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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
42/45

やはり夫は殺されたんだ

   二

 捜査一課に返り咲いた柳瀬は直ちに自立支援センターの時子と運転手の代田を任意で出頭を求めた。


 心中事件の捜査は管轄の品川署で処理されていたが、TBTの報道番組での民意を鑑みて二人は警視庁本庁の捜査一課へ送られた。


 ホテルの防犯カメラ映像から二人の関与は明らかであったので、時子と代田は既に神妙にしていたようであった。時子と代田は柳瀬ともう一人の刑事によって別々に取り調べを受けた。


「時子さん、この防犯カメラに映っているのはおまえだな?」と柳瀬。


 最初は黙秘していたが、防犯カメラの鮮明な映像を見せられて自白せざるを得なかった。とうとう、

「そうです」と認めた。


「どうやって山根沢春平にジアゼパムを投与した? 嘘を言っても分かってしまうぞ。隣で代田も同じことを訊かれているから、矛盾があればすぐ分かる」

 柳瀬の有無を言わせない迫力に時子は僅かに震えていた。


「私が一一二五号室に入った時、凛子さん、いぇ、墨田彩芽さんはぐっすり寝ているような感じでした。私はもう死んでしまったのかなぁと思ったのです。テーブルの上にはワインの飲み残しと睡眠薬の飲み残しシートがあり、十錠程をいっぺんに飲んだのだと思いました。その後、代田と山根沢さんが入ってきました」


「それは予定通りだったんだろう? 山根沢さんを殺すためにな……」


「……はい。そうです」


 時子は徐々に証言を進めて行った。


「私は墨田さんから死にたいと相談されました。それは止めなさいと言いましたが、彼女はうつ的になっていて、今持ってるジアゼパムを飲めば死ねると言いましたが、私が会いに行くまで待ってと言って、思い留まらせたのです。彼女の家では両親がいてダメなので、ホテルを取っておくから、そこで話をしましょうと言い、直ぐに品川プリンスホテルを彼女の名前でネット予約しました」


「なるほど……」


「私は上からの指示で墨田彩芽と山根沢春平が生きていては都合が悪い。必ず殺すように言われていたのです」


「その上って誰のことだ?」


「それだけは言えません。黙秘します」


「ふん、まぁ、いいか。後できっちり絞るぞ。それでお前は運転手の代田を使って山根沢を殺したんだな?」


「えぇ、そうです。代田にはあらかじめ体を縛るためのロープ、ガムテープ、短い鉄棒を用意させたのです。小さいバッグに入るように……。それに付け加え、私も点滴セット、シリンジ、針、生食20cc注射液、静注用ジアゼパムなどを全てバッグに入れて持って行きました」


「山根沢にはどう言ってホテルに来させたのだ?」


「墨田が自殺したいと言っているので、やめるように説得して欲しい。品川プリンスホテルにいるので直ぐにきてください。代田がロビーで待っていますと言い、そのまま代田に部屋に連れて来させました」


「山根沢はそれについては何も怪しんだりしなかったのか?」


「はい。素直に従っていました。私たちは長い間施設で一緒に暮らしていましたので、安心していたのだと思います」


「彼が部屋に入った時、墨田は既に意識がなかったので、彼は『遅かったか』と言って、顔を墨田に近づけた時に、代田が持って来た鉄棒で後ろから後頭部を殴ったのです。ここのところです」と言って左手でその部位を指した。


「彼は『うっ』と言って床に崩れるように倒れました。私は直ぐに用意しておいたサーフローを彼の左肘静脈へ入れ点滴セットを繋ぎ、側孔からジアゼパムを三筒一気に注射しました。ものの五分もしないうちに呼吸も停止し、心臓も停止しました」


「そうか。看護師なら簡単だよなぁ。隣で意識がない墨田には何もしなかったのか?」


「えぇ、もう助からないと思ったからです。それに二人殺ったら死刑ですよね?」


 柳瀬はこの女、反省しているのかなと思った。しかし、話の辻褄は合っている。その直後、隣で代田の事情聴取していた刑事の話を聞いたが、時子と供述とほぼ一致していた。


 その後、時子と代田が山根沢の殺害に用いた鉄棒、点滴セットなどは二人の供述通り施設内の診療所で見つかり、物証も揃った。


 柳瀬はこの二人の逮捕を捜査一課長へ報告し、逮捕令状の請求を懇願した。捜査一課長も今度は上からの邪魔が入ることなく、裁判所からの逮捕令状が無事下りた。


 そのことについては、私と深川は柳瀬からの報告があり、捜査一課での取り調べの全容を知らされた。


 結局、時子に命令を下した上のものとは誰なんだ? 夫を直接殺害した犯人は逮捕された。


 しかし、これで私の心の闇が晴れた訳ではない。


 その上とは……、山下や野末は既に逮捕され収監されている。夫や墨田に生きていられたら困る人物だ。賢い奴だ。顔を現わさない狡賢い奴だ。そして警察にも顔が利く教団関係者だ。


 おそらく教団の理事として名前を連ねている外務事務次官の宍倉紘一と警察庁長官の夏川順吉だ。しかし、この二人を問い詰めるには相当な物証が必要になる。


「深川さん、宍倉や夏川を追い詰めることはできないのですか?」


 私は最後の最後で諦めるしかないのかと思った。


「難しいですよね。時子に指示を出していた大物とはその二人でしょ。多分」


 深川にもどうにもできないという感じだ。直接的な証拠がない。


 時子をもう一度説き伏せて、その二人が命令を下した物証がないのか自白させるしかない。


 メールなどが残っていればいいが、あるいは電話などの通話記録などがあるか? もう一度時子に会ってみよう。


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