■第15話「測れないまま」
それは、静かな宣言だった。
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翌日。
学園中に、一つの通達が回った。
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「全生徒に告ぐ」
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放送が、校内に響く。
ざわめきが止まる。
廊下も、教室も、中庭も。
すべての音が、一瞬だけ消える。
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「本日より、一部評価基準の見直しを行う」
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その一言で。
空気が変わった。
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「……は?」
「評価基準って……」
「何が変わるんだ?」
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誰もが同じ疑問を持つ。
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だが。
その答えは、すぐに来た。
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「例外対象の設定を追加する」
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静かな声。
だが、よく通る。
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「測定不能、及び評価基準外の存在については」
一瞬、間を置く。
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「“例外ランク”として別枠で扱う」
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ざわめきが爆発する。
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「例外ランク!?」
「そんなのありかよ!」
「聞いたことねえぞ!」
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当然の反応だった。
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この学園は、明確な基準で成り立っている。
ランク。
順位。
数値。
それがすべてだった。
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だが。
それが、今。
崩された。
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「なお」
放送は続く。
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「該当者は一名」
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空気が、凍る。
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誰もが、分かっている。
それでも。
言葉を待つ。
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「カイル」
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その名前が、告げられた。
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完全な静寂。
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そして。
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爆発。
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「やっぱりかよ!」
「そりゃそうだろ!」
「一人だけかよ!」
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騒ぎが止まらない。
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カイルは、教室の席に座っていた。
窓際。
いつもの場所。
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(……また増えたな)
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面倒なものが。
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「お前……」
グレンが震えた声で言う。
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「“例外”って何だよ……」
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「そのままの意味だろ」
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「軽く言うな!」
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セラは、笑っていた。
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「いいじゃん」
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「どこがだよ!」
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「ちゃんと認められた」
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その言葉に、少しだけ空気が変わる。
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認められた。
確かに、それも事実だった。
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最低ランクではない。
だが。
上位でもない。
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――“別”。
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「……一番面倒なやつだろそれ」
グレンが呟く。
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「そうか?」
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「そうだよ!」
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ナナは、静かにカイルを見ていた。
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「……納得」
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小さく言う。
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「何がだ」
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「説明できないものは、別にするしかない」
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それは、理屈としては正しかった。
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だが。
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「雑すぎるだろ……」
グレンが頭を抱える。
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その時。
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教室の扉が開いた。
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ディアスだった。
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静かに入ってくる。
ざわめきが止まる。
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「聞いたな」
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短く言う。
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「これが学園の判断だ」
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誰も、反論しない。
できない。
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「基準に当てはまらない以上、評価はできん」
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視線が、カイルに向く。
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「だが」
一瞬、間。
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「放置もできん」
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その言葉は、重かった。
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「よって」
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「別枠で管理する」
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それが、結論だった。
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カイルは、少しだけ息を吐いた。
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(……変わらないな)
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結局。
何も変わっていない。
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理解されない。
評価できない。
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ただ。
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“位置が変わっただけ”。
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授業は、ほとんど頭に入らなかった。
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放課後。
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中庭。
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いつもの場所。
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「……で、どうすんだよ」
グレンが言う。
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「何がだ」
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「これからだよ」
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周囲を見る。
明らかに、視線が増えている。
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「もう隠れられねえぞ」
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「隠れてたつもりはない」
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「結果的に隠れてたんだよ!」
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セラは笑う。
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「いいじゃん」
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「だからどこがだよ!」
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「外、来るぞ」
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その一言で、空気が変わる。
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「外?」
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「もう来てる」
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セラは空を見る。
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「気づいてないだけ」
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カイルは少しだけ考える。
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昨日の男。
あれが“外”か。
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(……面倒だな)
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その時。
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「カイル」
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声。
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ヴァンだった。
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静かに立っている。
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「どうした」
「伝えておく」
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短く言う。
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「君は、ここでは収まらない」
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意味は分かる。
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「そうか」
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「いずれ」
一瞬、間を置く。
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「外に出ることになる」
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カイルは空を見る。
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青い空。
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「その時」
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ヴァンは続ける。
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「もう一度、やろう」
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カイルは少しだけ考えた。
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「面倒じゃなければな」
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ヴァンは、わずかに笑った。
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「その時は、もう少し理解する」
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それだけ言って、去っていく。
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カイルは、その背中を見てから。
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ゆっくりと、空を見上げた。
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変わらない景色。
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だが。
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確実に。
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“外”が、近づいている。
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(……まあいい)
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どうせ。
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結果は変わらない。
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理由は分からないまま。
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ただ。
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結果だけが、残る。




