TBTの報道番組で真相が……
第十章 報道
一
翌週、民放の放送局であるTBTの午後二時からの報道番組で今回の心中事件が取り上げられた。
それによると、品川プリンスホテルの一室で男女が睡眠薬心中を計ったとされていた事件は実は殺人事件の可能性が高いことがTBTの調べで判明したとの報道だった。
その番組の中で時間を追ってホテル内の防犯カメラ映像を流した。しかも警視庁はこの殺人事件を心中事件として処理しようとしているとメインキャスターが力説した。
その中で私も被害者の妻として、また証人の一人として、顔を隠しテレビへの出演を依頼された。さらにTBTのキャスターの一人はもう一人の被害者である墨田彩芽へのインタビューを、顔をぼかし、偽名で報じた。
「Aさんは今回の心中事件の当事者です。幸い一命を取り留めましたが、この事件をどう思いますか?」との質問に墨田はこう答えた。
「どう思うって、私はある人に相談し品川プリンスホテルに行き、チェックインして部屋にいました」
「ホテルの宿泊予約はご自分で取ったのですか?」
「いえ、その人ですが、私の名前で予約してもらったのです」
「何のためにホテルへ行ったのですか?」
「睡眠薬で一人死のうと思ったのです。それは今までの自分の行いが自分自身でどうしても許せなかったからです」
そのAはいかにも悲嘆に暮れているように映されていた。
「睡眠薬はご自分で持って行ったのですか?」
「はい。ジアゼパムという睡眠・抗不安剤です。二シート持って行きました。一シートは十錠は入っていますので、全部で二十錠です」
「そのことを誰かにご相談されたのですか?」
「はい。相談しましたが、その名前は言えません」
「そうですか。では、あなたがそのホテルで自殺しようとすることを知っている人がいるということですよね?」
「はい、そう思います」
「あなたはその部屋でジアゼパムを服用したのですか?」
「そうです。十錠を一度に服用しました。ホテルの冷蔵庫に白のワインボトルがありましたので、グラスに注ぎ、それで薬を飲んだのです。その後のことは分かりません。気が付いたら病院のベッドに寝ていたので……。翌日、心中事件だと言われて驚いた訳です」
「なるほど……、ホテルの防犯カメラではあなたが一一二五号室へ入室した後、何人かの人がその部屋に入室しているのですよ。そのことは記憶にありますか?」
「全く分かりません。薬を飲んで、そのまま意識が遠のいて、気が付いたら……、何これって言う感じです」
「そしてホテルの従業員が一一二五号室であなたともう一人の男性を、意識がなくベッドで寝ていたのを発見したのです。その男性は山根沢春平さん、あなたの昔の恋人と言われている方です。それってどういうことなんでしょうか?」
「分かりません」
「あなたが入室した後に女性一人と男性二人が時間を異にして入室しています。この防犯カメラ映像を見てください。誰だか分かりますか? この人……」
「女性の方は帽子とマスクをしているので分かりませんが、夫ともう一人は私が以前勤務していた自立支援センターの運転手さんです」と墨田は映像を指さしながら答えた。
インタビューはそこまでで、その後はキャスターがこう言った。
「Aさんは自殺しようとホテルへ入ったのです。ところがその後から女性一人、男性二人が入室し、心中事件として工作したのだと考えられます。そしてAさんの昔の恋人、今回お亡くなりになった山根沢春平さんを殺害し、心中事件を偽装しようとしたのです。その真相を調べるともっと以前からのある殺人事件と繋がっていることが分かりました。それだけではありません。警視庁捜査一課はそのことを全て知っていて、隠蔽しようと考えているのではないかとの疑いが出てきました。都民の味方であるはずの警視庁はこんなことでいいのでしょうか? 視聴者さんからのご意見をお待ちしております」と締めくくった。
私たちはこの番組を見ていた。その放送の中で墨田の話を始めて聞いた。
「銀山は墨田から自殺したいと相談されたと言っていましたよね? その他にもそのことを相談した人がいたのだ。
時子だ。
時子は墨田が施設を去ってから重要な地位を得ていた筈だ。それを利用したんだ。しかも看護師だ。おそらく……」と私は推理した。
「そうするとホテルで墨田の後に入室したキャップとマスクの女は時子だ。体型も身長も合致するなぁ」と深川も同意した。華ははっきり言った。
「運転手の代田と時子で春平さんを殺害したのよ。その時には墨田は睡眠薬で意識がなかったのでその殺害現場は見ていない。確か、春平さんの頭部の殴打痕、注射痕があったのよね。防犯カメラの映像からはそれしか考えられない。そうでしょ?」
「それを確かめるのはその二人の供述しかないな。我々にはそれはできない。警察の仕事だ。柳瀬はこのことを知っているのか? おれたちがあまり柳瀬をこき使ったから、あいつは飛ばされたんだ。申し訳なかった」と深川は反省していたようだった。
TBTの報道番組は翌日から特集を組んで一時間たっぷりと放送した。前日の番組におおよそ三百通のメールやファックスが届き、その内容のほとんどが警察への批判だった。
翌日の番組では、十年前の山根沢春樹、新藤大和の殺人事件から始まって、最近起こった外務官僚の青城秀則殺害にも言及し、その殺害理由として国民真理の会との結びつきなどについても報道された。
そのため視聴者の興味を集め、視聴率が今までにないくらい上昇し、一層警察への批判が高まった。それとともに警視庁はTBTの報道内容の打ち消しに奔走し、捜査への本気度を国民に示さざるを得ないことになった。
そのため柳瀬は資料室から再び捜査一課へ異例の異動となり、四係の班長として心中事件を本格的に捜査することになった。
「深川さん、また捜査一課に戻ってきましたよ。あのTBTの報道がきっかけになったのだと思います。やはり民意には警察組織も勝てないようですね。それに助けられました」と柳瀬からの電話だった。
「そうか。それは良かった。実はうちのスタッフの一人がTBT社のプロデューサーと知り合いで報道できることになったのさ。結果オーライだな。心中事件の真相を解明する手伝いができると思うよ」
「よろしくお願いします。深川さんが頼りですので……」
柳瀬は捜査一課に戻り、捜査の指揮を執ることができたことを喜んでいた。その一報は私だけではなく、華と佑香にも知らされた。
「柳瀬さん、良かったわ。ところで佑香さん、TBTのどなたと知り合いだったの?」と私は上目使いで佑香に訊いてみた。
「まぁ、それはいいじゃぁないの。親しくしていた人よ」としか言わなかった。いゃ、言えなかったのかも知れない。何か怪しい物言いだった。
まぁ、それはいい。本当に結果オーライだ。




