青城はどうやって殺った?
四
「敦子が宗務課を尋ねた一週間後の日曜日に青城は一人で施設を訪れた。敦子はその時は既に施設に戻っていた。青城は敷地の外門のインターフォンで名前を名乗り、敦子に会わせて欲しいと申し出た。おれは前もって文化庁の青城という男が尋ねてきたら、応接室へ通し、敦子に会わせろと指示しておいたのだ」
野末は柳瀬の目をじっと見つめて言った。
「おまえは、その時どこにいたのだ?」
「おれは都内だ。青城が来たら直ぐに車でそちらへ向かうと言ってあった。二時間もあれば着くからな。診療所の綾尾にはいつものように飲み物に睡眠薬を入れ、眠らせておくように指示した。青城は応接室に通され、綾尾と凛子が対応したようだった。敦子もその場に現れ、青城は『敦子を家に戻して欲しい』と言ったらしいが、その時のことはおれには分からん」
「おまえが施設に到着した時には青城はどうしていたのだ?」
「綾尾が仕組んだ睡眠薬が効いたらしく診療所のベッドでぐっすり寝ていたよ」
「そこで殺ったのか?」
「まさか、そこでやったら皆に見られるし、発砲音も聞こえるし、警察に踏み込まれたらやばいからな。綾尾とおれの運転手の二人で青城をおれが乗ってきた車に乗せたんだよ。そして三人で車を本栖湖方面へ向かわせた。その時も青城はぐっすり寝ていて起きなかった」
「どこで殺ったんだ?」
「本栖湖の湖畔にある茂みに青城を運び、そこで頭を撃ち抜いたんだよ。音が聞こえないようにクッションを当ててな。おでこをこうまっすぐ撃ったら、弾丸は貫通し、脳と血液が飛び散り即死した」と野末は自分の手で拳銃を真似てその時の様子を示した。
「銃はおまえが持って来たのか?」
「そうだ。山下社長の金庫に保管してある拳銃だ。殺すつもりでいたので、その拳銃と弾丸をバッグに入れて持って来た。トカレフTT33というロシア製の拳銃だ。山下が以前から金庫に隠し持っていたものだ」
「綾尾とその運転手はその様子を見ていたのか?」
「あゝ、見ていた。だが銃を撃ったのはおれだ。あいつらは真っ青の顔をしていたよ。度胸のない奴らだ。それで着ているものを脱がし、下着だけにして、あらかじめ東野篤から預かっていた指輪を左の薬指にはめ、万が一発見された時のために偽装工作したんだな。そして遺体は近くの藪に運び、運転手と綾尾に手伝ってもらって、穴を掘ってそこに埋めたという訳だよ」
「青城が着ていたものや持っていたバッグなどはどうした?」
「ポリ袋に突っ込んでまとめて、湖畔で燃やした。燃えないで残った腕時計、携帯電話や車のキーなどは湖に投げ捨てた」
「それは用意周到だなぁ。どのあたりで燃やし、どの辺に投げ捨てたのか後でその位置を教えろ」柳瀬は事情聴取の内容を記録していた刑事に地図を持ってこさせ、その大体の位置を赤丸で印をつけた。
「後で実況見分か現場検証するからな……」
柳瀬は野末自身の自供を元に、彼を殺人罪および遺体遺棄罪で逮捕に踏み切った。また、綾尾および施設の運転手も殺人罪の幇助の罪として逮捕した。
ただし、青城を連れ出した敦子については、本人はまさか青城を殺害するとは考えなかった。野末から唯、青城をどんな手を使ってもいいから施設に尋ねてくるように上手くやれと言われたとして逮捕には至らなかった。
その後、野末に対して任意での実況見分が行なわれた。
その結果、本人の自供通り、本栖湖湖畔に燃やした跡が残っており、その燃えカスの中にスーツの一部が残っていた。また野末が湖に投げ捨てたとした携帯電話、腕時計、車のキーも鑑識員の潜水探索により発見された。
さらに殺害に使用した拳銃トカレフTT33と銃弾のセットは東日土木建設の社長室にある金庫の中に置いてあり、それが証拠品として押収された。
これによって、捜査本部は野末、綾尾、運転手の三人を証拠充分として検察に送検した。
柳瀬からその話を聞いた深川と私は胸を撫で下ろした。
「真里花さん、これで一先ずは一段落ですね?」と笑った。
「えぇ、そう言っていいのかしら。でもねぇ……」
「まだ何かあるのですか?」と深川の怪訝な顔。
「私の知りたいことは、まだあります」
「それって春平さんと墨田彩芽さんのことよね?」と華の明け透けな質問だ。
「まぁ、そう言う訳ではないのですが……」と答えに困った。
「真里花さんは、ご主人のことを本当に愛しているのですね? お父さん、そんなことも分かんないの?」
「それは分かっているよ」と言った深川は分かっていない。
「真里花さんは、今となっては墨田彩芽さんと自分とどっちを愛しているかを知りたいのよ。そうですよね? 真里花さん」
「……」私は何と言っていいのか分からなかった。
「それは真里花さんに決まっているじゃぁないですか」と深川の気を使った言葉。
「それを春平さんから直接聞きたいのよ。ね、真里花さん」
「そうなんですけど、まだ夫は元通りになっていません。もう少し経ってから話してくれると思っています」




