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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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事件の公判が始まった

   三

 拘置所の接見室は無機質だ。周囲の白壁もところどころ剥げていて、建物の古さが目立つ。


 部屋は透明のアクリル板のような壁で仕切られて、座ると丁度顔の位置に合わせてあるのか、声が通るように小孔が幾つも円形に空いている。時子は私との面会を許可され、接見部屋に入ってきた。不貞腐れた様子だ。


「何を訊きたいのですか?」


 時子はぶっきら棒の言い方をした。


「私の知りたいのは一つだけです。あなたに命令を下した人は誰かということです。教団を守るためにやったことなんですよね?」


 私の気持ちは分かっている筈だ。


「それを私の口から言ったら拘置所の中でも自分の命が危ないわ。私の家族だってそうよ。絶対に言えないわ。でも、あなたももう予想はついているんでしょ?」と時子は薄っすらと笑った。


「そうよ。ついているわよ。でも物証が欲しいのよ。何か証拠が……。有無を言わせないほどの証拠よ」と私も笑い返した。


「それは私よりも山下や野末にあたることね」


「え? でも二人とも収監されているし、話を聞いても言う筈はないわ」


「そうね、口に出して言う筈はないと思うわ。だから山下の会社を調べるのね。私より、山下の所の秘書? あなたの仲間でしょ? 彼女なら何か証拠を探せるかもね。社長室を調べることよ」と時子は言ってくれた。


 それは時子は何かを知っているかのような言い方だ。しかし、時子とはこれ以上話をしても何も得られないと判断し、早々に接見を終わりにした。とにかく佑香に相談しよう。


 その接見の内容を佑香に話した。


「時子がそんなことを言ったの。教団の役員の中で力がある人物と言えば……、そうねぇ。山下も野末も、それに綾尾も逮捕されているしね。指示を出す人物と言えば宍倉か夏川しかいないわ」


「しかし教団のトップは趙竜神よね。でも今は中国福建省にいるわ。彼は他の国の教団全体を見ているだけだから、日本は日本の教団理事の指示のもとに運営されているのよ」


「今回、一連の事件でも最初から夏川警察庁長官の圧力で捜査を邪魔されたことは確かよ。でも夏川が直接的に殺人事件に関わっているかというと、そうではないと思う。そうすると宍倉っていうことになるけど……」と佑香は言った。


「宍倉の残した物証など東日土木建設にあるかしら?」


「この間、何人かの社員が山下社長室の書類など片づけていたのよ。どうしたのって訊いたら社長から指示されたので全部処分しているのですと言ってたの。処分ってどうするの、燃やすのと訊いたら、別な場所に移動させるだけですって」


「それって、山下が拘置所内から指示したのかしら?」


「そうだと思う。あの連中だったら何でもできるわよ」


「その場所って佑香さん、分かるかしら?」


「大丈夫よ。調べてみるわ」


 青城秀則の殺害や心中事件を偽装して夫の春平を殺害したのを裏で指示した張本人は宍倉しかいないのではないか。


 青城と夫がいなくなって直ぐに教団の宗教法人の認可が下りた。それも宍倉の指示に違いない。


 とすると教団から宍倉に多額の金が流れているとしか思えない。その書類や銀行口座などを調べれば必ず出てくるに違いない。それを佑香一人にやらせても危険である。宍倉もおそらくは教団を通して梅沢組と繋がっている。山下がいなくなっても梅沢組の誰かを使って自分の身を守ることは簡単である。


 一方、TBTの報道番組はさらに熱を帯びて、内容も一層深く掘り下げて真実を追求しようとする意志が感じられた。この度の心中偽装事件で逮捕された時子と代田の所属していた本栖湖自立支援センターについての施設内動画や入所者のインタビュー動画などを流した。


 さらにDCZという薬剤を用いて施設に縛り付けようとした国民真理の会という宗教教団の実態について報道した。その番組のプロデューサーは佑香と親しい関係であり、佑香からの確実な情報を得て、それに基づいて調査をしているため実に正確な報道であった。


 もちろん佑香は未だにその人物との関係を明かしていないが、想像はできる。


 その中で私はこれ以上自分のできることはないと思った。深川も華もそう思っているに違いない。後は捜査一課に復帰した柳瀬らの捜査に期待するしかない。もう少ししたら公判が開始されるであろう。


 公判の行方を静かに見守ることだ。

 そんなことを考えているうちに検察によって起訴された事件の公判がやっと開始された

   *

 最初の公判は十年前に殺害された山根沢春樹と新藤大和に関する公判である。


 被疑者は鎌田誠一、東日土木建設の社員で梅沢組構成員。上記二人を刃物で殺害した罪で裁かれた。公判での審議そのものは何も問題なく経過し、本人の自供もあり物証も揃っていることから殺人罪・遺体遺棄罪で懲役二十五年の有罪判決が言い渡された。


 鎌田は逮捕後に素直に自供し、反省の色を見せていること、それに山下や野末からの指示で実行したことなどから、死刑は免れた。


 鎌田の弁護士団はこれ以上の刑期軽減は不可能であることを認め、真面目に刑を務めあげれば、より早期の社会復帰は不可能ではないとして控訴は諦め、これによって鎌田の刑期は確定した。


 引き続き行われた山下および野末の審議では、十年前の山根沢春樹、新藤大和の殺害を鎌田に指示し実行させた主犯であること。また、青城秀則を殺害し遺体を遺棄するように指示した罪、その他DCZなどの違法薬剤を用いて多くの信者たちを監禁した罪など合計十以上の罪を犯したとして検察側より二人とも死刑の求刑を受け、一審では検察側の求刑通り二人とも死刑の判決が言い渡された。


 二人の弁護団は鎌田の時と同じ弁護団で一審の判決は不服として、控訴した。この公判においても弁護団は山下、野末はさらに上からの指示で実行したので、その点を考慮してもらいたいとの趣旨であった。


 しかし、常識的に判断すれば殺害した被害者の人数を考えると、この判決は覆せないとの世論が大多数を占めた。


 一方、自立支援センターの診療所医師綾尾については違法なDCZを使用し、入所者を施設に監禁した罪、青城秀則の殺害を幇助した罪、その他七項目の罪状により懲役十二年が求刑され、自動的に医師免許は半永久的に取り消された。未だに結審していない。


 最後に山根沢春平の殺害事件の被疑者、時子と代田については、二人は共謀して山根沢春平を墨田彩芽との心中に偽装し殺害、その他施設で十項目の犯罪に関わったとして検察側は懲役十五年を求刑した。この一審の判決もまだ出ておらず審議中である。


 上記の公判はいずれも裁判員裁判である。


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