■第14話「外側の視線」
噂は、思ったよりも早く外に出た。
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「……マジかよ」
その一言が、すべての始まりだった。
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王都外縁。
冒険者ギルド。
昼過ぎの酒場兼依頼受付所。
普段は雑多な声と笑いが混ざる場所だが、その日は少しだけ空気が違っていた。
「学園の話だろ?」
「そうそう、あの上位校のやつ」
「三年のトップが負けたってやつか?」
「それ」
カウンターに肘をつきながら、数人の冒険者が話している。
軽い雑談。
だが、その内容は軽くない。
「相手が最低ランクらしいぞ」
「は?」
「意味分からんだろ」
「いや意味分からんわ」
笑いが起きる。
だが、すぐに消える。
「……でもよ」
一人が言う。
「ガセじゃねえらしい」
空気が少しだけ締まる。
「記録にも残ってるって話だ」
「誰の情報だ」
「ギルド経由で流れてきた」
そこで。
別の男が、口を開いた。
「それ、俺も聞いた」
低い声。
場の空気が変わる。
その男は、軽装だが明らかに雰囲気が違った。
ただの冒険者ではない。
“実戦をくぐってきた”空気。
「マジかよ、レイヴン」
誰かが名前を呼ぶ。
レイヴンは軽く頷いた。
「詳細は分からん」
「でも」
少しだけ目を細める。
「ただの噂じゃない」
それだけで十分だった。
空気が変わるには。
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一方、その頃。
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別の場所。
石造りの建物の一室。
静かな空間。
机の上に、数枚の資料。
その中に。
――カイル。
という名前があった。
「……ふむ」
男が、資料をめくる。
整った服装。
無駄のない動き。
明らかに“組織側”の人間。
「測定不能」
小さく呟く。
「そして、上位撃破」
ページを閉じる。
「面白いな」
その声は、低く静かだった。
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「どう思いますか」
隣にいた部下が問う。
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「二つある」
男は答える。
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「一つ」
指を立てる。
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「単純に、情報が足りない」
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もう一つ。
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「理解の枠から外れている」
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部下は少しだけ考える。
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「後者の場合は?」
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男は、少しだけ笑った。
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「回収対象だな」
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その言葉は、軽くはなかった。
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「監視をつけろ」
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「すでに手配済みです」
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「早いな」
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「珍しい事例ですので」
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男は頷いた。
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「いい判断だ」
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その視線は、どこか遠くを見ていた。
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「こういう存在は」
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一瞬、間を置く。
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「放っておくと、手がつけられなくなる」
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静かな言葉。
だが、重い。
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「早めに“枠に収める”べきだ」
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その言葉は。
すでに、カイルの知らないところで。
“何か”が動き始めていることを示していた。
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一方、学園。
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「……なんか増えてね?」
グレンが言う。
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「何がだ」
カイルが聞く。
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「視線」
即答だった。
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昼休みの中庭。
いつもの場所。
だが。
いつもと違う。
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明らかに、人数が増えている。
遠巻きに。
観察するように。
見ている。
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「昨日より多いな」
セラが楽しそうに言う。
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「いいね」
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「よくねえよ」
グレンが即座に返す。
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「なんでこんなことになってんだよ……」
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「勝ったからだろ」
カイルが言う。
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「それは分かるけどな!」
グレンは頭を抱える。
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「相手ヴァンだぞ!?」
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「知ってる」
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「知っててそのテンションかよ……」
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ナナは、少し離れた場所で座っていた。
だが、視線はカイルに向いている。
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じっと。
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変わらない。
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だが。
“深さ”が違う。
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(……近づいてるな)
カイルは思う。
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何にかは分からない。
だが。
確実に。
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その時。
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「カイル」
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振り返る。
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ディアスだった。
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「来い」
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「またか」
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「まただ」
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短いやり取り。
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グレンが小さく呟く。
「絶対ロクな話じゃねえ……」
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セラは笑う。
「いいじゃん」
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「どこがだよ……」
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教員棟。
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部屋に入ると。
見慣れない顔がいた。
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「……誰だ」
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カイルが言う。
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男は軽く笑った。
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「初めまして、だな」
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穏やかな声。
だが。
奥に何かある。
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「外部から来た」
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その一言で、空気が変わる。
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「何の用だ」
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「確認だ」
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短い答え。
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「君のことを、少しだけ」
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カイルは黙る。
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男は続ける。
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「噂は聞いている」
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「そうか」
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「だから、見に来た」
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一歩、近づく。
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「どこまで本当か」
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視線がぶつかる。
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静かな圧。
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「……で?」
カイルが言う。
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「見てどうする」
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男は少しだけ笑った。
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「判断する」
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「何を」
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一瞬、間。
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「君が」
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その目が、わずかに鋭くなる。
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「“どちら側か”を」
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意味は分からない。
だが。
軽い言葉ではない。
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ディアスが口を開く。
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「今日はそれだけだ」
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男は頷いた。
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「また来る」
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それだけ言って、去っていく。
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部屋に、静寂が残る。
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「……何だあれ」
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カイルが言う。
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「外だ」
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ディアスが短く答える。
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「外?」
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「学園の外」
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それだけで十分だった。
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カイルは少しだけ考える。
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(……面倒が増えたな)
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確実に。
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そして。
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それは。
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まだ、始まったばかりだった。




