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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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最強が現れた


 突如現れた戦王の使者による襲撃、ジークさんとアニマがイータとシータと倒した後で、沈黙から動きだした男爵級高位魔族シグマ。
 そしてそこへ割って入る様に弩級の馬鹿が助っ人として現れた。

「私の扱い酷くないっすか!?」

 心の声に噛みついてくるなよ……
 ともあれアリスが助けに来てくれたのは、何だかんだでありがたい。
 あくまで今までの行動からの予想ではあるが、コイツかなり強いんじゃないかと思う。

「さてさて、カイトさんの敵はどこでしょう?」
「お前状況理解せずに来たの!?」
「いや~ぶっちゃけ、そこの『毛皮の方が現れた辺りから居た』んですが……カッコいい口上考えてたら、局面めっちゃ変わってて驚きました!」
「……」

 本当にコイツを頼りにしていいんだろうか……
 アリスは着ぐるみのままで、キョロキョロを周囲を見渡し、シグマの存在に気がついて首……体を大きく傾ける。

「……カイトさん、あれ、高位魔族じゃないですか?」
「男爵級高位魔族らしい……」
「あ、なんだ。男爵級っすか、安心しました」
「……そこの道化、何が言いたい……」

 着ぐるみの大きな手をポンっと合わせながら、気の抜けた声で話すアリスの言葉を聞き、明らかにシグマは不快そうな表情へ変わる。
 てか、アリス、出会って即効道化とか呼ばれてるし……

「いや、ほら、伯爵級以上の高位魔族とか、マジで化け物じゃないですか……流石にそれは厳しいな~っと思ってたんですけど……『弱そう』で良かったです」
「……貴様……我を、愚弄するか」

 のんびりと告げるアリスの言葉を聞き、シグマの額に青筋が浮かぶ。
 それでも即座に切りかかってきたりしないのは、武人としての誇りと言うか、アリスがまだ構えていないからだろうか? 

 そんなシグマに対し、アリスは悠然と振り向いて、一歩足を進め……膝から崩れ落ちた。

「ぐっ、うぅ……」
「アリス!?」

 なんだ、何が起こった!?
 何も見えなかったが、もしかしてもう攻撃が……

「こ、こんな時に、古傷が……」
「古傷?」

 目に見えない程素早い攻撃を喰らったのかと思ったが、どうもそうではないみたいだった。
 そのままアリスは、スッと手を横に出しその上に野球のボールぐらいの球体を出現させる。

「こ、こんな時に……この『最新式携帯照明魔法具1000Rの売上』さえあれば、あんな奴簡単に倒せるのに……」
「……」
「くそぅ、カイトさん達がやられるのを見てるしかないなんて!!」

 ……コノヤロウ。
 状況しっかり把握した上で、ふっかけて来やがった。

 俺は無言でアリスに近付き、その手から魔法具を取って銀貨を一枚置く。
 するとアリスは、何事も無かったかのように立ち上がる。

「カイトさんを傷つけようだなんて、他の誰が許しても私が許しません! かかって来なさい、下郎め!!」
「……」

 あれ? 俺今、アリスに助けられてるんだよね?
 何だろうこの気持ち……後頭部全力で殴りつけたいんだけど……

「茶番は終わりか? ならば、死ね!」
「なっ!?」

 その瞬間、シグマは既にアリスの眼前まで一瞬で接近していた。
 そして居合いの体勢から放たれた高速の一撃が、アリスの体を斜め下から真っ二つに切り裂く。

「アリスッ!?」
「アリスぅぅぅぅ!!」
「……うん?」

 それを見て反射的に叫ぶと、何故か俺の横からも別の声が聞こえて来た。

「なんて事っすか、あの、アリスがこうも簡単にやられるなんて……コレはとてつもない強敵の出現ですね! カイトさ――あいたっ!?」
「……何してるんだお前……」

 いつの間にかアリスは着ぐるみを脱ぎ捨て、オペラマスクの格好で俺の横に居て、当り前の様にふざけていたのでゲンコツを叩き落としておいた。
 アリスは俺に叩かれた頭をさすりながら、どこか呆れた様な感じで口を開く。

「だって~アイツ、トロくて……こっち来るまで暇だったんで、ちょっと観戦側に回ってました」
「……我が遅い? 言ってくれるではないか、道化」
「そっすね~私はほらやっぱり道化ですし、ファンファーレとかないとテンションあがらないんですよね~」

 明らかに苛立ちを強くして構え直すシグマに対し、アリスは依然余裕そうなままで呟きつつ、懐から懐中時計を取り出す。

「3……2……」
「貴様、一体何を――なっ!?」

 その奇怪な行動にシグマが怪訝そうな表情を浮かべた直後、シグマの足元に転がっていた着ぐるみの残骸が光を放つ。

「1……ど~ん」
「ッ!?」

 そして轟音と閃光がシグマの体を飲み込んだ。



























「道化め! 小賢しい真似を!」

 爆発によって巻き起こった煙を払いながら、シグマは忌々しげに叫ぶ。
 そしてそこへ煙を裂いて、数本のナイフが飛来する。

「ちっ!」

 しかしシグマも爵位級の高位魔族だけあり、素早く飛来してきたナイフを叩き落としていく。
 煙に紛れて飛んでくるナイフを全て叩き落としながら、煙で視界の悪い場所から離れようとした刹那、シグマは小さな風切り音を聞き、首を後ろに剣を移動させる。

「おや? 防がれましたか」
「……見くびるなよ(こいつ、完全に気配を消していた? 隠密か? 視界の悪い場は不味いな)」

 死角から振り下ろされたナイフを弾き、返す刃でアリスを牽制しつつ、シグマは爆煙に包まれた場所から移動する。
 そんなシグマに向かって、アリスは先程とは違って小細工無く正面から接近してくる。

「もらった!」
「よっと」
「なにっ!?」

 速いが隙だらけの突進に向かって、シグマが横凪ぎに剣を振るうと、アリスは低く……地面すれすれまで体を沈みこませてそれを回避。
 そして片手を地面に付いて体を反転させ、そのままの体勢からシグマの顔に向けて蹴りを放つ。

 非常にトリッキーな動きだが、シグマは蹴りの軌道を予測し素早い反応で回避……しようとした瞬間、アリスの履いている靴から仕込みナイフが飛び出す。

「ッ!?」
「うひぃ~コレでもかすっただけですか、大した反応速度っすね」

 仕込みナイフによる一撃でも直撃とはならず、アリスは素早く体を回転させて体勢を戻し、バックステップで距離を取る。
 シグマの身体能力であれば追撃は可能だったが、シグマは追わず、その場に立ったまま鋭くアリスを睨む。

「……多芸な奴だ」
「そりゃどうも」
「……(的確に急所を狙ってくる。しかもかなりの錬度……暗殺者か?)」

 シグマは今の攻防でアリスの力量を測っていた。
 スピードは早く、パワーはそれほどでもない。身が軽く、トリッキーな攻撃を繰り出してくる相手……

「貴様の力は概ね理解した。成程、確かにスピードは人間にしては凄まじい……が、我に敵うレベルでは無い。次の交差で貴様は死ぬ」
「顔に切り傷作って言っても説得力無いっすね。と言うか間抜けです」
「貴様……良かろう。その減らず口も終わりだ。貴様の自信があるスピード……所詮人間という種の限界だと、我が最速の一刀で教えてやろう」

 そう言ってシグマは深く腰を落とし、魔力を高めながら居合いの構えをとる。
 男爵級高位魔族の身体能力から放たれる超高速の一撃、それはもはや人間の知覚出来るレベルを遥かに超えた一撃であり、コレによって決着がつくと、そうシグマは思っていた。

 そして五歩分ほどある距離を一瞬で詰め、アリスの命を狩り取る一撃が放たれる――事は無かった。

「……なっ……に?」
「私、さっきのがトップスピードって、言いましたっけ?」

 そう、シグマが攻撃に移ろうとした時、アリスは既にシグマの目の前に降り、剣の柄……石突部分を足で踏みつけていた。
 今度こそ驚愕を浮かべるシグマに対し、アリスは悠然と手に持ったナイフを振るう。

「ぐっ!? くそっ!」
「……浅かったっすか」

 首に向けて振るわれた一撃を、後方に跳躍してかわすシグマだが、完全に回避は出来ず首からは血が流れる。

「そもそもの前提が間違ってるんですよね。確かに人間は種族的に見れば大半の魔族より身体能力で劣ります。でもそれがイコール勝てないって事じゃないんですよね~」

 へらへらと笑いながら話すアリス。男爵級高位魔族を圧倒してるとさえ見える状況を、離れた場所で快人と共に見ていたジークリンデは驚愕しながら口を開く。

「なんて……強さ」
「ジークさん、アレは魔法ですか?」
「ええ、恐らく速度のみを極限まで高めた魔法……だと思いますが、あんなとてつもないスピードでは、人族の動体視力で制御なんて出来ない筈ですが……」
「でも、今、アリスは……」
「ええ、信じられません。彼女は……たぶんリリより強い。明らかに人間としての限界値を超えている」

 アリスの戦闘力は、歴戦の戦士であるジークリンデにさえ信じられないものだった。
 その驚愕の視線の先で、アリスはシグマに向かって静かに告げる。

「爵位級と呼ばれる高位魔族には多いんですよね。己の力を過信してる奴って……自分の能力が人間より上だって信じて疑わない……私にしてみれば、良い獲物ですね」
「……確かに、認識を改める必要があるな。貴様は強い……冷静さを欠いては勝てる相手では無い」
「ですね~」
「だが、お喋りが過ぎたな。お陰で我は冷静になる事が出来た」

 シグマは先程までアリスの事を格下の相手と考えていた為、油断していたとも言えたが……今の攻防と、アリスの言葉で冷静さを取り戻す事が出来た。
 元々純粋な戦闘力と言う点を考えれば、アリスはスピード以外はシグマに大きく劣る。
 冷静に警戒しつつ、堅実な攻め来られたら勝つのは難しくなってしまう。

 しかし、シグマの言葉を聞いたアリスは特に慌てる様子もなく、口元に笑みを浮かべる。

「問題無いですよ……『もう終わりました』から」
「何だと?」
「……折角ですし、私の通り名。教えておいてあげますよ」

 そう言いながらアリスは、自分の足元にナイフを投げつける。
 するとシグマの足元……影が無数の槍の様な形状へと変わり、シグマの体を串刺しにした。

「がっ!? はっ!?」
「……影刃シャドウエッジ……まっ、別に覚えとかなくて良いですけどね」

 串刺しにされて倒れるシグマに対し、興味なさそうに呟きながら背を向ける。
 相手は男爵級高位魔族……魔界でも上から数えた方が早い実力者の筈だが、結果として終始アリスにペースを握られ、一太刀も入れられないままで敗北する事になった。



















「いや~強敵でしたね」
「……アリス、って実は凄かったんだ」
「え? なんすか? 物凄い意外そうな感じ!? 今まで私の事を何だと思ってたんですか!」
「ただの馬鹿」
「カイトさん、私に対してだけ辛辣すぎないっすか!?」

 結局圧勝してしまったアリスを見て、俺は驚きながら声をかけたが……アリスはいつも通りだった。

「アイツは、死んだの……か?」
「いえ、ちゃんと急所は外しましたよ。じゃないとカイトさんに怒られそうですしね~」

 笑いながら告げてくる言葉に、思わずホッと息を吐く。
 襲いかかって来た相手に対し甘い考えかとも思うが、やはり誰かが死ぬ光景と言うものはあまり見たくない。

「まぁ、後は何でカイトさんを襲ったか、適当に聞き出して……」
「アリス?」
「あ~カイトさん、私やっぱ帰って良いっすか? 流石にあれには勝てないですし……」
「え?」

 今まで余裕そうだったアリスの表情が崩れ、額に一筋の汗が見えた。
 その只ならぬ様子に不安を感じながら、アリスが見ている方向に視線を動かす。

 すると道の先から、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる者が居た。
 見るからに重そうな鎧を身に纏った2メートルを優に超えるであろう巨漢の老人。
 その手には巨大な斧が握られており、鎧の音と相まって強烈な威圧感を放っていた。

「まったく、あれ程功を急くな、メギド様の意思を読み違えるなと言うたであろうに……」
「そんな……まさか……あれは『鉄血のバッカス』……」

 深い経験を感じる落ち着いた声で告げる老人を見て、ジークさんが震えながら呟く。
 鉄血のバッカス……アリスやジークさんの反応を見れば、とてつもない相手だと言うのは理解が出来る。
 一体何者なんだろうと思う俺の疑問を感じたのか、アリスが緊張した声で答えてくれる。

「戦王様に仕える五体の伯爵級高位魔族……戦王五将の一角……ハッキリ言って化け物ですよ」
「……ヤバい相手って事か……」
「ヤバいどころじゃないですよ。伯爵以上の高位魔族は本当に別格っす。街ごと消し飛ばせるぐらいの力は持ってますよ……」
「!?」

 街ごと消し飛ばす程の実力者……どう考えてもやばすぎる。
 重い緊張に包まれる空気の中で、バッカスは俺の方を向き苦笑を浮かべる。

「ミヤマ・カイト……すまんな。余の部下が無礼をした」
「……え?」
「いやはや、最近の若い者は血気盛んで困る……部下に代わって謝罪しよう」
「あ、いえ……」

 特に険悪な雰囲気ではなく、まるで世間話をするかの様に話しかけて来たバッカスの言葉に、俺は慌てながら頷く。

「全く、いくら結界があって死王様や界王様に察知されないと言っても……危害を加えれば、後に殺されるであろうが、そんな事も分からんとは……もう少しきつく注意すべきだったかのぅ」
「……」
「……だが、まぁ、起きてしまった事は仕方ない。こちらに非がありながら勝手じゃと思うが……すまんのぅ、余も部下がやられておいそれと帰る訳にはいかん」
「ッ!?」

 ゆっくりと呟いたバックスの体から、暴風の様な魔力が放たれる。

「すまんが、余とも一戦交えてもらおうか……人族の戦士諸君」
「……カイトさん、ヤバいっすよ。勝ち目ないですよこれ。何とかカイトさんの幸運パワーで、超強力な援軍とか呼べないんすか?」
「そんな事出来たらとっくにしてる」

 大斧を悠然と構えるバッカスを見て、アリスは焦った様な声を上げ、ジークさんとアニマも緊張しながら硬直している。
 相手は街を消し飛ばせる程の力を持った存在……打つ手が無い。

 そしてそれは意識した行動では無かったが、俺はいつの間にか三人の前に一歩出て、庇う様な体勢になっていた。
 我ながら馬鹿な行動だと思うし、対策が思い付いた訳でもないが……三人を傷つけられたく無かった。
 しかしそんな俺の行動を見て、バッカスはどこか感心した様な表情を浮かべる。

「ほぅ……ただの若造かと思うたが、余の魔力を見て進んでくるとは、中々に気骨がある。そして、良い読みをしている……確かに、お主にそこに立たれると、余は困ってしまうな」
「……」

 何を言っているのか分からなかった。
 俺は別に何かしら考えがあって前に出た訳ではないのに、バッカスは困ると言って来た……良い読みをしているとも……

「メギド様はお主を連れてこいとは言ったが……危害を加えて良いとは言っておらぬ。仮にお主に危害を加えた事が、メギド様の意向に反した行動だった場合……余が殺されてしまう。つまり、余はお主を攻撃出来ぬ……」
「……」
「じゃが、それはあくまで……余がお主のみを除いて攻撃できないのであれば、じゃな。やれやれ、老体には辛いが……素早く動いて掻い潜るとしよう」
「ッ!?」

 一筋の光明が見えたかと思ったが、そんな事は無くバッカスは悠然とこちらに向かって歩を進めてくる。
 相手は伯爵級……恐らくさっきのシグマよりも遥かに速いのだろう。
 それに油断や隙も一切見えない……コレは本当に打つ手が無い……

「皆、逃げてく……」
「お断りします」
「ご主人様の命とはいえ、それには従えません」
「じゃ、お疲れ様でし……あ、いや、嘘です。私も残ります」

 戦王の元に連れていかれるのはもう諦めて、三人にだけは逃げてもらおうかと思ったが……拒否される。いや、一人普通に帰ろうとした奴が居たけど、ジークさんとアニマに睨まれて慌てて俺の前に立つ。

「カイトさんの幸運パワーも炸裂せず、ですかね……覚悟決めるしかない見たいっすね」

 そして今まさに、バッカスと三人の……勝ち目の無い戦いが始まろうとした瞬間、静かな声が響いてきた。

「……成程、幸運パワーとはよく言ったものです。私がたまたま通りがかったのも、一重にカイト様の期を呼び寄せる才故かもしれませんね」
「……え?」
「むっ……」

 聞き覚えのある声が聞こえ、いつの間にか俺達の前に一つの影が立っていた。
 買い物帰りらしく、片手に紙袋を持ちながら悠然と立つ存在は、バッカスに向かって静かに告げる。

「ご存じかと思いますが、刹那の時を職務遂行に当てるメイドである私は、無駄な工程と言うものを嫌います。故に、警告は一度だけとしましょう」
「……アイン……さん?」
「……降伏を勧めます」

 拝啓、母さん、父さん――一難去ってまた一難とはよく言ったもので、今度は伯爵級高位魔族が現れて、正しく絶体絶命の状況だった。しかし運は俺達を見放して無かった様で――最強メイドが現れた。














ネタバレ、メイドが勝つ。

メイドは異世界にて最強の職業。
+注意+
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