■後日談「同じ帰り道」
夜だった。
街灯が、等間隔に並んでいる。
その光の下を、ゆっくりと歩く。
特別な道ではない。
ただの帰り道。
何度も通っているはずの道。
それなのに。
今日は少しだけ、違って見える。
グレンは、手をポケットに突っ込みながら歩いていた。
横には、レイヴン。
少し後ろに、ナナとセラ。
そして。
少し離れた位置に、カイル。
いつも通りの並び。
何も変わらない。
はずだった。
「……なあ」
グレンが、ぽつりと呟く。
「なんだ」
レイヴンが答える。
「この道さ」
一拍。
「こんなに長かったっけ」
レイヴンは少しだけ考える。
「別に普通だろ」
「……そうか」
グレンは頷く。
だが、納得はしていない。
歩き慣れた道。
知っているはずの距離。
なのに。
少しだけ、遠く感じる。
ナナが言う。
「……長さは同じ」
「じゃあなんでだよ」
「分からない」
一拍。
「でも、違う」
セラが笑う。
「いいね」
その声が、少しだけ響く。
夜の静けさの中で。
ほんの少しだけ、重く。
グレンは、空を見上げる。
星が見える。
いくつか。
少ないが、はっきりと。
「……なんかさ」
一拍。
「ここ、前も通った気がするんだよな」
レイヴンが言う。
「毎日通ってるだろ」
「いや、そうじゃなくて」
言葉を探す。
うまく出てこない。
「……もっと、こう」
止まる。
立ち止まる。
その場で。
レイヴンが振り返る。
「どうした」
グレンは、少しだけ困った顔をする。
「……分かんねえ」
ナナが、ゆっくりと歩みを止める。
グレンの横に立つ。
「……ここ」
一拍。
「何かあった」
その言葉に、空気が変わる。
レイヴンが眉をひそめる。
「何だよそれ」
「分からない」
ナナは首を振る。
「でも」
一拍。
「“終わった場所”」
その言葉が、静かに落ちる。
誰も、すぐには答えない。
意味は分からない。
だが。
どこかで、納得している。
セラが笑う。
少しだけ優しく。
「いいね」
グレンは、周囲を見る。
何もない。
ただの道。
ただの街灯。
ただの夜。
それなのに。
胸の奥が、少しだけ痛む。
「……なんだよ、これ」
小さく呟く。
理由は分からない。
思い出せない。
それでも。
“何かを失った感覚”だけがある。
その時。
カイルが、ゆっくりと近づいてくる。
無言で。
いつものように。
グレンの横に立つ。
何も言わない。
ただ、そこにいる。
その瞬間。
胸の痛みが、少しだけ和らぐ。
「……ああ」
グレンが、小さく息を吐く。
レイヴンが聞く。
「どうした」
「いや」
一拍。
「なんか、大丈夫になった」
その言葉に、ナナがカイルを見る。
じっと。
何かを確かめるように。
「……関係ある」
「何がだ」
「分からない」
一拍。
「でも、繋がってる」
セラが笑う。
「いいね」
カイルは、少しだけ視線を落とす。
何も言わない。
言う必要がない。
その場所。
その道。
その時間。
すべて、知っている。
ここで。
一度、終わった。
すべてが。
消えた。
そして。
戻った。
何もなかったかのように。
だが。
“完全には消えていない”。
それが、今。
この違和感として残っている。
(……覚えてないか)
当たり前だ。
消えたのだから。
記録も。
定義も。
すべて。
それでも。
こうして、立っている。
同じ場所に。
同じメンバーで。
それだけで、十分だった。
グレンが、少しだけ笑う。
「……なんかさ」
一拍。
「一回、ここで終わった気がする」
レイヴンが呆れたように言う。
「だからなんだよ」
「いや、なんでもねえ」
グレンは首を振る。
「でもさ」
一拍。
「もう一回始まってるなら、それでいいかなって」
その言葉に、ナナが小さく頷く。
「……成立してる」
セラが笑う。
「いいね」
カイルは、空を見上げる。
夜空。
変わらない景色。
だが。
その奥に。
すべてがある。
終わりも。
始まりも。
その両方を知っている。
それでも。
何も言わない。
ただ。
今を選ぶ。
「行くぞ」
カイルが言う。
短く。
グレンが頷く。
「だな」
レイヴンも歩き出す。
ナナが続く。
セラが笑う。
「いいね」
五人が、再び歩き出す。
同じ道を。
同じ方向へ。
さっきよりも、少しだけ軽い足取りで。
終わったはずの場所。
だが。
今は、ただの帰り道。
それでいい。
それがいい。
その背中を見ながら。
カイルは、ほんの少しだけ思う。
(……これでいい)
すべてを知っている。
すべてを覚えている。
それでも。
今は、これでいい。
その選択。
それが。
この世界の答えだった。




