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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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非常識な魔族の身内は、やっぱり非常識でした

 夕刻が近付き微かに空の色が変わり始める中、アルベルト家当主リリアは執務室で数枚の書類を見つめていた。
 朝届いた快人への招待状へ同封されていた誓約書とも言える内容が書かれた紙。快人の身の安全の保証等、いくつもの項目において事細かに記された書類……

「――偶然にしては、出来過ぎてると思いませんか?」
「……ルナ……ええ、そうですね。カイトさんが街ではぐれた際に助けてくれた魔族が、偶然にもセーディッチ魔法具商会セイ・リベルスター会長の知り合いで、カイトさんが招待を受ける事になるなんて……驚くべき偶然ですね」

 淡々とした声が聞こえ、リリアは書類に落としていた表情を上げ静かな口調で返す。朝方の招待状については快人より、助けてくれた魔族が去り際に今度一緒にご飯でも食べようと言っていたが、ここまでの存在だとは思わなかったと説明を受けた。そしてリリアはそれに対し、幸か不幸か快人の予定も開いていたので、快人が希望するならと参加を勧め現在に至る。

「……100回近く行われてきた勇者召喚。それを今回は貴女が担当する事になり、今回に限って複数人の召喚という事故が発生し、それを責任感の強い貴女が面倒を見る流れになった」
「……」
「そして屋敷に男性用の服が無くミヤマ様が単独外出することになり、外出した先で何故か勇者以外が召喚された事を知る何者かが隠蔽魔法を行使、偶然通りがかった高位魔族がミヤマ様を救出した」
「……」

 静かに告げるルナマリアの言葉を聞きながら、リリアは一切表情を変えない。ただ静かに扉の前で笑みを浮かべるルナマリアの顔を見つめる。

「そして国王陛下が悪癖を出しミヤマ様の招待状は用意できず、偶然にもミヤマ様は新年四日目の予定が空く。そこへ偶然にも以前ミヤマ様を助けた魔族の知り合いから食事会の誘いが届き、しかもその相手は爵位を得たばかりで人脈の少ない貴女にとって垂涎の相手と言える大商会の会長――なんとも都合の良い話ですよね? アルベルト公爵様?」
「……」
「……貴女にとっては本当に、出来過ぎたシナリオですよね? お嬢様……」
「……」

 窓から刺す夕暮れの光が、屋敷の主の顔を照らす。その口元に浮かんでいたのは――嘲笑と呼べる笑みだった。


















「――ま、大方こんなこと考えてたんでしょ。何でもかんでも悪く考えすぎですよ『リリ』は……」
「ルナ……」
「クソ真面目でドが付くお人好しの貴女が、そんな緻密な計画を立てられるなんて思いませんよ」
「そこはかとなく、馬鹿にされてる気分ですね」

 表情を崩して笑うルナマリアに釣られてリリアも笑みを溢す。二人きりの時にだけ呼ぶ愛称で話すルナマリアの姿は、従者というより悪友の様な雰囲気だった。

「リリは分かりやす過ぎるんですよ。朝からずっと不機嫌なのは、異世界人の恩恵を狙う相手から守ろうとしている自分が、図らずもミヤマ様のお陰で利益を得てしまう事が気に入らないからですね?」
「……貴女に隠し事は出来ませんね。ええ、その通りです。セーディッチ魔法具商会との繋がりは、正直ありがたいです。しかもこの書には後日会長が直々に当家に挨拶に来られるとか……カイトさんの交友関係をアルベルト公爵家の利益に利用してるみたいで……どうにも、納得できませんね」

 ルナマリアが告げた言葉は図星だったようで、リリアは心底不機嫌そうに呟く。

「本当に石頭というか、何と言うか……そこは素直に運が良かったで済ませればいいのに……」
「まだ知り合って数日ですが、カイトさんもアオイさんもヒナさんも、皆優しい方ですよ。こんな事に巻き込んでしまった私を責めもせず、むしろ感謝の言葉すら告げてくれる。そんな人達を貴族の外交なんてものに関わらせたくなんてないんです」
「ミヤマ様は貴族の厄介事に巻き込まれたなんて風には、考えては無いと思いますけど?」
「だとしても、私が嫌なんです。やっぱり、私に貴族なんて向いてないんですよ」
「同感ですね」
「そこは肯定するんですね!?」
「昔っからリリは考えるより先に行動する脳筋なんですから、ややこしい考えは置いておけば良いんですよ」
「誰が脳筋ですか!? 誰が!!」

 頭を抱えながら机に伏すリリアを見つめ、ルナマリアは楽しそうに笑いながらからかいの言葉を投げかける。
 主と従者という関係では無く、昔からの友人だからこその遠慮ない物言いを受け、リリアの表情に少しだけ笑みが戻る。

「……まぁ、でも、そうですね。起きてしまった事をアレコレ考えるのは性に合いませんね。カイトさんには改めて謝罪と……お礼を伝える事にしましょう」
「いっそ、お礼ついでに既成事実なり作っちゃえば後ろめたさも無くなるのでは?」
「……貴女は本当に、いつもふざけた事ばかり言いますね」
「ふふふ、いいじゃないですか……リリが真面目すぎる分、私がふざけてて、バランスが取れてるんですよ」
「……はぁ、苦労するのはいつも私な気がしますけどね」

 ひとしきり笑った後、ルナマリアはリリアに背を向け扉に向かう。そして退出する直前でリリアを振り返り、笑みを浮かべながら口を開く。

「クスノキ様とユズキ様の準備も間もなく終わりますので、そろそろ出発ですよ……お嬢様」
「……ありがとう、ルナ」





















 正直色々追求されるかとも思っていたが、リリアさんは俺が食事会に参加する事をあっさりと許可してくれた。それだけ送られてきた招待状の相手が凄まじいとも言え、何と言うか胃が痛くなる思いだ。
 どちらにせよ元々は夜会に参加する様に取り計らってくれていた事もあり、いつの間にか俺用の礼服と楠さん、柚木さん用のドレスも用意されていた。
 元の世界では映画でしか見た事がない様なキラキラした礼服に身を包み、迎えの人が来たと連絡を受けてリリアさん達に軽く挨拶をしてから正門の前に向かう。
 正門前に辿り着くと、黒い四頭の馬が繋がれた巨大な馬車がすぐに目についた――何あれ? 馬凄いでかいんだけど……後何か角みたいなのも生えてる。ユニコーン? 黒いユニコーン?

「ミヤマ・カイト様ですね」
「あ、はい」

 馬車の前にはいかにも貴族の従者ですと言う雰囲気の男性が居て、俺に対し深く一礼してから尋ねてくる。そのオーラとでも言う雰囲気に若干気圧されながら、食事会への参加を伝えると男性は馬車の扉を開いてくれ、馬車の中に乗り込んだ。

「……広っ……」

 外から見ても巨大な馬車である事は分かっていたが、中に入ってみると驚くほど広く物凄いセレブな雰囲気を感じた。しかも中には俺以外誰も乗っておらず、どこに座ればいいのかよく分からない。
 とりあえず真ん中というのも気が引けてしまい窓際辺りに腰を下ろすと、男性から何やら袋の様な物を手渡される。

「会長よりこちらをお預かりしております」
「ありがとうございます」
「いえ、ではまもなく出発いたしますので、ご不明な点等あればお尋ねください」
「あ、はい」

 男性が何と呼ぶのか分からないが馬車の運転席に移動し、ほどなくして出発する。
 とりあえず先程受け取った袋を確認してみると――当り前の様に空中に文字が浮かび上がってきた。

『カイトくんへ、バーベキューだから、動きやすい服用意しといたよ~外から馬車の中は見えない様にしてあるから、着替えといて~』

 ああ、成程……名目上食事会だから礼服で出て来たけど、確かにクロは最初からバーベキューだと言っていたし、それなら礼服よりラフな服の方がいいよな。
 何と言うか王宮以上に豪華絢爛な席にでも呼ばれたんじゃないかと思っていたので、正直少しホッとしながら渡された服に着替える。黒を基調としたごく普通のシャツとズボンに見えるけど、カッチリした礼服から着替えた事もあってか、やたら軽くて動きやすい気がする。

 その後しばらく殆ど揺れない馬車から外の景色を眺めていると、馬車は大きな門を越え、20分程走った所で停車して、男性が扉を開いてくれる。

「到着いたしました。足元少し段差がありますのでお気を付け下さい」
「あ、はい」
「会場はすぐそこの川縁となっております。よろしければ着替えた服はこちらでお預かりしておきますが?」
「お願いします」
「はい。では、お帰りのお時間にまた迎えに参ります」

 再び深く頭を下げて着替えた服を受け取る男性にお礼を告げて、示された方向を見ると……バーベキュー向けの開けた川縁がすぐに目についたので、そちらに向かって足を進める。

「あ、カイトく~ん。こっちこっち!」

 少し歩くと前方に……まったくもっていつも通りの黒いコートを着てこちらに大きく手を振るクロの姿が見えた。
 クロの隣には150cm位の小柄なメイド服の女性が居て、俺がクロに近付くと深く一礼する。

「今日は楽しもうね~」
「あ、ああ……というか、滅茶苦茶な招待状送ってくれたよな……お陰でこっちは緊張しっぱなしだよ」
「あはは、ごめんごめん。でも、大丈夫。昨日言った通り、今日呼んでるのはボクの身内だけだから気楽にしてくれて良いよ~あ、紹介しとくね。この子はアイン」
「初めまして、ミヤマ・カイト様。アインと申します」

 モミアゲの部分だけ少し長く、他は短めに揃えられた白金色の髪。微かな皺も見当たらないメイド服を着こなす小柄な女性――アインさんは深く頭を下げながら挨拶をしてくる。
 何と言えば良いのか、只ならぬオーラというか物凄い落ち着きはらった雰囲気のある方だ。同じメイドであるルナマリアさんを見てる筈なんだけど、アインさんの雰囲気は何かが違う気がする。

「さてカイトくんも来た事だし、アイン~準備して」
「畏まりました」
「え? えぇぇぇ!?」

 クロがのんびりと笑顔で告げると、アインさんが一礼し……直後に目の前にバーベキュー用と思われる金網や野外用のテーブルに椅子、先程まで見当たらなかったそれらが一瞬で現れる。なにこれ? 魔法?
 手品を見ているかのような光景に驚くが、クロは特に気にした様子もなく明るい笑顔をこちらに向けてくる。

「急な話だったから、他の子達には食材の調達を頼んでるんだけど……そろそろ帰ってくると思うから、また紹介するね」
「あ、ああ……」

 驚きながらも何とか頭を落ち着かせようと、クロの言葉に頷くが――続けざまに大きめの足音が聞こえ、そちらを振り返って硬直する。
 なにあれ? 俺の目が可笑しくなったかな……何か黒い全身甲冑の騎士が、5メートル位ありそうな翼のあるトカゲ担いで歩いてくるんだけど……ドラゴン? あれって、ドラゴン?

「クロム様、飛竜は三匹程で足りますか?」
「うん。大丈夫だと思うよ~」
「!?」

 三匹!? 飛竜三匹って言った? ……あ、本当だ。担いでる以外に後ろに二匹引きずってる。いやいや!? ちょっと待って、頭が追いつかない!?
 突如出現したファンタジー感あふれるドラゴンを見て、完全に停止しかけている俺の頭に追い打ちをかける様に、今度は別の方向から巨大な緑の塊――もとい、野菜の塊が浮いた状態でこちらに向かってくるのが見える。

「クロム様~お野菜取ってきたですよ~」
「ありがと~」
「!?!?」

 聞こえてくる幼い声の方向に目を向けると、空飛ぶ野菜の下に50cm程の少女が見えた。え? 妖精!? 今度は妖精!?

「お~い。クロム様。魚取ってきましたぜ」
「おぉ、ナイスタイミングだよ」
「!?!?!?」

 今度はでかっ!? 巨人!? いやいや、待って!? お願いだから、ちょっと待って!? 全然頭が追いついてないからね!?

「調味料類も、これで全てですかな?」
「あ、そうだね~」
「!?!?!?!?」

 豪華な服来た全身ガイコツが空飛んできた!? なんなのこの状況!? 幼女魔族にメイドに全身甲冑騎士に妖精に巨人にガイコツ!? ファンタジー感特盛りだよ!? 

 拝啓、お母様、お父様――バーベキュー会場にやってきました。そして――非常識な魔族の身内は、やっぱり非常識でした。







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