表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
規格外の実力を持つ俺、学園で唯一の最低ランク〜誰にも理解されないまま無双してしまう〜  作者: vastum


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/46

■第9話「理解の範囲」

“分かる”ということは、強さになる。


 ヴァンはそう考えている。



 どんな技術も。


 どんな戦い方も。


 どんな能力も。


 理解できれば、対処できる。


 完全ではなくてもいい。


 傾向を掴めばいい。


 再現性を見つければいい。


 それができれば、戦いは成立する。


 だからこそ。


 ヴァンはここまで来た。



「……面白いな」


 生徒会室。


 一人、窓際に立ちながら、ヴァンは呟いた。


 手元には一枚の資料。


 簡素な報告書。


 だが、そこに書かれている内容は簡素ではない。


 ――カイル。


 最低ランク。


 測定不能。


 ガルスに勝利。


 そして。


 “詳細不明”。


「詳細不明、か」


 小さく笑う。


 それ自体は珍しくない。


 報告書は簡潔にまとめられるものだ。


 だが。


 問題はそこではない。


「……何も分かっていない」


 それが異常だった。


 勝敗の報告がある。


 結果は明確だ。


 だが、過程が存在しない。


 記録されていないのではない。


 ――記録できていない。


 その事実が、ヴァンにとっては興味深かった。


(ガルスは強い)


 純粋にそう思う。


 二年の中でも上位。


 技術、身体能力、判断力。


 すべてが高水準。


 あのレベルであれば、普通は崩れない。


 少なくとも。


 “理由なく負けることはない”。


 だが。


 報告はそうではない。


「……理由がない敗北」


 ありえない。


 本来なら。


 だが、起きている。


 それも。


 一度ではない。


 再測定の場でも、同様の現象が確認されている。


 触れただけで崩れる。


 攻撃が当たらない。


 だが。


 その理由が、どこにもない。


(違うな)


 ヴァンは思考を修正する。


(理由が“ない”わけではない)


 正確には。


 ――“観測できていない”。


 そこが重要だった。


 理由が存在しない現象などありえない。


 もしあるなら、それは世界の法則そのものが崩れていることになる。


 だから、必ずある。


 ただ。


 “見えていない”。


「……そこだな」


 ヴァンは小さく呟いた。


 理解できないのではない。


 理解の“枠”から外れているだけ。


 ならば。


 枠を広げればいい。



 訓練場。



 ヴァンは一人で立っていた。


 人は少ない。


 放課後でも、今日は静かだった。


 理由は分かっている。


 多くの生徒が、別の場所にいる。


 “噂”の中心を見に行っている。


 だが、ヴァンはここにいる。


 理由は単純だった。


(直接見た方が早い)


 報告書では限界がある。


 実際に見て、感じて、考える。


 それが一番確実だ。


 軽く体を動かす。


 無駄のない動き。


 力の流れを確認する。


 地面の感触。


 重心の移動。


 呼吸。


 すべてが整っている。


 だからこそ分かる。


(あれは、整っていない)


 カイルの動き。


 いや。


 “動きがない”。


 それが異常だった。


 戦いには必ず流れがある。


 力の出入り。


 意識の移動。


 選択の連続。


 だが、報告されているカイルの戦いには、それがない。


 結果だけがある。


 過程が見えない。


(ありえない)


 だが、否定はしない。


 事実として存在している以上、それを前提にする。


 ヴァンはゆっくりと目を閉じた。


 イメージする。


 ガルスの動き。


 その軌道。


 そのタイミング。


 そして。


 “当たらない”という結果。


(ズレている)


 ほんのわずかに。


 だが決定的に。


 そのズレが、どこで生まれているのか。


 それが見えない。


「……面白い」


 自然と笑みが浮かぶ。


 久しぶりだった。


 ここまで“分からない”と感じるのは。



「やっぱりここにいたか」


 声がかかる。


 振り返る。


 そこにいたのは、ディアスだった。


「探していた」


「何か?」


「カイルの件だ」


 やはり、か。


 ヴァンは小さく頷く。


「どう見る」


 ディアスが問う。


 ヴァンは少しだけ考えた。


「まだ分かりません」


「正直だな」


「分からないものは、分からないとしか言えません」


 それが事実だった。


 ディアスは腕を組む。


「だが、お前なら何か見えているだろう」


「断片だけです」


 ヴァンは静かに言う。


「ですが、一つだけ確かなことがあります」


「何だ」


「“強い”ということです」


 ディアスは目を細めた。


「最低ランクだぞ」


「評価と実力は一致しないこともあります」


「今回は極端だな」


「ええ」


 ヴァンは頷く。


「ですが、それ以上に問題なのは」


 一瞬、間を置く。


「“再現性が見えない”ことです」


 ディアスは黙る。


「普通の強さであれば、対策が取れる」


 ヴァンは続ける。


「速度なら、予測で対応できる」


「力なら、防御で耐えられる」


「技術なら、読みで崩せる」


 だが。


「彼にはそれが通用しない可能性があります」


「なぜだ」


「過程が見えないからです」


 短い沈黙。


 ディアスはゆっくりと息を吐いた。


「厄介だな」


「ええ」


 ヴァンは同意する。


「ですが」


 少しだけ、笑う。


「だからこそ、価値があります」


 ディアスはその表情を見て、わずかに眉を上げた。


「楽しんでいるな」


「否定はしません」


 ヴァンは素直に答えた。


「こういう存在は、初めてなので」


 ディアスは小さく頷いた。


「ならば、任せる」


「何をですか」


「見極めだ」


 短く言う。


「お前なら、あれの“範囲”を測れるだろう」


 ヴァンは一瞬だけ考えた。


「……努力します」


 完全な肯定はしない。


 だが、断りもしない。


 それで十分だった。


 ディアスは背を向ける。


「結果を出せ」


 それだけ言って去っていった。



 ヴァンは再び一人になる。


 静かな訓練場。


 夕日が差し込む。


 長い影が伸びる。


「……カイル」


 名前を口にする。


 まだ、何も分からない。


 だが。


 分からないこと自体が、興味になる。


(どこまで行ける)


 ふと、そんな考えが浮かぶ。


 自分ではなく。


 相手に対して。


(いや)


 すぐに修正する。


(どこまで“通用する”)


 それが正しい。


 自分の理解が。


 自分の技術が。


 自分の“範囲”が。


 どこまで届くのか。


 それを試したい。


「……楽しみだ」


 静かに呟く。


 その声は、夕焼けの中に溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ