第四十二話◇そして、春が来た。〜財前慶一郎視点
◇◇財前慶一郎視点
(ようやく…ようやく桜子さんと一緒にいられるようになる)
想いを伝え合った僕達はきつく抱きしめ合う。
「…ふふっ、良かったですわ。おめでとう御座います、慶一郎様」
そう言って桜子さんが涙ぐんでいる。
「はい。桜子さんもおめでとう御座います」
僕はそっと、桜子さんの涙を指で拭う。
「…せっかくだから、大学まで行って記念に写真を撮りませんか?」
僕の言葉に彼女は泣き笑いのような顔になる。
「っはい!!私も行きたいです」
──僕達は手を繋いで電車に乗った。時折そわそわと彼女の顔を見ると、彼女が恥ずかしそうに俯いた。
「…泣いてしまって変な顔なのであんまり見ないでください」
「──いえ。可愛いです」
僕がすかさず答えると、彼女が顔をジワジワと赤くする。
「っもう!…そう言えば慶一郎様の、他のご友人達の合否はどうなったかご存知ですか?」
「──ええ。さっき皆スマホに連絡をくれました。
四之宮が医学部、和田が理学部、宮西も法学部に無事合格しました」
すると桜子さんが嬉しそうにはにかんだ。
「…良かった。朱里さんもI大の教養学部に合格しましたわ」
「良かったですね。I大は確か入学してから研究分野を決めるんでしたもんね」
そんな話をしながら電車を降りて、駅を出る。
顔を上げると、美しい満開の桜が咲き乱れていた。
帝都大の学生や、受験生だと思われる人達が笑いながら歩いている。
「…綺麗な桜ですね」
「──ええ」
掲示板の前に着くと、笑顔で抱きしめあっている人、泣いている人、写真を撮っている人。色んな人がいて、歓声が溢れていた。
「慶一郎様の受験番号は何番でしたか?」
受験番号を伝えると、桜子さんが番号を探してくれた。
「──ありましたわ! すみません、写真をお願いしてもよろしいですか?」
僕達の言葉に、合格を喜び会っていた親子が写真を撮ってくれた。
──パシャリ。
スマートフォンの音がして、画面には笑顔の僕と桜子さんが映っていた。
「…ありがとうございます!!」
御礼を伝えてから、その親子の写真も撮る。
そして、桜子さんの番号の前でも写真を撮ると、手を繋いで大学を出た。
「ねえ。慶一郎様」
彼女が上目遣いで僕の方を見てきたので心臓がドキドキと高鳴る。
久しぶりに会う桜子さんは、前よりもさらに綺麗になった気がする。
「…何ですか?」
「──私、まずは今日、慶一郎様と図書館以外のデートに行ってみたいですわ。」
そう言われて僕は思わず満面の笑みを浮かべてしまった。
「いいですよ!いくらでも。どこに行きたいですか?」
「そうですねぇ…。あ、ではせっかくなのでご飯を食べにいきませんか?
その後一人暮らしの準備も必要ですし…二人で近所の不動産屋さんに物件のちらしだけ貰いに行きませんか?」
その言葉に僕は心の中で雄叫びを上げる。
(よっしゃあああああ!!!
そうだ!お互い一人暮らしになれば桜子さんとイチャイチャし放題じゃないか!)
なるべく僕の邪な心が透けないように、平静を保つように心がける。
「──はいっ!是非。桜子さんはどんな物件がいいですか?」
「そうですねぇ…。大学生になったらお料理も上手になりたいですし、使い勝手のいいキッチンのあるマンションがいいですね。」
(桜子さんの、手料理…)
頭の中にエプロンをしてキッチンに立つ桜子さんの姿が過ぎり、僕は思わず生唾を飲み込む。
「…どうせ結婚するんですし、もう一緒に住んでしまいますか?」
ついつい調子に乗ってそんな事を言ってしまった。
すると、桜子さんはそのまま目を丸くしたまま固まってしまった。
(しまった!!調子に乗りすぎただろうか?!)
そんな事を思ったが彼女の顔が徐々に紅潮していく。
「…それは、とっても素敵です、けど。
──では、親達から許可が降りたらそうします?」
「──っ!! はい。是非」
僕が思わずそう言うと、桜子さんが眩しい笑顔で頷いた。
「──では、そうしましょうっ!!」
(あー可愛い可愛い可愛い…、)
僕達は近くの飲食店に入ると、二人分日替わりのハンバーグ定食を注文し、春休みにしたい事をいくつも挙げながら笑い合った。
桜子さんが本当にとても可愛くて、合格したのが嬉しすぎて、夢みたいに幸せな時間だった。
「──そろそろ行きますか。」
「…そうですね。」
不動産屋さんからパンフレットを沢山貰って彼女を家まで送っていく。
「それじゃあ、また連絡します。テーマパークの計画、四之宮にも相談してみますね。」
駅に着いたので、僕は彼女に声をかける。
すると、彼女は少し黙り込んだあと、こう言った。
「ちょっとこっちに来ていただけますか?」
キョロキョロした後、誰もいない地下連絡通路まで僕の手を引いて行った。
(…何だろう?)
「…桜子さん、こんな所にきて一体どうし…」
そう言って僕が振り向いた時だった。
ちゅ。
桜子さんがクリスマス以来、今度は口に自分からキスをしてくれた。
唇を離した後、彼女は少しだけ恥ずかしそうな顔をした。
「…続きは受かってからって、言ったじゃないですか。」
その言葉に僕は目を見開いた後、感動で胸が打ち震えた。
「──気づかなくてすみません。」
僕は顔を傾けると、何度も何度も彼女にキスをした。
◇◇
「おーい!皆で写真撮ろうぜ!!」
──今日は帝都学院高校の卒業式だ。
明日から生徒達は、六年間一緒に勉学に励んだ蛍雪の友達と別々の道を歩むことになる。
僕達がクラスメイトと談笑していると、宮西がいつもの調子で声をかけてきた。
(六年間、ほぼ毎日着ていたこの制服を着るのも今日で最後か)
そう思うと、なんだかしんみりした気分になってしまう。
「──ああ、今行く」
そう言って、僕と四之宮と和田が頷きあう。四人で写真を撮ってから、クラスの皆とアルバムにメッセージを書き合った。
(──今思えば、気の合う友人が出来たのも、この学校に来て初めてのことだったな)
この教室で、四之宮とめちゃくちゃ下らない討論をしたり、机に頭を打ちつけたり…。
(今思うと本当にバカだった…)
そんな事を思ってしまう。
「あー、これで高校生活もおしまいか。なんだか変な感じだな…」
和田がぽつりとそんな事を言った。
「ま、でも全員同じ大学なんだからよっ!会おうと思えばいつでも会えるじゃん!」
そう言って宮西が笑う。
「まあ、研究で忙しくはなるだろうけどな。時々皆で集まれたらいいな」
僕がそう言うと、四之宮が感慨深げに頷いた。
「──僕は君達三人と仲良くなったのは三年生になってからだったが──こんなに君達と気が合って、楽しいのだったら、もっと早く話しておけば良かった」
その言葉に僕達三人は固まってしまった。
まさか四之宮がそんな事が言い出すと思ってなかったのでなんだか笑ってしまう。
「っはは、四之宮も可愛いとこあんじゃんっ!」
宮西と和田が四之宮の頭をもみくちゃにした。
「やめろっ!」
そう言って照れる四之宮がおかしくて、僕は思わず笑ってしまった。
◇◇
「慶一郎様!卒業おめでとうございます!」
帰りに僕は桜子さんと待ち合わせていた。
制服でいられるのは今日で最後なので、制服デートしたいと桜子さんに言われたのだ。
「桜子さんもおめでとうございます。卒業式、どうでしたか?」
「はいっ!朱里さんと沢山写真を撮りましたわ。
でも、中学生の時からずーっと一緒のメンバーなので…。まだなんだか会わなくなってしまう…ということに実感が湧きませんけども…」
その言葉に僕は頷く。
「わかります。僕も同じ事を考えてました」
すると、桜子さんがなんだか嬉しそうに笑った。
「…まあっ。慶一郎様もそうだったんですね。大学は朱里さんと別々なので親しい友人ができればいいのですが…」
「大丈夫ですよ。桜子さんならきっと、沢山友人が出来ます!
あ、見てください!あそこの川沿いの桜、すっごく綺麗です」
僕達は笑い合いながら、手を繋いで川沿いまで走っていった。
──桜の花が舞う中で、僕達の新しい生活が始まろうとしていた。
これで高校生編は完結となります。
ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました(´;ω;`)
大学生編は4月9日スタート予定ですが、R18展開が多くなるため、続きはムーンライトノベルズとエブリスタにて掲載します。
18歳以上の方は、もしよろしければ続きも読んで頂けると嬉しいです。
それではまた続きか、次の作品でお会いできますように。本当にありがとうございました。
2026.3.18 間宮芽衣




