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ジャンバーお返しします!

木曜日。

一週間で1日だけゴミ収集がない日だ。

蓮は残念な気持ちになっていた。


低いエンジン音が聞こえてくる。


お疲れさまです!


蓮は慌てて、窓口の窓を開けた。

収集のない日でもパッカー車の運転手は休みなわけではない。

今日はアームロールの箱を載せた、4t車だ。

荷台を見ると、鉄屑の山だ。


蓮は、いつものパッカー車じゃないんですね?

ゴミ収集がない日でもわたしたちは休みじゃないんですよ?唯は汗を拭いた。


ジャンバーお返しします!

だけど、今じゃなくて、今度。


そう言うと、唯は蓮にLINEのアドレスを書いたメモを渡した。

登録してくださいね?

でないと、ゴミ収集しません!

唯はいたずらっぽく笑った。


蓮は帰宅すると唯にLINEを送ってみた。


こんばんは。蓮です。

今度ってなんですか?

あまり気を遣わないでくださいね。


暫くすると返信が来た。


次の日曜日、時間ありますか?


特に予定はありません。


じゃ、ご飯食べにいきましょう!

わたし、いいところ知ってるんです。


蓮は鼓動が早くなるのを感じた。


日曜日。

蓮は駅前で唯を待っている。


大きなSUVが来た。

唯が運転席から窓を開けて、さ、乗ってください。


蓮はお邪魔します。

綺麗な室内にいい香りの芳香剤。


蓮は、どこに行くんですか?


海!


え!?ドライブも?


はい。食事だけじゃつまらないでしょ?

ひとりで行ってもつまらないし…。

唯は前を見ているが、少し耳が赤い。


高速に乗る。

オシャレなシティポップが車内に流れている。


あの、蓮さん。敬語やめません?

なんだか、まどろっこしくて。


そうですね…。ボクもめんどくさいです。

静かに笑った。


ドライブインに寄るよ。

唯は伸びをして、あ~疲れた~!

唯さん。あっちにソフトクリームあるよ?


うわ!いいな!行こ行こ。

唯は蓮の少し先をスキップするように歩いている。


かわいいな…。


唯は、バニラください!

ボクは、チョコレート。


ふたりベンチに座って食べる。

そっちも食べさせて。

蓮は…っ

じゃ唯さんのも。


ソフトクリームを交換して食べる。

他人から見たら、どう見てもカップルだ。


再び、車に乗ると、海が見えた。


唯は、大きな声で、海だ~!


青い海の水平線と空の境界が曖昧に見えている。


海沿いのレストランに車を停めた。


ここのハンバーガーめっちゃ美味しいの!

へぇ、オシャレなとこだね!


ふたりはテラス席に座った。


あのさ、蓮さんは、あのとき何でわたしを手伝ったの?

だって、ひとりじゃムリなことだったから。

わたし、素直にうれしかった。

強がっていたけど、実はちょっと不安だった。


唯さんでも心配になることあるんだ。笑った。


もう!わたしだって普通の女の子なんですよ!

唯も笑った。


食事を終えると海岸へ。 

潮風が気持ちいい。


何でパッカー車の運転手になったの?

たしか、体を動かす仕事がしたいって言ってたけど。なにもキツイゴミ収集じゃなくても。

蓮は誰でも普通に持つ疑問をぶつけた。


あのね、わたしの前職は、焼却施設の営業だったの。蓮さんなら分かるよね。


修繕費、新しい焼却施設の入札。

億単位のお金が動く。


毎日、PC に向かって帰るのは夜中。


技術部門と営業部長に挟まれて、この見積り額じゃ作れない!勉強してんのかよ!?

技術部門に怒られる…。


この見積りで利益でるのか!?

だからって入札に負けたらわかるよな!

営業部長に怒られる…。


会社に行くと朝、吐いちゃうようになって。

だから、このままじゃ会社に潰されるって気がついたの。

辞めるとき、ゴミ収集のパッカー車ドライバーになるって言ったら、『底辺』って言われた。

言い返したかったけど、こういうこと言う人たちって変わらないからやめた。

自分がいつもお世話になっているのにね。


わたし、業界柄、ゴミ収集の問題は知ってたの。

ドライバーの高齢化、人員不足、募集しても応募がない。


じゃ、やってやろうじゃん!ってね。

実際にやってみて、めちゃめちゃキツイよ。

だけどさ、わたしたちがいなければ社会が回らない。

重要なインフラの仕事だと思っている。

別にありがとうって面と向かって言われなくてもさ、これで社会が回ってる。

それだけで重要な意味がある。


蓮は静かに聞いている。


唯は急にニシシと笑って


それにさ!

蓮さんみたいな変わり者と出会えたのは収穫。


変わり者って…。


だって役所の人がゴミステーションに来て、バケツリレーやる普通?

唯は嬉しそうに笑っている。


だ…だって、唯さん、いつも一生懸命で。

何か手伝えることはないかなって考えてたら、体が動いてた。


ボクさ、【環境衛生課】に異動決まったとき、実は唯さんの仕事、どこかでバカにしてた。

だけど、唯さんはもちろん、他のドライバーさんを見ていたら、考え方変わったんだ。


この業界は常に人不足だから、応募すればよっぽどのことがない限り、入社できる。

だけどね、続けられるのは、ほんの一握りの人たち。

そういう人を見てたらね。

頭が上がらないって思ったよ。


だから、ボクはパッカー車を運転するわけじゃないけど、その人たちを支えたいんだ。


波の音が微かにする。


蓮は急に思い出したように


そう言えば、ジャンバーは?


唯一は、ジャンバーを車のトランクに紙袋に入れて置いてあったが、咄嗟に忘れたことにした。

また逢いたい…。


あ!忘れちゃった!

わたし、食べ物のことしか考えてなくて!


あまりにも、取って付けたような嘘を言う自分が恥ずかしくなり、赤面して体が熱い。


蓮は、唯さん、意外とおっちょこちょいだなと、静かに笑った。


ごめん!また今度、必ず返すから!


別に慌てなくてもいいですよ。


ジャンバー忘れてくれて良かった…。

また二人で逢う口実ができた。

一緒にいたい。

蓮は密かに安堵していた。


あの、今度はボクが今日のお礼をします!


蓮の心は、パッカー車に回収されそうになっていた。



「最後までお読みいただきありがとうございました!少しでも面白い、続きが読みたいと思ったら、下部の【☆☆☆☆☆】と【ブックマーク】で応援していただけると励みになります!」

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