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偏差値70なのに恋愛経験0の二人の理性が崩壊するまで〜財前慶一郎と伊集院桜子の恋  作者: 間宮芽衣


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第三十七話◇そんなこと、耐えられる筈がない。〜財前慶一郎視点


◇◇財前慶一郎視点


「はい、終了!全員筆記用具を置け!」


先生の言葉にホッとして顔を上げる。今回もなんとかやり切ることが出来た。


 僕は、合宿後に桜子さんを押し倒して以来、不埒な想像が頭から離れなくなってしまった。


 煩悩を退散させるために必死で筋トレしたり、毎朝四時に起きて勉強したりしていたのだが──。


「──っ?!」


席を立とうとした瞬間ふわりと浮遊感がした。


 その瞬間、出席番号順で後ろの席に座っていた四之宮が慌てて僕の事を抱き止めてくれた──ような気がする。


 僕はそのまま意識を失った。


◇◇


(──どこだ?ここは。)


僕が目を開けると目の前の椅子に座って参考書を読んでいた四之宮がホッとしたようにこちらを見た。


「目が覚めたか。保健室だ。」


(なるほど。ほとんど怪我などしたことなかったから見慣れないはずだ。)


「…僕は、倒れたのだろうか?」


「ああ。怪我など無くて、本当に良かったな。椅子からの転倒は打ちどころによっては致命傷になりかねない。」


そう言ってパタリと参考書を閉じた。


「そうか。四之宮、連れてきてくれてありがとう。」


僕が御礼を言うと彼は保健の先生を呼んだ。


「うん。典型的な寝不足と疲労だね。テスト前だからって無理しちゃ駄目だよ。まっ、ゆっくりしていって。」


そう言って、先生は微笑んだ。


 四之宮はクイッと眼鏡を上げた。


「──財前。僕からの忠告だ。

 体調をきちんと整えろ。いくらA判定を取れていても、当日の体調次第ではどうなるかわからない。


 そしたら、伊集院さんは勿論、友人達とも同じ大学に行けなくなるんだぞ。」


その言葉に僕は目を見開いてからポツリと呟く。


「…大丈夫だ。きっと。…成績は落ちていない。」


「──だが。最近の財前の顔色はあまり良くないと思うんだが。なぁ、伊集院さんと何か──。」


僕は図星を言われて、思わず耳を塞ぎたくなり、遮るように言った。


「…っ、本当に大丈夫だ。」


すると、彼は何かを飲み込むように目を見開いた後、顔を伏せた。


「──そうか。まあ、くれぐれも無理はするな。

 あと、若いうちからカフェインなどのスマートドラッグは飲むなよ。」


そう言ってポンポンと僕の背中を叩くと保健室を出ていこうとしたので慌てて呼び止める。


「──四之宮!!」

「…なんだ。」


彼が振り向くと僕はふぅーっと息を吐く。

「…ありがとう。」

「…ああ。」


パタンッと保健室のドアが閉まる。僕かカーテンを閉めたので、保健の先生からも見えなくなった。


 ──最近、特に夜は桜子さんのことばかり考えて勉強が手につかない事が多い。


 だから、筋トレをして脳を誤魔化しながらなんとか三時くらいに起きて勉強をしていた。


 だが、それでもどうしても会いたくて仕方なくなる時がある。そして、頭の中があの日の桜子さんでいっぱいになってしまう。


『…慶一郎様っ、キス、凄く気持ちいいですっ。』


ぶわっと思い出しただけで顔に熱が溜まる。


(──ああ、どうしよう…。また思い出してしまった…。)


僕は会えない焦燥感を感じながら立ち上がる。


「…財前君。もういいのか?」

「はい。大丈夫です。…お世話になりました。」


僕がお辞儀をすると先生が真剣な顔で言った。


「──念の為、タクシーを呼ぶよ。


 電車で倒れられたらまずいからな。今日くらいはテストも終わったんだしちゃんと寝ろよ。」


「…はい。ありがとうございます。」

僕は御礼を言うと、その日はタクシーに乗って家に帰った。


◇◇


「…おお!!財前!!今回も一位なんてスゲェじゃんっ!!」


二日後。成績表が貼り出された。


 宮西の言葉にホッとする。もちろん四之宮も一位だったが。


(──これで、また桜子さんに堂々と会える。)


そんな気持ちでいると、スマホが鳴った。


『慶一郎様。テスト、お疲れ様です。

 今日少し、お話できませんか?』


桜子さんからのメッセージだった。


(…桜子さんっ!…いつもはきっちり約束を守ってこんな事を言い出すことはなかったのに。

 何かあったのか?)


『会いたい』ではなく『お話しませんか。』という言葉になんとなく不吉な予感を覚えてしまう。


 僕は少し動揺しながらメッセージを返す。


『大丈夫です。どこでお話しますか?』


『では、二人とも乗り換えがしやすいので三時に渋谷のこのお店でいかがですか?』


メッセージには可愛らしい感じの和風のカフェのURLが貼られていた。


 僕は了承のメッセージを送ると慌てて学校を出る準備する。


「財前。急いでどうしたんだ?どこか行くのか?」


和田の言葉に僕は頷く。


「ああ、ちょっと急に渋谷で桜子さんと会う事になった。」


その言葉に四之宮は目を見開く。


「──珍しいな。勉強会の時しか会っていなかったって言ってなかったか?」


「ああ、だが話したいと言っているからな。僕が彼女の誘いを断る筈がない。」


その言葉に宮西が苦笑する。


「ま、倒れるほど頑張って勉強して一位を取ったんだもんな!楽しんでこいよ!!」


そう言われて思わず笑みを浮かべる。


「ああっ!ありがとう!!」


こうして僕は先程感じた不吉な予感などすっかり忘れて、逸る気持ちを抑えて駆け出していった。


◇◇


「──慶一郎様。受験が終わるまで、暫く会うのをやめませんか。」


午後四時三十五分。


 僕は桜子さんのその言葉に思わず固まってしまう。


 ──彼女の表情は少し苦しげだった。


 その日の桜子さんはいつもよりなんだか口数が少なかった。そして時折り眉尻を下げて僕の方を見てはサッと視線を逸らされた。


(何かあったのかとは思ったが、まさかこんな事を切り出されるなんて…。)


動揺して抹茶ラテの入ったお碗を持つ指が思わず震えそうになる。


「──どうしてですか?


 …嫌です。桜子さんと会えなくなるなんて。そんなこと耐えられる筈がない。」


声が震えないように懸命に搾り出す。


 すると彼女は目を見開いて暫く僕の顔を見た後、息を吐いた。


「…慶一郎様が倒れたって聞きました。」

「──もう大丈夫ですよ?」


思わず遮るように言ってしまった。


 すると桜子さんは首を横に振る。


「…大丈夫、じゃないと思います。この前会った時、私も慶一郎様も少しその…、違いましたもの。


 二人ともケアレスミスを沢山しておりましたし。」


「──でもっ!!」


僕が思わず反論すると、桜子さんが顔を歪めた。


「──私だって、本当は、貴方に会いたくて会いたくて仕方なかったんです。

 勉強してても貴方のことばっかり考えてしまって。


 …会いたくて、会いたくて、勉強に全く集中できない!!


 慶一郎様が倒れたって聞いて、やっと気が付きました。こんな事、本当は絶対に言いたくなかったです!


 ──でも二人とも、このままじゃ、きっとダメになってしまいます!」


気がつくと、桜子の頰には涙が伝っていた。


「桜子さん…。」


僕はハンカチを取り出すと慌てて彼女の頬をそっと拭う。


「…っ、大好きです。慶一郎様。そういう、優しいところも、誠実なところも全部大好きなんです。


 でも、大好きだから!

 ──だからこそ、受験まで離れましょう。」


「…そんな。桜子さんっ!!」


僕は鈍器で殴られたようにショックを受けた。


 きっと、漫画だったら僕の頭の上にはとても大きく

『ガーン…』と浮かんでいる事だろう。


 ──その後のことは覚えていない。


 確か格好つけて紳士を演じながら彼女を最寄り駅まで送って行った気がする。


 僕は白い灰になったかのように打ちひしがれながら電車に乗った。


(なぜだ…、なぜだ、なぜだ、なぜだ…。)


吊り革に捕まりながら浮かんで来た言葉は本当にこの言葉だけだった。


 僕は気がつくと来たこともない駅で降りていた。


 改札を潜ると同時にだっと出口の階段に向かって猛烈ダッシュしていた。


「うおおおおおおおおっ!!!!!」


隣を歩いていた小学生ぐらいの子が何か言っている。


「お母さーん、なんか変な人いるー。」

「ちょっと、あんた失礼な事言わないのっ!」


(なぜだぁあああ!!!せ、せっかく一位を死守したのに!!!)


僕は泣きながら家まで10キロほど走った。


 ──次の日。


「どうした財前。まるで試合に敗れたボクサーのような顔をしているが。」


休もうかと思ったが這うようにして学校に行くと、四之宮が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。


「…って言われた。」


僕がボソリと言うと、四之宮が聞き返してきた。


「──悪い。聞き取れなかった。」


「っ、だから!!!桜子さんに受験が終わるまで会わないって言われたんだっ。」


悲痛な声で僕が言うと、隣で宮西が眉尻を下げた。


「…あれま。でも嫌われたわけじゃないんだろ?」


「っ、当たり前だ!!好きだと言ってくれた!!」


僕が慌てて言うと、四之宮がクイッと眼鏡を上げた。


「…ではやはり伊集院さんはいい子じゃないか。

 ──君の体調を心配してくれたんじゃないか?」


その言葉に僕は固まってしまう。


「…まあ。そんな事を言っていた気がする。」


すると、宮西が笑いながらこんな事を言い出した。


「ははっ。万が一受験の日、熱を出して一浪したら天宮と伊集院さんがキャンパスライフを送る中、財前は予備校生活だなっ!」


(…は?僕が浪人生で桜子さんが天宮と…だと?)


そのふざけた言葉に僕は真顔で答える。


「──そんな事、あり得る筈ないだろう。」


「ちょっ!!その顔…!こえぇえ!!冗談だからっ!!」


僕は友人達に話を聞いてもらい、少しだけ心が軽くなりながら家に帰った。


(──桜子さんに会えないのは辛いけれど。頑張るしかないな。)


その日、僕は久しぶりに泣き疲れて穏やかに眠った。



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