夫春平の古くからの親友、銀山が怪しい
三
私は柳瀬からの報告を聞いて、何故今になって銀山一郎が出てくるのだろうと思った。
銀山は夫の東大時代の仲間だ。夫と墨田彩芽と三人でいつも行動を共にしていたと聞いている。本栖湖のキャンプもそうだ。その写真も何枚か見たことがある。いつも墨田を真ん中にして夫と銀山が両脇にいた。その中で夫は墨田と恋人同士だったのだ。
しかし、よく考えると三人の仲間のうち二人が親しくなれば、おのずと残された一人は離れて行くのではないか? 銀山は何故そうしなかったのだろう? その時の銀山の気持ちはどうだったんだろう?
翌日、深川事務所でそれについての考えを訊いてみた。
「真里花さんの考えはもっともだなぁ」と深川。
「そうねぇ、だとすると銀山についてもっと調べなきゃダメよね。柳瀬刑事さんの話では墨田彩芽もそのことについては黙秘しているらしいから……。何か言えないことがあるのかもね?」華はそう言った。佑香も同じ考えだと言った。
それに加えて佑香は、
「春平さん、銀山、墨田、皆東大なのよね? それから教団の幹部も東大卒なのよ。東大繋がりね? 外務省、警察、教団は東大関係者が多いわね?」と言った。
「私も東大よ」と華。
「あっ、そうか。ごめんなさい」と佑香は何の気なしに言った言葉が華を苛つかせたことを詫びた。
私は皆との話の中で思ったことを話した。
「私の疑問を聞いて。もしかしたら銀山と教団との関係はないのかとも思っているのよ。墨田が失踪した後に夫は恋人の墨田を長年に渡って探し続けた。その間、銀山はどうしていたのだろうか。夫があのように夢中に墨田を追っている時に、銀山は何をしていたのだろうか? 友だちとして、いや親友として黙って見ていただけなのだろうか? 自分のことだけで精一杯だったのだろか? とそんな疑問も頭に過ったのよ。どう思う?」と正直に打ち分けた。
それと言うのも、以前から私は夫と墨田、銀山の三人の関係を不思議だなぁと思っていたのだ。
「私が銀山弁護士事務所へ話を聞きに行った時に感じたのですけど、あの事務所は随分立派な事務所だなと思ったのよ。内装の家具なども高そうだし、私が見てもお金をかけているなぁと思ったわ。それに場所も神楽坂の一等地よ。銀山は大学を卒業して間もなく開業したのよ。そんな資金がよくあったなぁってね」と華が言った。
「なるほど。そう言われればそうかも知れないなぁ。華の言う通りかも知れん。一度、銀山の人間関係など調べてみるか?」と深川は華と私の方を見た。
「じゃぁ、私、履歴や戸籍謄本などを取り寄せるわ。お父さんは銀山の弁護士会の人間関係など調べてくれない?」と華は深川に頼んだ。
「じゃぁ、私と佑香さんは教団関係者の弁護士について調べてみます。もしかすると教団弁護士と関係を持っているかも知れないから……」
私ももしかしたらという思いが浮かび上がってきた。
「あゝ、いいんじゃない」と深川の言葉を最後に、皆の考えは纏まって、私たち四人はそれぞれの目的に合わせて調査を進め、一週間後に再度ここに集まって報告することに決まった。
*
例によって華は事務所に白板を持ち込み、その上にマジックで各人の報告内容を細かく書き留めた。
最初に報告したのは華だ。華は銀山の履歴と家族関係について戸籍謄本などを取り寄せた。そしてそれを要約したレジメをコピーし配布した。
「皆さん、これ見てください。銀山の父親は埼玉県川越市役所の地方公務員で定年を迎え、現在六十五歳、年金暮らしです。母親は五十八歳で専業主婦、四十歳の姉が一人。彼は公立の高校を卒業し東大に現役で入学。高校から成績がトップクラス。友達の話では父親を見ていてやはり有名大学へ入らないとダメだと思い懸命に勉強したとのことでした。とても両親から資金的な援助を受けて都内の一等地で開業できるほどの資金があったとは思えません。私の調査からそう考えます」と華の報告だった。
次に深川からの報告だ。
「銀山は東京弁護士会に所属していて、特に何かの役職についてないようだ。月に一回の例会には必ず出席をしているとのこと。彼の専門は一般民事と交通事故。弁護士会事務局へ連絡し、親しくしている弁護士について訊いたところ、特別な人はいないと回答があった」
「事務局長の所へ伺い、依頼されたある事件の調査のことで銀山のことについて教えて欲しいとお願いした。そうしたら、もう何年も前になるが、友人が交通事故に遭ってから、交通事故について良く調べ、専門分野としているようだと言っていた。事故に遭った人の詳しい名前などは言えないとのこと。事務局長の話からその人は時期的に墨田彩芽ではないかと思われる」と深川は報告した。
次に私と佑香の調査報告だ。
「教団に所属している弁護士の中には銀山はいませんでした。また、銀山と親しくしている弁護士の中に教団関係者はいません。しかし……、銀山は失踪した墨田彩芽の母親の話から夫の春平とは別に十年前から行方を調べていたようなのです。それは墨田の母親の話をもう一度聞いて分かったことなのですが。銀山は墨田のことが好きだったのではないかと話していました。しかし、彼女は春平と付き合っていたので、銀山としてはどうすることもできなかったのではないか」と私が報告した。
「もしそうなら、銀山は春平がいなければいいと思ったこともあったのではないかなぁ?」と華の疑問に、
「それは極論ですよね。でもあり得る話かも知れませんが……」と佑香は答えた。
「その推論は成り立つとしても、物証が必要だね? 柳瀬に尋ねてみるよ」と深川の意見だ。
私は、銀山は長い間墨田のことが好きでどうしても諦めることができなかったのではないかと思った。今もまだ結婚もしていない。
そして墨田が本栖湖の自立支援センターに運ばれたことなど自分で調べて知ったのではないだろうか? そして、捜査一課の捜索で墨田と春平が共にその施設にいることも知り、その後に保護されたことを知らされたのではないだろうか。もちろんこれは私の推論で根拠はないが……。
佑香もまた自分で調べた事実を報告した。
「東日土木建設が行なった過去の業務内容をチェックしましたが、新たなことが分かりました。銀山の弁護士事務所の入っている神楽坂下のビルは東日土木建設が受注していました。またその弁護士事務所の内装工事も東日土木建設の下請け会社が行なっています。しかし発注元は今のところ不明です」
「そうなのか? 佑香さん、その時の工事の資金は何処から出ているのか調べられますか?」と深川。
「当然、それも調べましたが、内装工事については銀山からの入金は確認できないのですよ。契約書はあったのですが、それによると銀山は月決めで事務所を東日土木建設から毎月たった五万円の賃貸料で借りています。それは極端に安い賃貸料なんです」と佑香は得意そうに話した。
「おそらく銀山は山下から資金を提供されていたのだと思います。賃貸料はあの辺だと月々四、五十万はするでしょう。五万では安すぎます」
「これで銀山と山下すなわち教団との関係が成り立つのではないでしょうか? もしそうだとしても、今回の夫の死とどういう繋がりがあるのでしょうか?」
私は少し結論を急ぎ過ぎるのだろうか? 早く真実を知りたいからだ……。
物語の終盤です。ご意見をどうぞ。




