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婚約破棄された公爵令嬢は辺境伯に溺愛される~戻ってこい? お断りします~  作者: 冬木ゆあ


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第3話 リードの街

 アメリアが領主邸にも慣れてきたある日。

 朝食をとりながらルイスはアメリアに提案した。


「今日はリードの街を案内しましょう」

「まぁ、ぜひお願いいたします」


 嬉しそうなアメリアを見て、ルイスも微笑んだ。


 アメリアが支度をして、エントランスに下りると、ルイスはすでにそこにいた。アメリアはルイスの腕を掴み、エマを振り返る。


「それじゃあ、いってくるわね」

「いってらっしゃいませ、お嬢様、旦那様。楽しんできてくださいませ」


 エマはお辞儀をして、二人を見送った。

 屋敷を出て、少しいくとそこは大通りで、店が立ち並んでいる。ムーア領に到着した日に馬車で通った道だった。

 二人はゆっくりと歩きながら街の雰囲気を感じていると、正面からふくよかな女性が近寄ってきた。


「坊ちゃん、もしかして噂の婚約者様かい?」


 そう気軽に話しかけてきて、ルイスは恥ずかしそうに茶髪をかいた。


「ペギーさん、坊ちゃんと呼ぶのはもうやめてくださいよ」


 ペギーと呼ばれた女性は、ルイスの腕を軽く叩いた。


「そうでした、そうでした。今は領主様だった。――それにしても綺麗な方をお迎えしたもんだ。これでムーア領も安泰だ」


 すると、露店のおじさんもキャベツを片手に声をかけてきた。


「領主様、これ持っていってよ」

「ああ、ありがとう。帰りに寄ろう」


 すれ違った男性もにこやかに声をかけてくる。


「お似合いですなぁ」

「冷やかさないでください」


 丁寧に返答するルイスに、アメリアは小さく笑った。ルイスは隣にいるアメリアに視線を向けた。


「すみません、ゆっくりとできないですね」

「いいえ。ルイス様が領民から慕われていることを知れて、嬉しいです」


 ルイスはわずかに照れたようにしながら、アメリアを連れて歩き出した。すると、アメリアは露店に並べられた髪飾りに興味を示した。


「まぁ、可愛らしい」


 店主の若い女性がアメリアに言った。


「ぜひ見っていってくださいませ、未来の奥様」


 その表現にアメリアは少し恥ずかしくなって、ルイスを見ると、ルイスの方が恥ずかしがっている様子で、アメリアは「まぁ」と笑った。

 アメリアはピンクの花飾りがあしらわれたかんざしと、同じデザインの白い花飾りのもの二つを手に取った。


 ――ここまでついて来てくれたエマに感謝の気持ちとして贈ろうかしら。おそろいの髪飾りにしたら素敵ね。


 横で見ていたルイスが髪飾りと、アメリアを交互に見た。


「アメリア嬢にとてもよく似合いそうですね」

「まぁ、嬉しい。エマとおそろいで購入しようかしら」


 ルイスはうなずき、店主に視線を向けた。


「この二本をいただこう」


 それにアメリアは慌てた。


「いいえ! ルイス様に買っていただくなんて……」


 ルイスは手でアメリアを制止した。


「ぜひ俺に買わせてください。遠いムーア領までいらしていただいたお二人に感謝の気持ちです」


 アメリアは申し訳なさそうに首を横に傾げながら渋々とうなずいた。そんなアメリアにルイスは微笑んだ。


「ピンクがアメリア嬢でしょうか?」


 アメリアがうなずくと、ピンクの花のかんざしをアメリアの髪に優しく差した。


「うん。やっぱりよく似合います」


 アメリアはわずかに顔を赤らめ、視線を下げた。


「ありがとうございます。大切にいたします」


 ルイスは嬉しそうにうなずき、またアメリアと共に歩き出した。

 アメリアは隣にいるルイスに視線を向けた。


 ――ルイス様と一緒にいると、なぜかしら、とても心地よい。


 ほっと安心できていることに、アメリアは気づいた。


 昼食時になり、ルイスは一軒の店にアメリアを連れていった。外食などしたことがないアメリアは、少し緊張した面持ちで案内されたテーブルについた。テーブルにはメニュー表が置かれていて、ルイスはそれを指差す。


「ここはパスタが絶品ですよ」


 アメリアはメニュー表を眺めながら、おそるおそるルイスを見上げた。


「……あの、ここから料理を選ぶのですか?」

「そうです。アメリア嬢は、あまり外食はされませんか?」

「ええ。初めてです」


 アメリアは少し恥ずかしくなって、小さな声で答えた。それにルイスはうなずき、またメニュー表を指差した。


「そうでしたか。では、ほうれん草とサーモンのクリームパスタがオススメですよ」

「では、それにします」

「お飲み物は紅茶でよろしいですか?」


 アメリアがうなずくのを見て、ルイスは手を上げ、店員に注文した。慣れた様子のルイスにアメリアは感心する。


「ルイス様は慣れていらっしゃいますね」

「街にはよく顔を出すようにしています。領民の声は大事ですからね」


 それにアメリアは共感してうなずいた。ルイスが領民から慕われている理由がわかったような気がした。

 料理が運ばれてきて、アメリアが口に運ぶのをルイスは見ていた。


「まぁ、濃厚でとってもおいしい」


 それにルイスはほっとしたような表情をしてから、自分も食べはじめた。


「ぜひまた一緒に来ましょう」


 それにアメリアは嬉しそうにうなずいた。


 食事を終えた二人は店を出て、また街を歩いた。気づけば街の西門に辿り着き、そこでルイスはひとりの騎士に声をかけた。


「馬を借りられるか?」

「ご用意いたします」


 騎士は足早に立ち去り、しばらくして一頭の馬を連れて戻ってきた。


「アメリア嬢、失礼します」


 ルイスはそう言うと、アメリアの腰を掴み、軽々と馬上に乗せた。その後ろにルイスが乗った。


「ちょっと出てくる」


 そう騎士に言い残し、街の門をくぐって外に出た。

 街道をゆっくりと進み、森の中へと入っていく。新緑が美しく、葉が陽の光を受けて綺麗だった。

 しばらく進むと、横道にそれて森の小道を進んでいく。開けた場所に出てると、そこは一面花畑だった。ここが目的地のようで、ルイスは馬から降りて、アメリアも馬上から降ろした。


「まぁ、素敵……」


 王都にいた頃は自然に触れることが少なかったアメリアは、その景色に感激していた。色とりどりの花が咲き誇り、青空がとても似合っていた。

 アメリアは思わず花畑に駆けだした。途中で足をとられ、その場に転がる。仰向けになり、空を見上げた。


 ――ああ、ずっと悩んでいたことがちっぽけに思えてきた。とても気持ちが軽い……。


 すると、心配そうにのぞき込んだルイスがそこにいて、アメリアは少しはしたなかっただろうかと反省していると、ルイスは笑みを見せた。そして、ルイスも隣に仰向けに寝転がった。


「……うん。これはなかなか気持ちがいい」


 アメリアは隣に寝転がるルイスに視線を向け、微笑んだ。


「ええ。とっても」


 二人はしばらく春の風を感じながら寝転がっていた。


 それから二人は多くの時間を共有し、穏やかな日々を過ごした。

 ルイスとの三時のお茶と散歩を終えたアメリアは、自室で刺繍をしていた。それをエマは微笑ましげに見ていた。


「できたわ」


 アメリアはハンカチを広げ、その左下に施した刺繍を眺めた。ルイスと行った花畑をイメージして、赤と青、黄色で花の刺繍を施した。エマもそれを覗き込み、拍手した。


「素敵ですよ、お嬢様」

「ありがとう。夕食のときに、ルイス様にお渡ししようかしら」


 そう言うアメリアの表情は明るい。エマは嬉しそうにうなずいた。


「喜んでいただけるといいですね」


 アメリアはハンカチをたたみながら、エマに視線を向け、「ええ」と返事をした。

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