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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
37/45

夫が心中、信じられない、絶対に違う

 二

 その後直ぐに深川と華、佑香とともに深川事務所へ戻り、改めて深川に夫の死の真相を明らかにしてくれるように正式に依頼した。


「真里花さん、このことはあなたに言われなくてもそうするつもりです。華、そうだな?」


「はい、もちろんよ。私も心中なんて信じられないわ」


「もう少し捜査一課の柳瀬から情報を引き出すから、待っていてください。墨田彩芽の事情聴取も大事ですからねぇ」と深川。


「私もそれを一緒に聞く訳には行きませんか?」


「それは無理でしょ。墨田にしてもあなたにいられては正直に話すことはできませんよ。やめておいた方がいいです。気持ちは分かりますが……。我々は別の方面から調べましょう」


「そうですね」


「ところで春平さんが墨田と心中したと考えるとその前に必ず連絡を取っていた筈です。そんな様子を真里花さんは気が付きましたか?」深川の疑問はもっともだと思った。


「夫が品川のマンションへ戻ってからはそんな様子はなかったです。彼は仕事をしていなかったですし、一日中家にいましたので……。私は仕事に復帰しましたが、私がいない時に隠れて連絡を取り合っていた可能性はあるかも知れません」


「そうですね。連絡を取るとしたらおそらくは携帯ですよ。柳瀬に連絡し、携帯を押収しているでしょうから、その通話など調べたかどうかまずは訊いてみましょう」と言って深川は直ぐに柳瀬に連絡し、その件を訊いた。


 それによると一度だけラインで、『品川プリンスホテルに来てください。ロビーで午後一時に待っています』とあっただけだった。通話記録はなかったそうだ。


「真里花さん、心中するのにライン一度だけで実行するでしょうか? 常識的にはその前に何度も会って打ち合わせをするとか、お互いに気持ちを高めてこうしようとか、するのではないでしょうか?」と華が口を挟んだ。


 華の言う通りだ。墨田と心中するには期間が短すぎるように思った。


 自立支援センターに二人でいた時はお互いに本来の自分ではなかった筈だ。DCZを継続的に服用していたし、心中などするなど頭には浮かばなかったであろう。今までの経緯を考えると不自然だ。もし心中ではないとすると他殺ということになる。


「深川さん、夫は誰かに殺されたのではないでしょうか? 亡くなる前の日の夜に私と結ばれたのです。


 自宅に帰って来て初めてでした。その時、夫は墨田のことを話してくれて、これからの私との生活を約束してくれたのです」


「そうですかぁ。しかし、万が一ご主人が殺害されたとすると、誰がやったのか、その動機は何なのか皆目見当がつきませんね。今回の事件で山下や野末は既に逮捕されていますからね。ご主人や墨田彩芽が生きていては不都合な奴がまだいるのでしょうか?」


 深川のその疑問には誰も答えられなかった。私もそれを考えても頭に浮かばない。でも夫は心中ではないと思うことでほんの僅かではあるが自分自身の中で納得ができそうな気がした。それを傍で静かに聞いていた佑香がポツリと言った。


「春平兄さんって外務省で父の仕事を受け継いでいたんでしょう?」


「えぇ、おそらく。でも夫の仕事の内容については私もよく分からないのよ」


「そうなの。でも世間の人はそう見るわ。だって父親の春樹の息子なんだから……。それに兄が外務省に入省できたのは、確か外務事務次官の口利きがあったからなのよね? 父親の春樹殺害事件の揉み消しのため。それに当時の警察庁長官も絡んでいると聞いたわ」


「佑香さんの言う通りかも知れんなぁ。警察庁長官と外務事務次官は代々、国民真理の会の役員になっていたのだ。それに今回の事件で本栖湖自立支援センターは消滅しても、教団関係の施設は他にも沢山ある。ということは野末や山下が逮捕されたからと言ってまだ終わってないということだ」と深川の目が輝いてきた。


「なるほど……。野末や山下はまだ(した)()ってことになるのかしら」


 私はまだ事件は終わってない、司法解剖の結果と墨田彩芽の聴き取りの情報がどうしても必要になると思った。

   *

 その翌日、柳瀬から夫の司法解剖の結果を電話で聞いた。


「真里花さんですか、司法解剖の結果が出ました。血中から高濃度のジアゼパムと低濃度のアルコールが検出されました。その他の薬剤は検出されませんでした。唯、右手の肘の所に一か所注射痕が残っていたのですよ。それと後頭部に殴打痕が残されていました。いずれも新しいものです。」と柳瀬はすらすらと話した。


「それって、結論はどうなるんですか?」


「司法解剖をされた医師と鑑識の話では、睡眠薬ジアゼパムによる中毒死であることは間違いないですが、頭部の殴打痕と注射痕をどう考えるかですね。単なる自殺あるいは心中ではないかも知れませんよ。もしかしたら春平さんはジアゼパムを注射された可能性も出てきました」


「それって心中を装った他殺の可能性も出てきたということですね?」


「そうです。墨田の話も合わせて考えないと分かりませんが……。墨田の聴き取りが今日行われますので、少し待ってください」と柳瀬。


「分かりました」


 私は、夫は心中なんてする訳がないと思った。誰かに殺されたんだとの思いが益々強くなった。心中なんて私が惨めすぎる。絶対に心中ではないと心の中で願った。


 その翌日、再び柳瀬から連絡をもらった。墨田彩芽への聴き取りが終わったらしかった。


「真里花さん、墨田彩芽の聴取が終わりました。墨田は今までの自分の罪を認め、いずれは警察の手が届き逮捕されるだろうと考えていたようでした。DCZのためだとは思ったが、それは言い訳に過ぎず、自分は生きる価値のない人間だと思ったと言っていました」


「それで夫と心中? 辻褄が合わないわ。どういうこと?」


「そのことを自分一人が考えて死のうと思い悩んでいたんです。しかし、誰かに相談したかったのですが、施設で長年暮らしていたので相談相手がいなかった。そこで昔の親友の銀山一郎に相談したようです。銀山は大学時代に春平さんと墨田と三人で親しくしていたこともあり、頭には彼しか浮かばなかったのでしょう」


「そうだったのですか。銀山は今、弁護士事務所を開業しているのですよね?」


「そうです。銀山は墨田の事件の弁護をしたいと彼女が家に戻ってから申し出ていたらしいです。それで墨田は銀山と何度か話をしていたとのことでした。それ以上のことは話してくれないのですよ。何か隠しているのだと思います」


「そうなんですか。銀山さんとねぇ……。分かりました。私の方でも深川さんと相談して調べさせてもらいます」


「何か分かったらこちらへもお知らせください」


「はい」とそう返事をして、柳瀬からの話を深川事務所へ行き、全て報告した。


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