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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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ロリコンではありません


 異世界の代名詞とも言える魔法について、リリアさんの言ってた事とクロが今話してる事が噛み合わない。リリアさんは魔法の習得は難しく、早くても数ヶ月かかると言っていた。しかしクロはそれに対し僅か数日で習得可能だと言ってのけた。どちらも嘘を言ってたような感じではないのだけど……

「カイトくん、ちょっとその本見せてくれる?」
「え? ああ」

 クロも同じ様な疑問を抱いたのか、俺が持っていた入門書を見てみたいと言ってきた。特に断る理由も無く本を渡すと、クロはそれをパラパラと流し読みしていく。

「あぁ、成程ね~人族の魔法指導はこんな風にしてたんだ……確かにこれだと、時間かかっちゃうね」
「それは、人族の勉強方法が間違ってるって事?」
「うん? いや、よく出来てると思うよ。ただこれってさ、『魔法具を作れる術者』を育てるって言うのかな? 理論を伴って覚える感じになってるから、どうしても時間かかっちゃうんだと思うね~」
「うん? ちょっとよく意味が……」

 クロは何かに納得している様だったけど、正直俺にはよく分からなかった。するとクロは本を閉じ、にこっと愛らしい笑みを浮かべてから説明してくれる。

「魔法を発動するだけって言うなら、魔力を動かす感覚だけ掴めば出来るんだ……例えば――」
「おぉ……本が浮いてる」
「うん。魔力で浮かべただけなんだけど、この程度は人族とか魔族とか関係なくちょっと魔力が動かせるならイメージするだけで出来るね。でも、これと同じ事が出来る魔法具を作ろうって思うと、ちょっと複雑になってくるんだ」
「ふむふむ」
「魔法具って魔水晶に術式を書き込む訳だから、これと同じ事をしようとすると……対象を指定する術式、対象を浮遊させる術式、高さを調整する術式、それに発動と終了の切り替えで――こんな感じになるかな?」

 クロの説明と共に空中に光る文字が何行も浮かびあがり、それが丸まる様に魔法陣へと変わる。こうして見ると何か魔法っぽい。

「これが感覚的に魔法を使うのと、理論的に魔法を使うのの差だね。ほらカイトくんだって、手を動かすのは簡単にできるでしょ? でも、その原理を理論的に文字で書き出せって言われると難しいと思わない?」
「……成程、確かに……」
「ボク達魔族にとって基本魔法は使えて当たり前、魔法具職人とか目指したり、もっと複雑で強力な魔法を使いたい場合にだけ勉強するって感覚なんだけど……人族にとっては魔法が使える子は魔法具も作れるって感覚なんだろうね。だから理論を伴って勉強してるんだろうね~真面目な人族らしいと言えばらしいね」

 成程、クロの説明は分かりやすい。人間は複雑に考える所があると言うのも間違いないと思う。
 となるとどっちが正解ってわけでもなく、あくまで文化的な違いと言えるのかもしれない。昼間にリリアさんが言っていた様に、人族にとって魔法を使える人ってのは一種の職業で専門家。でも魔族にとっては魔法が使えるのは当り前で、それを深く研究したりする科学者的な者達だけがプロフェッショナルって感覚って事だ。

「まぁ、この勉強は無駄にはならないね。しっかりした理論は上位魔法とかを使おうと思ったら必要になるし、流石人族って言うべきか細かな理論立てが上手いから、これ覚えれば魔法具も作れるようになると思うよ~」
「う~ん、でも、早く魔法を使ってみたいと言う気持ちもあるにはあってね」
「じゃ、ボクが教えてあげようか?」
「え?」

 理論が大切だと言うのは分かるけど、やっぱりそこは折角の異世界なんだし魔法を使いたいって気持ちも強い。魔法具を作ろうと思わなければ、簡単な魔法なら短期間で使用できると聞くとどうしてもそちらへ欲求が傾いてしまう。
 そんな事を考えていると、クロが笑顔を浮かべながら提案してくる。

「理論的なのはその本とかと合わせて勉強していけばいいし、感覚的なのはボクが教えてあげるよ。これでも、ボクって結構魔法は使える方だと思うよ?」
「……いいの?」

 それは正直凄くありがたい申し出だが、同時に恐れ多いとも感じてしまう部分がある。多分と言うか、間違いなくクロは魔法について相当詳しく長けている存在なんだと思う。てか、少なくとも現状俺がこの異世界で知る存在の中では飛び抜けている。コートから色々な物を取り出したり、頭に思い浮かべた人物を捜索する魔法具を作ったり、空を飛んだりと出来ない事なんてないんじゃないかってレベルだ。

「いいよ~ボク、カイトくんの事気に入ってるし、教えられる事なら教えてあげるよ」
「あ、ありがとう」

 包み隠さないストレートな好意が籠った笑顔。一体俺のどこを気に入ってくれたのか、クロは俺に対してやたら好意的に接してくれる。勿論現状振り回される事が圧倒的に多い訳だが、クロと話していると不思議と安心出来るし、何より気が楽だと感じる部分がある。
 まぁ、何と言うか、やはり俺も男と言うか……実年齢は遥か年上とは言え、これだけ可愛らしい美少女にストレートに好意を向けられると照れてしまう。
 ただ同時に、実は俺ってロリコンなんじゃないか? と変な恐怖が浮かび上がってくる。い、いや、違う! 俺はロリコンじゃない!? 今までぼっちで、こんな風に懐かれた経験がなくて戸惑ってるだけなんだ!!
 そんな俺の心の葛藤を知ってか知らずか、クロはいつも通りニコニコした笑顔を浮かべながら指導を始める。

「じゃ、一番最初は初歩の初歩。魔力の扱い方からだね。カイトくんは、自分の魔力の感覚は分かる?」
「いや、分からない」
「うん、まぁ今まで魔法とは無縁の世界に住んでた訳だし、可笑しなことじゃないよね。じゃあ、ほいっと――」
「ッ!?」

 そう言ってクロが俺に向けて指を一回転させると、俺の体が淡い光に包まれじんわりとした暖かさを感じる。

「今、目視できるようにしたボクの魔力でカイトくんの体を包んでみたけど……どんな感じがする?」
「う~ん。ぬるま湯に浸かってるみたいな……暖かい感じ?」
「うん。その感覚は大事だよ。それが魔法を使う上での基本の状態になるからね。今日はそのまま少し動いたりして、魔力の感覚ってのをしっかり覚えてみよう!」

 拝啓、お母様、お父様――異世界で魔法の先生が出来ました。でも、俺は――ロリコンではありません。






















 時間は少し遡り、魔界のとある建物の中。
 新年を祝う魔族達の様子をのんびりと眺めていたクロムエイナの元に、骨と羽で出来た儀式用仮面を被った魔族が近付いてくる。

「クロム様、シンフォニア王国より招待状が届いております」
「うん? 招待状……なんの?」

 ベビーカステラを口に放り込みながら、クロムエイナは心底不思議そうな顔で振り返る。

「新年を祝うパーティのものですね。恐らく今年の勇者役の紹介も兼ねているのかと思いますが……」
「新年の? ……何で今年に限って送って来たんだろう? 今まで出た事なんてあったっけ?」
「いえ、ありませんな。恐らくですが、少し前にクロム様が国王の元を訪れたからではありませんか?」

 クロムエイナは魔族であり、基本的に新年の過ごし方も魔界の形式で過す。故に今までも人族が各国で新年4日目に行うパーティにも参加した事は無く、人界でもそれは理解しているのか招待状を送ってきた事は無かった。
 しかし今年は珍しく招待状が送られてきており、その原因は恐らく先日シンフォニア国王の要請に応じて城を訪れた事が原因だろうと仮面の魔族は語る。

「……たまたま近くに居たから行っただけなんだけどね~」
「ああ、そう言えばジャムを買いに行かれたのでしたな。良い物が買えましたか?」
「うん、良い甘さでベビーカステラとよく合うよ」
「ほほぅ、それは何よりですな」

 嬉しそうに告げるクロムエイナの言葉を聞き、仮面の魔族もまるで己の事の様に喜ばしいと何度も頷く。

「……して、返答はどうされます?」
「興味ないから、不参加で~」
「ははは、でしょうな」

 そして改めて差し出されたシンフォニア国王の印が押された豪華な招待状を横目に見て、クロムエイナはあっさり興味がないと言い切る。仮面の魔族もその返答は分かっていたのか、特に疑問を抱いたりする事は無く頷く。

「しかし、一応今年の勇者役も見られますよ?」
「今年はそっちも興味ないかな~ボクもう『お気に入り』の子見つけたし……」
「おやおや、それはそれは……運が良いですな、クロム様に見染められるとは」
「そうそう! 本当に久しぶりだよ! 一目見てビビッと来たんだ~運命感じちゃうね!」

 先程までの興味なさげな表情から一変し、クロムエイナは満面の笑顔を浮かべる。余程その相手の事が気に入ってるのか、分かりやすい程上機嫌になったクロムエイナを仮面の魔族は微笑ましそうに見つめる。

「では、不参加と返答しておきます」
「うんうん。ボク今その子に夢中だから、他に興味ないしね」
「クロム様の御心のままに……」
「あ、それと……『シロ』に手紙書いといてくれる?」
「『シャローヴァナル』様にですか? 畏まりましたが、何とお書きいたしますか?」

 クロムエイナの口にした名を聞き、仮面の魔族は少しだけ驚いた表情を浮かべる。クロムエイナがその愛称で呼ぶ相手は一者しかいない。態々様を付けて呼ぶ程の存在であり、少なくとも仮面の魔族にとっては雲の上の存在と言っていい。

「簡単にでいいよ~シロなら『カイトくんに祝福かけたげて~』だけで分かると思うから」
「……畏まりました」

 クロムエイナの告げた内容に、仮面の魔族は内心驚きながらも頷く。
 っとそのタイミングで、豪華なソファーに寝転がっていたクロムエイナはガバっと勢いよく体を起こす。

「はっ!? カイトくんが、ボクを呼んでる気がする! ちょっと出てくるね~」
「え? あ、はい。いってらっしゃいませ……」

 言うが早いか黒い光りに包まれた後でクロムエイナの姿は消え、やや戸惑いがちの仮面の魔族だけがその場に残る。
 少しするとそんな仮面の魔族の元に、漆黒の甲冑を纏った騎士が近付いてくる。

「おや? クロム様は?」
「おお、『ノイン』殿……なんでも、カイトクンとやらが呼んでる気がすると……」
「カイトクン? ああ、クロム様のお気に入りになった異世界人ですね」

 唖然とした様子で話す仮面の魔族の言葉を聞き、ノインと呼ばれた漆黒の騎士は納得した様子で頷く。

「いやはや、本当に気に入っているご様子で……シャローヴァナル様に祝福を依頼するとか……」
「シャローヴァナル様の祝福!? それはまた、凄まじい所に頼みますね。さすがクロム様というか、何と言うか……」
「その異世界人も、何とも難儀なですなぁ……」
「……まぁ、クロム様に気に入られた時点で振り回される事は確定してるみたいなものです……『私の時も』そうでしたから……」

 本人が知らぬうちに外堀が凄まじい事になっているのを実感し、仮面の魔族とノインは快人を哀れむ様な溜息を吐いた……自由奔放という言葉が服を着て歩いている様な主に振り回されるであろう、彼の未来を想像して……







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