表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
規格外の実力を持つ俺、学園で唯一の最低ランク〜誰にも理解されないまま無双してしまう〜  作者: vastum


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/90

■第53話「もう一つの現象」

 昼だった。


 光は強く、影は短い。


 街は普段通りに動いている。


 だが。


 その“普段通り”が、どこか作られたもののように感じられた。


 さっきまでの封鎖が、嘘のように消えている。


 線も、歪みも、処理班の姿もない。


 何もない。


 だが、それが逆に不自然だった。


「……消えたな」


 レイヴンが周囲を見ながら言う。


「完全に」


「本当に消えたのか?」


 グレンが不安そうに聞く。


「見えなくなっただけじゃねえのか」


 ナナが静かに答える。


「違う」


「処理は終わってる」


「終わってるって……何がだよ」


「封鎖」


 つまり。


 目的は達成された。


 それ以上やる必要がない。


 セラが笑う。


「いいね」


 だが、その声には少しだけ違和感があった。


 カイルは何も言わない。


 ただ、歩いている。


 普通に。


 だが、その“普通”が、もう普通ではない。


 周囲の人間は近づかない。


 無意識に避ける。


 空気が、自然に道を作る。


 それが、当たり前になりつつある。


(……慣れてきたな)


 カイルは少しだけ思う。


 その時だった。


 違和感。


 ほんの一瞬。


 視界の端に、何かが映る。


 カイルが足を止める。


「……どうした?」


 レイヴンが聞く。


 カイルは答えない。


 ただ、前を見る。


 そこに。


 一人、立っていた。


 人混みの中。


 だが、誰にも触れられていない。


 避けられているわけでもない。


 ただ、“関係していない”。


「……誰だ、あれ」


 グレンが小さく言う。


 レイヴンも目を細める。


「気配がねえ」


「違う」


 ナナが言う。


「ある」


「でも」


 一拍。


「認識されない」


 その言葉が、静かに落ちる。


 セラが笑う。


「いいね」


 その人物は、ゆっくりとこちらを見る。


 目が合う。


 その瞬間。


 周囲の音が、ほんの一瞬だけ遠くなる。


 カイルは、分かる。


(……同じか)


 いや。


 同じではない。


 “近い”。


 その人物が、ゆっくりと口を開く。


「……見えてるんだ」


 柔らかい声だった。


 驚きも、警戒もない。


 ただ、確認するような響き。


 グレンが反応する。


「いや、普通に見えてるけど」


 だが。


 周囲の人間は、誰もその存在に気づいていない。


 ぶつからない。


 避けない。


 ただ、通り抜けるように動く。


「……ああ」


 その人物が小さく頷く。


「やっぱり」


 少しだけ、笑う。


「君は、こっち側だ」


 その言葉に、空気がわずかに変わる。


 レイヴンが一歩前に出る。


「何者だ」


 その人物は、レイヴンを見る。


 だが。


 反応が薄い。


「……ああ、ごめん」


「君は、ちょっと違う」


 その一言で、レイヴンの表情が変わる。


「どういう意味だ」


「そのままの意味だよ」


 柔らかく言う。


 だが、悪意はない。


 ただ、事実を述べているだけ。


 ナナが言う。


「……現象」


 その人物が、少しだけ目を細める。


「うん」


「それでいい」


 肯定だった。


 グレンが戸惑う。


「……いや、分かんねえよ」


「何なんだよ、お前」


 その人物は、少しだけ考える。


 そして。


「名前は、あってもなくてもいいけど」


 一拍。


「一応、呼ばれてるのは」


 少しだけ笑う。


「“空白”かな」


 その言葉が、静かに落ちる。


 セラが楽しそうに笑う。


「いいね」


 ナナが小さく呟く。


「……対になる」


 カイルはその人物を見る。


 違和感。


 強さではない。


 圧でもない。


 だが。


 “掴めない”。


 触れられる気がしない。


 その人物が言う。


「君は、面白いね」


 カイルに向けて。


「ちゃんと“存在してるのに”、ズレてる」


「普通は、どっちかなんだけど」


 少しだけ近づく。


 距離があるはずなのに、近い。


 カイルは動かない。


 その人物が続ける。


「でも」


 一拍。


「僕は、存在してない」


 その言葉と同時に。


 違和感。


 目の前にいる。


 だが。


 “いない”。


 認識が、揺れる。


 グレンが叫ぶ。


「……何言ってんだよ」


 レイヴンも眉をひそめる。


 ナナが言う。


「……消えてる」


「は?」


「存在が」


 その人物は笑う。


「そういうこと」


 カイルが、手を伸ばす。


 触れようとする。


 だが。


 触れられない。


 距離はゼロ。


 だが、接触が成立しない。


「……なるほど」


 カイルが小さく言う。


 初めて、言葉を返す。


「そういうタイプか」


 その人物が少しだけ驚いたように笑う。


「いいね」


「分かるんだ」


 カイルは何も言わない。


 ただ、見ている。


 その人物が続ける。


「君は、“ズレる”」


「僕は、“ない”」


 一拍。


「だから」


 少しだけ首を傾げる。


「多分、噛み合わない」


 その言葉は、静かだった。


 だが、重い。


 戦えない。


 触れられない。


 干渉できない。


 グレンが呟く。


「……それ、どうすんだよ」


 レイヴンが笑う。


「どうにもならねえな」


 セラが楽しそうに言う。


「いいね」


 ナナが静かに言う。


「……危険」


 その人物が頷く。


「うん」


「だから来た」


 一拍。


「確認に」


 カイルを見る。


「君は、どこまで行くのか」


 その問いに、カイルは答えない。


 ただ、立っている。


 その人物は、少しだけ満足そうに笑う。


「まあ、いいや」


「また来る」


 そう言って。


 消える。


 完全に。


 気配も、何も残らない。


 静寂。


 グレンがその場に立ち尽くす。


「……今の、何だよ」


 レイヴンが笑う。


「新しいな」


 セラが楽しそうに笑う。


「いいね」


 ナナが静かに言う。


「……同格」


 その一言で、空気が締まる。


 カイルは空を見上げる。


 昼の空。


 変わらない。


 だが。


(……面倒だな)


 初めて。


 “戦えない相手”が現れた。


 それでも。


 進むしかない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ