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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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チェンジで

 周囲に嵐の前の静けさが訪れ、対峙した者達がそれぞれ動き始める。
 一番初めにアニマが加速し、左右に分かれたイータとシータの内、近くに居た大盾を持つシータに迫る。

 アニマは子爵級高位魔族に匹敵する戦闘力を有しており、現在は不眠不休で走って来た為、かなり疲労は溜まっているが、それでもこの中では頭一つ抜けた力がある。
 猛然と駆けながら拳を振り上げて迫るアニマに対し、シータは動かず大盾を構える。

 アニマは目の前に壁の如く構えられた盾に対し、躊躇することなく拳を叩き込む。
 元がブラックベアーであり、圧倒的な腕力を持つアニマの一撃にシータは盾を構えたまま少し後ずさったが……膝を付いたのはアニマだった。

「アニマッ!?」
「……今のは……」

 快人が慌てた声で名を呼ぶが、アニマは膝を付いたまま怪訝そうな表情を浮かべていた。

「……己の攻撃を喰らった気分はどう?」
「己の攻撃、だと?」
「そう、私の盾は受けたのと同じ衝撃を相手に返す」
「……成程、今の衝撃は反射魔法か……」

 シータは防御魔法と得意としており、攻撃手段はカウンターが主体。
 近距離物理攻撃を主体とするアニマにとっては、正に最悪の相性と言える敵だった。

「……確かに貴女は強い。攻撃力も防御力も私より遥かに上だと思う。私の攻撃じゃダメージなんて与えられないかもしれない。でも、貴女自身の攻撃なら別……」
「……」
「素早く回り込んで盾を掻い潜ればって思ってる?」
「ッ!?」
「無駄。貴女は遅い、スピードだけは私の方が速い……回り込む事は不可能。そして、どう見ても魔法が得意そうには見えない……貴女に私の防御を掻い潜る術は無い」
「……」

 余裕のある表情で淡々と語るシータに対し、膝を付いたままアニマは微かに顔を伏せる。
 絶望的な状況を理解した……そう思うシータの考えとは裏腹に、アニマの口元には凶悪な笑みが浮かんでいた。

「ふ、ふふふ……はっ、ははは!」
「なっ!?」

 笑いながら起き上がったアニマは、一切の躊躇なくシータの大盾に拳を叩き込む。
 当然その衝撃も同じ衝撃が返されダメージとなるが、アニマは欠片も気にした様子もなくさらに拳を振るう。

「回り込む? 掻い潜る? あり得ない話だ!」
「ッ!? ……馬鹿? いくら、攻撃しても無駄。私の盾の強度は……」
「関係ない!!」
「ぐっ、うぅ……」

 続けざまに振るわれる拳の衝撃で、シータは後方に押されていく。

「生憎と、自分は突撃粉砕以外の戦い方は知らん!」
「あぅっ!?」
「受けた衝撃と同じ衝撃を返す? つまり、無効化している訳ではないのだろう! ならば、砕けるまで叩き込むだけだ!!」

 アニマの振るう拳は、一撃ごとにさらに威力を増し、重く深く叩き込まれていく。
 そのあまりの衝撃に、ついに盾の方が悲鳴を上げ始め、小さな亀裂が入り始める。
 返された衝撃も蓄積し、アニマの口元からは血が流れていたが……攻撃の手は緩むどころかどんどん苛烈になっていく。

「なにっ、こいつ……馬鹿すぎる。こんなの、まるで、野生の、獣……つぅっ!?」
「オォォォォォ!!」
「ひぃっ!?」

 アニマが猛獣の様な咆哮を上げ、今までで一番重く、鋭い拳が叩き込まれ……ついに大盾が砕ける。
 驚愕で目を見開くシータに対し、アニマは一切止まることなく手を伸ばし、シータの胸倉を掴む。

「ぐぅ……(な、何て腕力……ピクリとも動かない)」
「ガアァァァァ!!」
「がっ!? ふっ!?」

 アニマはそのまま片手で軽々とシータを持ち上げ、地面に叩きつける。
 背中から感じる凄まじい衝撃で、シータは苦悶の表情を浮かべ、そして徐々にその表情を恐怖一色に染めていく。

「……あ、あぁ……」

 自分を見下ろす鋭い瞳。それを見た瞬間、シータは完全に理解した。
 この獣は、一切手を緩めない……自分が戦闘不能になるまで、何の躊躇もなく、ただひたすらに拳を振るってくると……

 それはまさに、彼女が先程アニマに対して与えようとしていた絶望だった。
 もはや逃れる術など無い。目の前に居るのは捕食者で、自分はただの獲物……恐怖と共にそう理解した瞬間、獰猛な獣は拳を振り下ろした。
























「くそっ! ちょこまかと!」

 アニマとシータの戦いと時を同じくして、イータとジークリンデも激しい戦闘を繰り広げていた。
 アニマとシータの組み合わせとは逆で、身体能力で圧倒的に上回るのはイータの方であり、大槍から放たれる強力な攻撃は、一撃でジークリンデを戦闘不能にする程の威力がある。
 しかし、その強力な攻撃は……未だ一発もジークリンデには届いていなかった。

「初撃の時とはまるで別人、貴様、力を隠していたのか!」
「隠していた訳ではありません。失っていました」

 横凪ぎに振るわれる大槍を、斜めに構えた双剣で上方に受け流しながら、ジークリンデは静かに告げる。

「リリ……友人には黙っていましたが、私の体は割とボロボロでした。一番重傷だったのは喉ですが、それ以外もボロボロでしてね……今までは、平時でも身体強化魔法を使う事で誤魔化していました」
「ッ!?」
「流石、噂通り……いえ、噂以上の効果です。本当に全身、完全に治癒されました……お陰で、今の私は全盛期、いえそれ以上です。頭でイメージした通りに体が動いてくれるのは、ありがたいものですね」
「なめるな!」

 苛立ちと共に放たれた高速の突きは、あっさりと受け流され、ジークリンデの左方に逸れる。
 先程からずっとこの繰り返しだった。
 突き、薙ぎ払い、振り下ろし……様々な攻撃を放つイータだが、ジークリンデはその全てを受け流している。

「なぜだ! なぜ当らん! 我の方が、パワーもスピードも圧倒的に……」
「ですが……拙い」
「なっ!?」
「確かに貴女の方が、身体能力は遥かに上でしょう。ですが、恵まれた才に驕り、ロクに研鑽のつまれていない攻撃。その技量では……私の体に刃は届きません!」
「くっ!?」

 そう、現在の状況はその一点によるものだった。
 身体能力では圧倒的にイータが上だが、技量はジークリンデが遥かに上回っている。
 長く実戦で磨かれ、洗練された優雅とすら言える体捌き、圧倒的な訓練量と経験からくる技術……戦士としての錬度ではジークリンデが圧倒していた。

「確かに……貴様の技量が凄まじいのは、認めざるおえない。だが、受け流すだけでは我には勝てん。そもそも、貴様の攻撃で我にダメージなど……」
「10と8……そろそろですね」
「なに?」

 ジークリンデの技量が己を遥かに上回っている事は、イータも理解出来た。
 しかし身体能力でイータが上回り、互いに決定打が無い状況で持久戦に移行すれば、間違いなく自分が勝つ。
 そう思いながら告げたイータの持つ槍に向かって、ジークリンデは初めて鋭く剣を振るった。

「なっ!? ば、馬鹿な!?」

 とは言え十分に受け止まられる程度の威力、そう思って大槍で剣を受け止めようとしたイータだが、ジークリンデが振るった炎剣が大槍に当たると……大槍は粉々に砕け散った。

「……い、一体、何をした……」
「良い槍ですね。10重ねて、ギリギリ砕けましたか」
「何をしたと聞いている!!」
「……私は、かつて己の無力さを実感して以来、研鑽の為に最も得意としていた魔法を封印していました」
「……得意、魔法?」

 冷静さを完全に失って叫ぶイータに対し、ジークリンデはあくまで穏やかに告げる。
 そう、ジークリンデはかつて第二師団が襲撃された事件以降、あえて最も得意な戦い方を行わないようにしていた……強くなる為に。
 しかし今は、彼女にとって大切な人の身の安全がかかった事態であり、出し惜しみせずにそれを使用した。

「私が最も得意とする魔法は『付与魔法』……攻撃を受け流す度、貴女の槍には衝撃を加える術式を付与し、今それを発動させました」
「……ッ!? くそっ!?」
「……劣勢と見れば、一度退く……基本ではありますが、基本だからこそ、読まれていると考えるべきでしたね」
「なっ!?」

 状況を不利と見たイータは、素早く後方に跳躍しジークリンデから距離を取ろうとした。
 しかしジークリンデはそれを読んでいたらしく、双剣の片方を逃げるイータに向かって投擲する。

「付与した加速の術式は8重……発動!」
「がっ!?」

 ジークリンデの手から離れた炎剣は、空中で急激に加速し、赤き閃光となってイータを貫いた。

「急所は外しました……貴女の強度なら、死にはしないでしょう」

 そう呟いた後で、ジークはもう片方の炎剣を一振りし、刃の代わりにしていた炎を消す。
 イータとジークリンデの戦いは……能力で劣るジークリンデが無傷で勝利という、一方的な決着となった。



























 正直何が起こったのか、殆ど見えなかったが……地面に倒れるイータと、地面にめり込んでいるシータを見れば、ジークさんとアニマが勝った事だけはハッキリと分かった。

「と、と言うか!? アニマ、ストップ! もうやめてあげて!!」

 もう完全に意識を手放しているシータに、引き続き拳を叩き込もうとしていたアニマを慌てて止める。
 シータの方は、本当にもう見るも無残な状態になってるんだけど……あれ? 生きてるのかな?

 アニマは俺の指示に従って拳を止め、ジークさんと共に俺の前まで歩いて来て……再び構えをとる。
 二人共一切警戒を緩めていないのは……まだ一体、青髪の男性が残っているからだろう。
 結局イータとシータがやられてても、一切手出ししてくる様子は無かったが……

「……やれやれ、バッカス様が下っ端に経験をと言うから黙って見ていたが……何とも情けない」

 これまでずっと沈黙していた青髪の男性は、吐き捨てる様に呟いた後で鋭い視線をこちらに向けてくる。

「戦王様の名に泥を塗るとは……仕方がない。愚か者の尻拭いをしてやるか……」

 そう言って一歩前に進み、青髪の男性は俺達をゆっくり見渡してから口を開く。

「我が名は、シグマ……『男爵級高位魔族』だ」
「「「ッ!?」」」

 予想はしていたが、爵位級高位魔族と言う言葉を聞くと衝撃が走る。
 ここで、強力な魔族は不味い……アニマはあちこち怪我しているし、ジークさんも余裕そうに見えるが、肩が上下していて疲労が見てとれる。
 イータとシータも決して弱い訳では無かった筈で、直ぐに決着がついたとはいえ、二人共万全とはとても言えない状態だと思う。

 背中に再び冷たい汗が流れるのを感じていると、シグマは腰を落とし、居合いの様な構えをとる。

「そこに転がっている愚か者共を倒してぐらいで良い気にはなるなよ? 所詮そいつらは、下っ端……我の足元にも及ばない……」
「……」
「さて、それでは……参るぞ!」
「ちょ~っと、待った~! そこまでですよ!」
「……え?」

 今まさにシグマがこちらに向かって来そうな……正しく一触即発の状況で、その場に全く不釣合な気の抜けた声が響く。
 その声に導かれる様に、近くの建物に視線を動かすと……

「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 常連客を守れと、私を呼ぶ! とうっ!」
「……」

 屋根の上から飛び降り、俺達の前に着地する奇妙な物体……物凄く見覚えがある。

「愛と正義の使者! 謎の助っ人美少女! マジカル・ラブリー・魔法少女! アリスちゃん、参上!」
「……」

 ビシッと、ポーズを決める猫の着ぐるみ……こんな奇怪な奴は、一人しか知らない。
 これは、その何と言うか……

「……チェンジで」
「チェンジとか、そう言うの無いっすからね!? 返品不可! クーリングオフ無し!」

 ……とてつもない悪徳業者である。

 拝啓、母さん、父さん――ジークさんとアニマは見事、イータとシータに勝利したんだけど、そこでさらに爵位級高位魔族が牙を向いてきた。そして、新たな助っ人が現れた訳なんだけど……やっぱ、もう一回言わせて――チェンジで。
















快人(馬鹿なっ!? は、早い!? こ、こいつ……今の一瞬で一体どれだけボケた? 口上、勝手に常連客ってカウント、謎とか言いながら名乗ってる、マジカルと魔法少女が被ってる……くそっ!? ツッコミが追い付かない!? ま、まだだ、諦めるな! ここでボケに屈する訳にはいかない、考えろ……一発で切り返せる、起死回生のツッコミを……)

とか、別の所でわけのわからない攻防が繰り広げられていたかもしれません。
+注意+
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