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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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事件の最重要人物は明らかにされなかった

   四

 これらの公判もこと細かくTBTによって報道された。


 視聴者の注目点は既に逮捕され、刑が確定した鎌田や未だ控訴中の山下、野末、審議中の時子や代田などの刑期についてであった。


 いずれも有罪であることはもちろんであるが、刑期については番組に出演したコメンテーターによって異なっていたが、ほぼ常識的な刑期であると落ち着いたようだった。それよりも山下や野末の裏にいる重要人物について何故捜査しないのかとの不満が表面化した。


「深川さん、華さん、結局は一番上にいる人物、国を動かしている重要人物の悪事を放置し、これでいいのかと思いませんか?」


 私の実感としての意見を言ったが、内心ではこれ以上の追及は不可能であろうと思っていた。


「えぇ、真里花さんの言う通りですね。ご存じの通り、外務省事務次官や警察庁長官は代々、国民真理の会の役員として引き継がれているのですよ。大方、役職は二年か三年で交代し、その時の悪事は闇の中に葬られているのですよ。もちろん真面目に務めた人もいると思います。でもねぇ……」


 深川の感慨深い顔が印象的だった。


「でも、真里花さんの気持ちはよく分かります。大事なご主人を失った訳ですものね。それも結婚式を挙げた直後よ。神様はきちんと見ているのかしら」と華の溜息交じりの呟き。私は華がこの一連の事件の調査で大人になったような気がした。


 私の義妹の佑香はこの事件の後も東日土木建設に残り、山下に変わって就任した新社長の元で秘書を続けた。その新社長も梅沢組から降りてきたものだ。


「私はこういう仕事が合っているのかも知れないわ。そもそも昔から堅苦しい仕事よりも世間の裏の仕事の方が性に合うのよ」と佑香は言っていた。


 多くの逮捕者を出した本栖湖自立支援センターは新しい施設長と副施設長が本部からやってきた。施設の診療所もまた教団の息がかかった医師が派遣されてきた。


 そう考えると人は変わったが中身は変わらない。入所者たちも変わらない。敦子も同じ部屋で生活している。あのような事件があったにも関わらず、皆今までと同じように暮らしている。それは施設を出ても行くところがないからだ。


 教団の教義も野末から別の人物に変わっただけで、あのローソクの灯の中で行われる儀式めいた教義も今まで通りだ。


 TBTの報道は、時間が経つにつれ視聴者の興味も薄れ、同時に視聴率も低下し、より興味をそそるような報道番組へと変わって行った。それが世の中の常だ。悪質かつ凶悪事件は次から次へ起こるからだ。


 佑香の知り合いだというプロデューサーとの関係は未だに不明だ。私が想像するに以前に男と女の関係であったに違いない。不倫だ。佑香が私たちに言えないのはそのためだからだ。そうでないノーマルの関係なら言えない筈はない。でもそのことはどうでもいい。それで事件が解決に向かったのだから……。


 柳瀬はまた捜査一課に戻り、以前のように四係の班長としてバリバリやっているようだ。ノンキャリアなのでなかなか上には登り詰められないだろうが、そんな上昇志向のある人ではない。彼はそれでいいのかも知れない。


 深川は相変わらず探偵事務所で華と二人で楽しくやっているようだ。


 でも、私のようなクライアントが現われない。浮気の調査とかストーカー対策の証拠集めとか警察が動いてくれない事案等の低料金の依頼ばかりらしい。それでは生活が成り立たない。


 華は東大を卒業し、弁護士になると言っている。それで父を助けたいのだそうだ。華ならそれなりの男性が現われるであろう。時間の問題だ。


 そうしたら深川はどうするのだろう? その時の顔が思い浮かぶ。うふふ。



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