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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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戦いが始まった



 水の月15日目。リリアさんの屋敷で飼わせてもらう事になったベルも生活に慣れ、使用人の人達ともすっかり仲良くなってくれた。
 そして現在俺は最近行く機会が増えたアリスの雑貨屋へ再び向かっていた。
 と言うのも、以前行った時に色々あったせいで……アリスの予定を聞き忘れてしまったからだ。

 クロはいつでも構わないと言ってくれたが、出来るだけ早めの方が良いだろう。
 普通なら以前大金を獲得しているので当分生活に心配は無いと考えるべきかもしれないが……相手はあのアリスだ。ちょっと目を離すといつの間にかそれが全てギャンブルに消えてた、何て事がありそうで怖い。

 道を進み、少し大きめの通りに出た所で奇妙な違和感が現れる。
 薄い膜を通り抜けた様な……説明は難しいが、そんな感覚を覚えた。
 首を傾げて周囲に視線を動かしてみるが、特に何も無く道は静かなもので、違和感を感じつつも足を進める事にした。

 しばらく進み、間もなく雑貨屋のある通りに差し掛かると言った辺りで……違和感はより強烈なものへ変わった。
 ……誰ともすれ違って無い。この時間帯の、この道で?
 いつもならこの辺りには出店が出ていたりして、賑わっている筈であり、誰も居ないと言うのは明らかに異常事態と言えた。

 不安を覚えつつ周囲を見渡すと、進行方向……道の先から、三つの影が近付いてくる。
 赤く長い髪で身の丈を超える大槍を持った女性、髪が短い以外はその女性と全く同じ顔で巨大な盾を持った女性……双子だろうか?
 そして、その後方に日本刀に似た剣を持つ青い髪の男性……凄く嫌な感じがする。感応魔法が感情を読みとってるみたいで……敵意に似た気持ち悪い感情が向けられているのが分かった。

 三人は俺の前まで歩いてくると、数メートル開けて停止し、双子の女性が一歩前に出る。

「名はイータ」
「名はシータ」
「「戦王、メギド様の使いだ」」
「ッ!?」

 大槍を持った女性はイータと名乗り、大盾を持った女性がシータと名乗った。
 戦王の使い? つまりこの三人は魔族と言う事だろうか?
 何だろう、嫌な予感しかしない……少なくともこれまで聞いた戦王の話から考えると、良い内容な気がしない。

「メギド様は、貴様に会いたいと申しておられる」
「付いて来てもらおう」
「……」

 やっぱり、そういう類の話か……確か、クロは戦王はあまり話が通じる相手ではないと言っていた筈。
 背中に冷たい汗が流れるのを感じつつ、俺は双子の女性に向かって静かに問う。

「……もし、嫌だと言った場合は?」
「勘違いするな」
「貴様の返答は聞いて……いない!」
「なっ!?」

 言うや否や、大槍を構えた女性は一直線に俺に迫り、巨大な槍を突き出してくる。
 あまりに速く鋭い突き、かわせる筈もないその一撃が、俺に届くより早く……俺の後方から人影が飛び出した。

「……ッ!?」
「ジークさん!?」

 正直何が起きているのか、直ぐには分からなかった。
 なぜジークさんがこの場に居るのかもそうだが、大槍と双剣の一瞬の交差も、俺の動体視力では捕らえきれなかった。
 ハッキリ理解できたのは、大きな音と共にジークさんの持っていた双剣が砕け、ジークさんの体が近くの壁に叩きつけられた事だけ。

 その信じられない光景を見て、俺は直ぐに倒れたジークさんの元に駆け寄る。
 ジークさんはかなり大きなダメージを負っている様で、体を震わせながら、俺の方を見て「逃げて」と口だけを動かす。
 大槍の女性……イータの一撃がどれ程凄まじかったのかは、完全には理解できなかったが、ジークさんがぶつかった建物の屋根の付近が、半径1mの円状に貫かれていた。

「……ほぅ、中々どうして、見事な技量だ。交差の瞬間、相殺は不可能と見て我が一撃を逸らして見せたか……」

 シータの呟く声が、やけにハッキリ聞こえた気がした。
 ジークさんは俺に対して逃げろと言ったが、恐らく……いや、間違いなく俺がシータ達から逃げるのは無理だろう。
 俺が使える戦闘用の魔法はオートカウンターだけだが、あの魔法は別に俺の力が数倍に膨れ上がったりする訳ではない。
 俺が見えない攻撃は避けられないし、当然だがあんなスピードで動く相手から逃げる事は不可能だろう。

 ジークさんを傷つけられて、腸が煮えたぎる様な怒りを感じるが……どうする事も出来ない。
 自分の無力さを実感しつつ、俺はジークさんを庇う様に前に立つ。
 こいつ等の狙いは俺だ……いきなり攻撃を仕掛けてくる様な相手に話が通じるとは思えないが、ジークさんをこれ以上傷つけられる訳にもいかない。

 ……大人しく付いていくしかないのか……

「シータ、どうする?」
「生きていさえすればいい、逃げられない様に、四肢を切り落として」
「ああ、そうしよう」
「ッ!?」

 大盾の女性……シータの言葉を受け、イータは再び俺の向けて槍を構える。
 またあの攻撃が来る……そう思った瞬間、何故かイータとシータは後方に跳躍し、直後先程まで彼女達が居た場所に鋭い三本の線……爪痕が残った。

「何者だ!?」
「……ご主人様を傷つける? それはつまり……八つ裂きにして下さいと、そういう事だな!!」
「アニマ!?」
「遅くなりました! 不肖アニマ、任を終え、帰還いたしました!」

 黒い毛皮のマントをはためかせ、俺の前に立つ見覚えのある人物。
 それはリグフォレシアの警備隊に参加してもらっていて、一度別れたアニマだった。

「アニマ……どうやってここに?」
「はっ! 先日、警備隊の再編成が終わりまして『走って』来ました!」
「……そ、そうか」

 走って来た!? リグフォレシアからここまで!? 山三つ位越えないといけなかった筈なんだけど……
 アニマのとんでもない発言に俺が驚いていると、イータとシータは、先程より少し鋭い表情でアニマを見つめる。

「獣人? イータ、こいつ……強いよ」
「ああ、そのようだ。だが問題はあるまい、二体一なら――なにっ!?」

 いくらアニマが相手でも二体一なら勝てると踏んだのか、イータとシータはどこか余裕そうな表情を浮かべていた。
 しかそその表情は、直後に襲いかかって来た巨大な炎を見て一変し、素早く左右に分かれて跳躍してそれを回避する。

 俺の後方から飛んできた炎……今、俺の後ろに居るのは一人だけであり、それを放ったのは間違いなく……

「……思えば、くだらない拘りでした。ですが、中々どうして、捨てきれぬものでした」
「え?」

 それは、凛々しくも何処か優しく暖かい声だった。
 足音が聞こえ、一つの影が静かに俺の前に立つ。
 ショートヘアだった髪が肩辺りまで伸び、纏う雰囲気はどこか変わっていたが、その後姿を見間違える筈もなかった。
 手にした柄だけの剣には紅蓮の炎が揺らめきながら刃の形を保っており、その炎の光に照らされ、茜色の髪も陽炎の様に揺れる。

「ですが、貴方を守る為なら……未練がましく抱いた愚かな拘りも、捨てましょう」
「……ジーク……さん? もしかして……」
「はい。世界樹の果実、使わせてもらいました」

 ジークさんは美しい声でそう告げた後、真っ直ぐにイータとシータを見つめる。
 ジークさんの変化は髪が伸びて声が戻っただけでなく、身に纏う魔力も……明らかに大きくなっていた。
 いや大きくなったと言うよりは……元に戻ったと、そう表現する方が正しいのかもしれない。

 そしてジークさんはアニマの横まで歩いていき、炎で造られた双剣を構える。

「……私も戦います。貴女も、万全の状態では無い筈です。それと、私達の守りたいもの、守るべきものは……同じです」
「貴様……名は、何と言った?」
「ジークリンデです」
「……そうか……ジークリンデ殿、援護感謝する! 共に戦おう!」
「はい!」

 鋭く爪を伸ばし、臨戦態勢を取りながらアニマが叫び、ジークさんも双剣を構えながら強く頷く。

 拝啓、母さん、父さん――突然戦王の使者と言う連中に襲撃を受けた。大槍を武器にするイータ、大盾を構えるシータ、そして動く気配を見せない青髪の男性。今、イータとシータの双子魔族と、アニマとジークさんの――戦いが始まった。





























何もできないと言う快人に、魔法の言葉を教えてあげましょう。
「シロさん、助けて」
これで大体の事は解決するし、相手は死ぬ。

そして別にそれが無くても、イータとシータは次回負ける。
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