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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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銀山からの聴き取り

 四

 四人の調べ上げた情報を合わせても、今回の心中事件の真相には辿り着けない。


 でも、山下と銀山の関係が少し見えてきた。銀山はどうやら山下から資金援助を得ていたようだ。しかし、夫春平の死亡とどう繋がっているのか。


 夫と墨田彩芽がどうしてホテルの同じ部屋で睡眠薬自殺を計ったのか。いや、夫は自殺ではない。おそらく他殺だ。墨田はその道ずれにされようとしたに違いない。私はそう考えた。


「深川さん、ホテルでの心中事件はその後捜査一課での捜査の進展具合はどうなっていますでしょうか?」と深川の方を見て訊ねた。


「柳瀬の話ですと、単なる心中事件とは考えてはいないようです。新たに分かったことですが、鑑識の話によるとテーブルの上にあったワイングラスから二人以外の第三者の指紋が検出されているのです。そんなところに第三者の指紋が付く筈はないだろう? その場所に二人以外の人がいたということになる。司法解剖では頭部の殴打痕と肘の注射痕があったことから、春平さんは誰かに頭部を殴打され、気を失った後にジアゼパムを注射された可能性が高いとのことでした。注射をできるのは医療関係者でないと難しい」と深川は腕組みをして考えていた。


「墨田彩芽が黙秘している件についてはどうなりましたか?」私はそのことが引っかかっていた。


「事件の真相は墨田が知っている筈ですよね。彼女が言えない何かを。それを調べるにはどうするかだ。唯、彼女を問い詰めても答えないだろう」


「深川さん、もう一度整理して考えて見ましょうよ。墨田は今までのことを反省し、死にたがっていた。そして親友の銀山へ相談した。しかし、銀山は好きだった墨田を死なせたくはなかった。一方、教団は本栖湖自立支援センターの主だった関係者が逮捕され、残された教団の秘密を守る必要があったのではないか? 最も教団にとって危険な人物はDCZの薬効から解放された墨田でしょう。春平さんも同じだと考えたのではないだろうか」


 私はそう考えた。間違いかも知れないが、そう考えた場合は、教団は誰かを使ってその二人を殺害すると考えても不思議ではない。そこに銀山がどう関与しているかだ。


「国民真理の会は今誰が指導的な立場を取っているのでしょうか? 山下、野末、綾尾など皆逮捕されているのですよ。彼らがいないとすると教団の理事となっているのは誰なんでしょうか?」と華の疑問。


「それは教団のホームページに出ていますよ」と佑香が皆の顔を見渡した。そして「時子さんが抜擢されたみたいですよ」と言った。


 さらに続けて、

「施設に残っている入所者からの情報では、時子さんは長年綾尾の下で貢献したことが評価されたとのことでした。本来は凛子こと墨田彩芽がそうなるべきだったのが、墨田がいない今では時子が浮かび上がったのです。それって綾尾が拘置所から推薦したらしいです」と報告した。


「そうですか。時子ですか。彼女は逮捕こそされていないですが、綾尾と共に教団の悪事に手を染めている。DCZなど入所者に飲ませていたのだ。それに春平さんの腕に注射痕があった。もしかしたら時子の仕業ではないか。看護師なのだから……」と私は少しずつ見えてきたような気がした。

   *

 四人でそんな推理をしている時に深川に柳瀬から一報が入った。


 柳瀬が今回の捜査から外され、資料室へ異動になったとのことだ。柳瀬が言うには警察上層部はどうしても心中事件として処理して捜査を終了させたいのだと。深川らの情報を得ながら捜査の本質を求めていた柳瀬の動向に上層部はまたしても圧力をかけてきたという訳だ。


「深川さん、柳瀬さんが異動になったとのこと、捜査一課からの情報が入らなくなりますね。困りましたね」私は今後の調査に支障があると危惧した。


「大丈夫ですよ。真里花さん、どうにかなります。それより柳瀬や我々が考えていたことは真実に近いことだとの証明ですよ。それを嫌がる人がいるということですよ」と柳瀬の心強い言葉に納得した。


「やはり銀山から改めて話を聞かないとダメなんじゃぁな?」と華。


「それもそうだなぁ、おそらく捜査一課から事情聴取を受けていると思うのだが……。私と真里花さんと二人で尋ねてみようか?」との深川の意見に華は、

「私が真里花さんと一緒に行くわ。前回も私が伺ったので、その方がいいかも知れない」と言った。


「そうだな。じゃぁ、頼むよ」と深川。華は直ぐに銀山弁護士事務所へ電話しアポイントを取った。銀山は意外に協力的でその日のうちに会うことができた。


 私と華は事務所のドアをノックした。中から「どうぞ」と待ちかねていたかのように銀山の声が聞こえた。


「奥様とは結婚式以来ですね。色々と大変だったですね」と銀山は私にねぎらいの言葉をかけてきた。


「私は今回のことで夫が亡くなった理由を知りたいのです。心中したことになっていますが、私は信じていません。銀山さんの意見を伺おうと思ってきたのです」と正直に話した。


 華は隣で黙って聞いていた。


「もう既に調べてある程度は分かっていると思いますが、私も捜査一課から事情聴取を受けたのですよ。何を知りたいのですか?」と銀山は落ち着いていた。


「私たちは今回の心中事件は、本当は心中ではなく、夫は殺されたのだと考えています。そのことはどう思いますか?」


「それについて私は分かりません」


「そうですかぁ。ではちょっと話題を変えますが、この事務所の開業資金はどなたかから出資してもらっているのじゃぁないですか?」


「そんなこととご主人の死とどういう関係があるのですか? 私のプライベートなことですので困ります」


「このビルは東日土木建設が建てたもので、この事務所も極端に安い賃貸料ですよね。それって銀山さんが東日土木建設と何らかの繋がりがあると私たちは思っています。東日土木建設の山下社長は国民真理の会の役員だったですよね。既に逮捕されていますが……。ですので、銀山さんは教団と何らかの持ちつ持たれつの関係があるのではないですか?」と単刀直入に質問した。


「それも調べましたか。警察の尋問のようですね」と銀山は困っているのが明らかであった。


「申し訳ありません。私としては真実が知りたいだけなのです」


「そうですよね。気持ちは分かります」


「お願いします。何でもいいのです。このままでは私も……」と声に詰まった。少し涙も出てきた。


 それを見た銀山は、

「それは……、大分前になりますが、墨田彩芽くんがいなくなった時、あなたのご主人、山根沢くんが懸命にその行方を追っていましたが、私も山根沢くんとは別に探しました。それは、私は彼女のことが好きだったからです。でもそのことは彼には言えなかったのです」 


 銀山は少しずつ話始めた。


「私が墨田を探し、本栖湖自立支援センターにいると分かったのです。そのことは山根沢くんには言えませんでした。いぇ、言わなかったのです。つまり彼よりも私の方が早くそれを突き止めていました。ある時、外務省のお偉いさんが私を尋ねてきたのです」


「外務省? 外務省の誰ですか?」


「まぁ、話を最後まで聞いてください。その人は私が弁護士として開業することを望んでいるとどこかで調べて尋ねてきたのです。それで弁護士事務所を開業する資金を出資したいと申し出ました。それは願ってもない申し出でした。場所も都内の一等地で最低でも一億円はかかる開業には絶好の場所でした。今の神楽坂下です」


「それで……、その見返りに墨田が自立支援センターにいることを黙っていて欲しいと。誰にも言わないで欲しいと。もちろん山根沢春平にも……。彼女を施設ではどうしても欲しい人材なのだと言ってました」


「その外務省の人って誰ですか?」


「外務事務次官の宍倉紘一です。自分は国民真理の会の役員になっていて、教団の宗教法人の認可を取るために教団の施設に問題が起こると困るとか言ってました。外務事務次官と言えば外務省のトップです。そんな偉い方が自分に会いに来るなんて余程のことなんだと感じました。私としては開業の資金の方が魅力的に映ったのです。その程度の条件であればのめる。山根沢くんには申し訳ないが……。その点は済まないと思っていました。しかし、墨田は施設で活き活きとやっているとの話を聞いて安心しました」


「そうでしたか。でも、その時あなたは墨田彩芽さんの恋人の夫春平がどうなっているのか知らなかったのですか?」


「はい。知りませんでした。彼は彼で、自分一人で探していましたので……。私に知らせる必要もなかったのではないですか? しかし、教団のあの施設で殺人事件などが起こり、警察の捜査が入り、施設に囚われていた墨田と山根沢が戻ってきたことを知ったのです。墨田は薬剤の効果が消えて元通りになった時、施設内で自分がやってきたことに対して罪悪感をもっていました。多くの人を不幸にした、死んでお詫びをしたいなどと言ってました」


「そうですか」と私は答えたが、銀山の言っていることは本当なのかと思った。銀山の説明を聞いていた華は私の方を見て、首を縦に振った。どういう意味なのか?


「私も訊いてもいいでしょうか?」と今までじっと聞いていた華が口を出した。


「何でしょうか?」


「墨田彩芽さんと山根沢春平さんがホテルで自殺を計ったのはご存じですよね?」


「えぇ、知っています」


「その経緯はご存じですか? 警察の調べではホテルのその部屋に第三者の指紋がワイングラスに残っていました。銀山さんはそれに関わっていたのですか?」


「墨田彩芽から相談を受けていました。死ぬつもりだと。先ほども言いましたが、罪の意識が強かったのです。しかし、私はそんな無駄なことをする必要はないと言いましたが……。おそらく自立支援センターか教団の誰かから連絡があり、呼び出されたのだと思います」


「それは誰だか分かりますか?」


「知りません。私が知っているのはそれだけです」


 銀山はもう嫌になっている感じがありありと見えた。私たちはこの辺で切り上げ、深川事務所へ戻った。



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