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とんでもない所から招待状が来ました

 異世界に召喚されて数日が経過した。少しずつではあるがリリアさんの屋敷での生活にも慣れ、俺だけではなく楠さんや柚木さんの表情にも笑顔が表れる様になってきた。

 無論まだまだこの世界について分からない事は多いが、リリアさんが良くしてくれているおかげもありこの数日は十分に頭を整理する事が出来る時間が貰えたと思う。まぁ、毎日夜になると現れるクロに関しては謎ではあるものの、俺に危害を加えたりする様子は全く無く、むしろリリアさん以上に気楽に会話のできる相手と言える。

 まぁ、そもそもこちらの新年において人族は三日間は家で過すのが一般的という事もあって、外出もしてないので、非常識な幼女魔族を除けば事件らしい事件が起きる事も無いので平穏そのものだった……まぁ、ただし、愛しの故郷には「嵐の前の静けさ」という言葉もある訳だが……


「……招待状、ですか?」


 それはこちらに来て四日目の昼下がり、紅茶とクッキーを頂きながらのんびりと雑談をしているとルナマリアさんが豪華な封筒を持って現れ、明日行われるパーティの招待状である事を告げる。


「ええ、王宮で新年四日目に行われる夜会の物ですね。今回は勇者祭の年なので、勇者役紹介も兼ねて盛大な物になりますよ。本来はもっと早く招待状が届く筈なのですが、今回は皆さんの招待も手配したので少し時間がかかりました」

「え? 私達も、ですか?」


 リリアさんがいつも通り穏やかな笑顔で告げた言葉を聞き、楠さんが驚いた表情で聞き返す。まぁ、気持ちは凄くよく分かる。いきなり王宮での夜会なんて話が来たら驚かない方が無理ってものだ。


「ええ、ミツナガ様はこの後あちこちの国を訪問しますので、特にアオイさんとヒナさんは話をしておきたいかと思いまして」

「あ、そっか正義は勇者役だからいろんな街や国で挨拶とかするんですね。大丈夫かなぁ?」


 二人から聞いた話では楠さんは二年生、柚木さんと光永君は一年生で部活仲間らしい。くっ、やはりリア充への近道は部活だったか、俺も高校時代ネットゲームばっかりじゃなくて部活やっとけばよかった。いや、結局大学でもサークルに入ってない訳だし、ネットゲーム云々は関係ないかも?

 まぁ、俺のぼっち生活の話は置いておいて……確かにあちこちに出向く光永君とゆっくり会話するにはこのタイミングが良いだろう。二人共心配してたし、さすがリリアさんと言うべきかしっかりその辺りもフォローしてくれてる。

 そんな事を考えていると、リリアさんは大きめの封筒から何とも質の良さそうな手紙を取り出して目を通し――笑顔のまま額に青筋を浮かべた。


「……ルナ、王宮からの手紙はこれで全部ですか?」

「……え、ええ」

「……私の目が悪くなったのかもしれません。ちょっと読んでみてもらえますか?」


 何かあったんだろうか、リリアさん笑顔だけど目が全く笑ってない。てか、凄い怖い。


「では失礼して――序盤は定例文なので割愛します。えっと『尚、今回の夜会には勇者役ミツナガ・セイギ様の同郷であるクスノキ・アオイ様、ユズキ・ヒナ様の2名の招待状も合わせて同封致します』……え?」

「……んん?」


 あれ? おかしいな……俺の耳が正常なら、今ルナマリアさんが読み上げた文章の中に俺の名前は含まれてなかった気がするんだけど……


「……ルナ。私は確かに王宮に対して『3名分』の招待状を用意してくれるように連絡をしたはずですよね?」

「え、ええ、間違いなく」

「……どう、思いますか?」

「……また、国王陛下の悪い癖が出たかと……」

「……今から再手配は間に合いますか?」

「……む、難しいかと……」


 まるで感情を殺している様な淡々とした声で告げるリリアさんの言葉を聞き、ルナマリアさんは冷や汗を流しながら返答する。

 国王陛下って、確か重度のシスコンってルナマリアさんが言ってたリリアさんの兄に当る人だったっけ? その国王の悪い癖……ああ、成程。

 何やら非常に重い沈黙が流れた後、リリアさんは席を立ち、少しして『片手に剣を持った状態』で戻ってきて俺に深く頭を下げる。


「カイトさん、申し訳ありません。こちらの手違いで、カイトさんの分の招待状が用意できなかったみたいで……」

「あ、いえ、それは全然大丈夫ですよ。俺は光永君とはほぼ初対面ですし、特に話がある訳でも無いですから」

「本当に申し訳ありません。屋敷で留守番させてしまう事になりますが、代わりに――馬鹿な『国王の首』を手土産に持って帰ってきますので」

「――へ?」

「お嬢様、お嬢様……目が据わってますよ?」

「……あの馬鹿兄上は本当に……いい加減私の我慢にも限界というものが……」

「お嬢様、落ち着いて下さい! 一応あれでも国王ですから、お嬢様の事になると馬鹿になりますが、それ以外では割と優秀な部類ですから!?」

「離して下さいルナ! 身内としてあの馬鹿の不始末には、相応の罰をですね!!」

「とりあえず剣をしまって下さい!」


 あ~つまりはアレだろう。リリアさんは俺達三人が夜会に出られる様に手配してくれた筈だったが、リリアさんに男が近付くのがそもそも嫌なシスコン国王は、楠さんと柚木さんにだけ招待状を用意して俺の分は用意しなかった。多分そもそも、男である俺がリリアさんの屋敷で暮らしてる事自体気に入らないのではないかとも思うが、そこはたぶんリリアさんが手出しさせてないんだろう。

 で、昔から散々そのシスコン行動に頭を悩ませてたリリアさんが、キレたと……うん。超怖い。リリアさんがこんなに怒ってるとこ見たのは初めてというか、過去に何やって来たんだ国王陛下……

 その後、今にも抜剣しそうなリリアさんをルナマリアさんが必死に宥めるという構図がしばらく続き、リリアさんが落ち着いたのは30分ほど経ってからだった。


















 入浴を終えて部屋へ向かう。なんか今日はやたら疲れた気がする。俺としては別に夜会に出られなくても問題無いと言うか、むしろそんな仰々しい場に参加することにならなくて良かったと思うんだけど……俺達三人を平等に扱おうとしているリリアさんにとっては、そう簡単に納得出来る事ではないらしく。何度も何度も俺に謝罪をしてきたので、宥めるのに本当に苦労した。

 たぶん元々非常に真面目な性格をしてるからこそかな? リリアさんのそう言う所は、あまり貴族らしくない印象を受けるけど、俺達の事を真剣に考えてくれてるんだと感じて嬉しくもある。異世界に来て初めて出会ったのがリリアさんだったのは、本当に幸運でありがたい話だ。出来ればいずれ、何か恩返しがしたいものだけど……


「あ、おかえり~」

「……」


 部屋の扉を開けると、ソファーに寝転がってベビーカステラを食べているクロの姿があった。とうとう突然現れるんじゃなく、先回りして待機してる状態になったよ。大事なことなのでもう一度言うが、ここはクロにとって他人の家である……もはや何も言うまい。

 人間は適応する生き物である。クロの神出鬼没さにもある程度慣れたのか、俺は大きく溜息を吐いた後でクロが差し出してくる湯呑みを受け取り、ベビーカステラを口に運ぶ。


「うん? なんか今日はちょっと疲れてる感じだね?」

「ああ、まぁ、大した事じゃないんだけど……」


 相変わらず鋭いクロに指摘され、俺は今日あった事を大まかに説明していく。クロはうんうんと相槌を打ちながら俺の話を最後まで静かに聞いてくれた。


「へぇ、じゃあその国王のせいでカイトくんはパーティに行けないんだね」

「まぁ、ざっくり言うとそう言う事になるのかな?」

「よっし! じゃあボクが今から王宮に行って、『国王半殺し』にして連れてくるから、ここで招待状書かせれば良いよ~」

「なんでっ!? いやいや、何も『よっし』じゃないからね!?」


 さも当然と言いたげに昼間のリリアさんの様な事を告げるクロに対し、俺は慌ててそれを止める。正直リリアさんが言ってた事も大概物騒だったけど、クロが言うと現実味が全然違うっていうか……たぶんコイツ、本当にそれが実行出来る。だって毎日誰にも気付かれず当り前の様に公爵家に侵入してるし、見た目からは想像できないけど凄い高位の魔族らしいし……

 国王半殺しの上で拉致とかマジで勘弁してください。俺を国家反逆犯みたいな状態にしないで!?


「うん? カイトくんはパーティに行きたいんじゃないの?」

「いや、別に行きたい訳では……というかむしろ、そう言うガチガチした感じで面倒そうなのはパスしたいかな。豪華な料理とかには少しだけ興味あるけど……」

「ふ~ん。カイトくんが行くなら、ボクも参加しようかと思ったけど……じゃあやっぱ不参加でいいや。あ、そうだいい事思いついた!」

「……今度は一体何?」


 何か小声で呟いてたけど、もしかしてクロも招待されてるのかな? いや、まぁ今はそれは良いか……むしろ今度はどんなとんでもない事を思い付いたのかの方が重要だ。


「じゃあ、明日はボクとバーベキューしよ!」

「……は?」

「ほら、ガチガチしたのは嫌みたいだし、ボクとボクの身内だけでやろうよ~王国の南に良い景色の場所があるから、そことかで!」

「……ふむ」


 突拍子の無い提案はいつもの事とは言え、中々悪くない気もする。というか王宮の夜会とかよりはよっぽどそそられる誘いだ。リリアさんの家で出るのは、どれも高級そうな食事ばっかりだし、串焼きとかそういう感じのは食べたいとも思うし、クロが一緒ならたぶん疲れるけど楽しいんじゃないかとも思う。けど、それには重要な問題がある。


「それは、楽しそうだけど……流石にクロの事説明せず、いきなり外で夕食を食べてきますじゃあリリアさんは納得してくれないと思うよ」


 そう、現状クロの事は本人がそれを望んでない感じ――というか、そもそも俺が一人の時にしか現れないし、探知結界とやらをすり抜けて侵入してるって事なので、クロの事はリリアさんには内緒にしてしまっている。しかしバーベキューの誘い、つまり俺一人で外出なんて事になれば流石に説明しない訳にもいかない。

 リリアさんは本当に俺達の境遇を心配してくれているし、クロの事を隠してる後ろめたさもあって、こっそり抜け出す様な形は取りたくない。


「ああ、それは大丈夫だよ~ボクの知り合いに頼んで、普通に食事会って事で招待状出してもらうからさ」

「それ、リリアさんが納得してくれるの?」

「たぶん大丈夫じゃないかな? 人族の信頼も厚い子だしね」

「う~ん……まぁ、俺としてはリリアさんが納得してくれるなら、行ってみたいかな……」

「ホントッ!? やった! じゃあ、皆に話してくるね!!」

「え? あ、ちょっ!?」


 俺の返答を聞いてクロは満面の笑顔を浮かべた後で姿を消す。う~ん、アレだけ喜んでくれると断れないと言うか、悪い気はしないんだけど……なんだろう? クロの身内とか皆って単語にそこはかとない不安が……とりあえず、流れに任せる事にしよう。



























 そして翌日の朝食を終えたタイミングで、ルナマリアさんが血相を変えて食堂に駆け込んできた。


「お、おお、お嬢様!?」

「そんなに慌てて、どうしたんですか?」

「せ、せせ、『セーディッチ魔法具商会』から『会長の署名入り』の招待状がミヤマ様宛に!?」

「……は?」


 ルナマリアさんが告げた言葉を受け、リリアさんも大きく目を見開いて硬直する。セーディッチ魔法具商会? なにそれ?


「……い、いたずらとかでは……ないんですか?」

「……黒魔羊紙の封筒に白金竜の髭で封がしてあります」

「……」


 あ、リリアさんが完全に固まった。


「あ、あの、すいません。話についていけないんですが……セーディッチ魔法具商会というのは?」

「……魔法具を取り扱う商会の中でも最も巨大な商会で、大国を優に上回る程の資金力を持つ大商会です。世界にある魔法具の半分はセーディッチ魔法具商会が作った製品だとまで言われている桁違いの大商会です」


 意を決して俺が質問してみると、ルナマリアさんが恐る恐ると言った感じに返答してくれる。えと、つまるところ魔法具において世界最大のシェアを誇る、それはもうとんでもない大企業みたいな感じなのかな? え? なにそれ、どういう事?

 驚く俺にリリアさんがチラリと視線を向けてきたので、俺はどうぞ確認してくださいとジェスチャーを送る。するとリリアさんは震える手でルナマリアさんから封筒を受け取り、しばらくして両手で頭を抱える。


「……間違い無く本物でしょう。セイ・リベルスター会長直筆の上、金印まで……」

「……この招待状の素材だけで、王都の一等地に家が建ちますね……」

「……えと、何て書いてあるんですか?」


 なんかとんでもない相手から、とんでもない物が送られてきたというのは分かったが、何故そんな状況になっているのかはさっぱり分からない。

 俺が若干慌てながら尋ねると、リリアさんは再び招待状に視線を落としそれを読みあげる。


「……『親愛なるミヤマ・カイト様。急な招待となります事を先にお詫びさせて頂きます。また同時にご挨拶の文面は省略させて頂き、本題を書き記す無礼をお許しください。今宵、当商会にてささやかな食事会を開くはこびとなりました。つきましてはご都合がよろしければミヤマ・カイト様のご参加を賜りたく、筆を取らせて頂いた次第です。本日の夕刻に迎えの者にアルベルト公爵家を訪ねさせますので、参加不参加の御返答はその際に頂ければ幸いです。尚、友人よりミヤマ・カイト様への言伝を預かっておりますので、そちらも文面に記載させて頂きます――カイトくん、待ってるね~――との事です。重ね重ね連絡が遅れた御無礼をお詫びいたしますが、御一考いただければ幸いです セイ・リベルスター』……」

「……」


 やっぱり、あの幼女魔族の仕業か!? 何してんの!? 本当に何してんの!? 知り合いに頼んで招待状出してもらうって……なんかとんでもない所から招待状来てるんだけど!? リリアさんも、ルナマリアさんもこっち見て固まってるじゃないか!? 俺に一体どう説明しろと!?


 拝啓、お母様、お父様――王宮の夜会でハブられました。でも代わりに――とんでもない所から招待状が来ました。








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― 新着の感想 ―
ここがボデ胃ブローの始まりか。 常識を破壊する一撃ですね。
[良い点] 難聴系ではなく、無視系なのが好感持てます。
[良い点] こういう展開大好き。
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