。空気中の魔力を少しずつ蓄えて、月に一度位の周期で発光するんだよ」
「凄いな、何て言うか……ただただ、圧倒されると言うか……」
「綺麗でしょ?」
「ああ」

 その光は決して目に刺さる様な強い光ではなく、ホタルの発光の様に優しく淡い光で、水面に反射する光と合わさり、星の海の中にでもいるかのような感覚だった。

「これだけ綺麗だと、さぞ人気の場所なんだろうなぁ……」
「そりゃもう大人気だよ。でも、そこら辺は裏でごにょごにょして貸し切りにしたから!」
「うわっ、悪そうな発言だ」
「あはは」

 この光景を見れば分かるが、やはりここはかなり有名な観光スポットらしい。しかしそこは流石抜けてるように見えて抜け目の無いクロ、どんな手段を使ったかは知らないが貸し切りにしているらしい。
 まぁ大商会の会長ともコネクションがあるみたいだし、その気になれば大概の事は出来るのかもしれない。う~ん、何と言うか改めてクロが凄い相手なんだと実感した。俺も敬語とか使った方が良いんだろうか?

「……むぅ、今まで通り話してくれなきゃやだ~」
「……了解」
「よろしい」
「ははは」

 曰く表情に出過ぎな俺の考えはすぐに伝わったらしく、クロは頬を可愛らしく膨らませながら抗議の目線をこちらに向けてくる。可愛いな、おい。
 しかしこう、何と言うか……いいな、こういう会話。凄く落ち着くと言うか、ホッと肩の力が疲れと共に抜ける様な心地良さがある。

「……クロ、ありがとう」
「うん?」
「いや、色々世話焼いてくれてさ……」
「ボクは、ボクのやりたい事やってるだけだよ?」
「それでも、ちゃんとお礼を言っときたかったんだ」
「そっか……じゃあ、どういたしまして。かな?」

 短い会話の後に訪れる沈黙さえ嫌なものではなく、穏やかで心地良く感じる。

「えいっ!」
「え? ちょっ――ッ!?」

 優しい雰囲気に身を委ねていると、突然クロにその小さな身体からは想像もできない様な力で引き倒され、頭に柔らかな感触を感じると共に言葉を失った。
 少し経ってクロの顔を見上げる様な体勢――所謂膝枕をされている事に気が付くが、それ以上に淡い光に照らされながら、微笑みを浮かべるクロの表情に思わず息をのんだ。
 いつもの子供の様な無邪気な笑顔ではなく、まるで母親が子供を見る様な――母性とでも表現するのだろうか? ただ微笑んでいるだけなのに、包み込まれる様な優しさ。そして後頭部に感じる柔らかく暖かい膝の感触。

「……」

 そのままクロは何も言わず、微笑みを浮かべたまま優しい手つきで俺の髪を撫でる。
 いくら俺より遥かに年上とは言え、見た目は完璧に美少女なクロに膝枕をされていると言うシチュエーション。本来なら恥ずかしさで飛び起きていてもおかしくない筈だが、全てを見通す様な金色の瞳とまるで抱きしめられている様な心地良さに体も頭も動かない。

「……少しは、疲れも取れたかな?」
「え?」
「カイトくんはさ、優しい子だよね。なんだかんだで周りの人の事考えちゃう」
「……」
「今回召喚された子達の中で、カイトくんは一番の年長者。カイトくんが不安そうにしてたら、周りの子達もつい不安になっちゃうよね。不安とか焦りとか飲み込んで、落ち着かないとって思っちゃうよね」
「……」

 ああ、そうか――やっぱりって言うべきなのか、流石って言うべきなのか……クロは何もかもお見通しって訳なんだ。
 何となくそんな気はしてた。だってクロは出会った時からそうだったから、俺が何か深く考えすぎそうになると突拍子もない事を言い出して、余計な考えなんて吹き飛ばしてくれて……逆に不安を感じそうな時は、愚痴を聞いてくれて肯定してくれて……だから、クロと話してると安心出来るんだ。

「自然とそんな風に出来る子って、ボクは凄くカッコイイって思うよ。でも、疲れってさ体だけじゃなくて心にも溜まっていくものなんだよね。本人すら気付かないうちに少しずつさ……」
「そう……かもしれない」
「カイトくん、今日は楽しかった?」
「ああ、こんなに色々驚いて、周りに合わせず気楽に会話したのは久しぶりな気がする。クロのお陰だ……」
「そっか、それならボクも嬉しいよ」

 淡く幻想的な光、頭を撫でる優しい感触、こちらを真っ直ぐ見つめる慈愛に満ちた微笑み。本当にクロの言う通り、いつの間にか俺は疲れを貯め込んでいたのかもしれない。異世界に来てから、いやもしかすると、それよりずっと前から……

「カイトくん、今は少しだけ、ほんの少しだけでいいから……ボクに甘えて。少しだけ休もう? 明日からまた頑張る為にも……ね?」
「……ああ」

 まるで子守唄の様な優しい声を聞き、言葉に出来ない安堵感と共に瞼が落ちてくる。
 感じるのは暖かい感触と甘い香り、そして優しく染み込む様な声……

「大丈夫。ちゃんと、傍に居るから……」

 そんな言葉を聞きながら、俺の意識は昔を思い出しながら、まどろみに沈んでいった。

 拝啓、お母様、お父様――思えば『貴方達が居なくなってから』初めてかもしれません。俺が、心から――誰かに甘える事が出来たのは……












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