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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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どうやって青城を殺害したのだ?

 三

 深川自身も柳瀬からの話を聞いたにも拘わらず、私の言う通りまだ不完全であることは分かっていただろう。


 青城を殺害したのは誰か? どのように殺害したのか? 夫山根沢春平がその殺害にどう関与していたのかなど分からないことがある。しかし、私の依頼を解決できたことには深川自身は満足している。華だってそうだろう。


 品川のマンションに戻った春平は当初、全く無表情で私と結婚生活をしていたことすら思い出せなかった。もちろん性生活もなく、唯数日間は一緒に食事をして、会話もなかった。


 日にちが経つにつれて徐々に思い出してくれて、私に対しても『済まなかった。ごめんね』などと言うようになった。しかし、墨田彩芽のことを訊いても『それは分からない。ごめん』としか言わなかった。


 私に対して気を使っているのかも知れない。私自身もそれ以上のことはあまりしつこく訊くことはなかった。時間が解決するだろうと思った。


 一方、柳瀬の方は強制連行した野末への事情聴取を行なった。


「教団の山下、鎌田は既に逮捕され、今は綾尾も逮捕されたのだ。綾尾の供述から今回のおおよその事情は呑み込めた。後は青城のことだ。それはおまえが一番よく知っていると思うが、どうなんだ?」と柳瀬の尋問に対して、野末はだんまりを決め込んだ。


「野末よぉ、黙っていてもいずれは分かることだ。全部しゃべって楽になったらどうだ? 綾尾も全てしゃべったぞ。青城を殺ったのはおまえだと言ったぞ。そうなんだろ?」

 柳瀬は鎌をかけた。


「……」と野末は『ふん』と言って横を向いた。


「今さら黙っていたって罪が軽くなる訳じゃぁないぞ。おまえらによって死んで行った山根沢春樹、新藤大和、青城秀則たちのご家族の気持ちを考えろ! 教団の教祖の孟子の教えを思い出せ。おまえらが逮捕されたって他の信者が何万といるんだろう? 教団を守るのならおまえが全て吐いて、残った奴らを守ったらどうなんだ。それが上に立つものの役目じゃぁないのか?」と柳瀬の説得力のある言葉だった。


「何を訊きたいんだ?」と野末は口を開けた。


「話す気になったのか?」と柳瀬。


「内容によるがなぁ」


「じゃぁ、教えてくれ。青城を殺ったのはおまえか?」


「そうだ。おれだ」と野末ははっきり答えた。


「どうやって殺ったのだ? 頭を拳銃で打ち抜かれていたんだがな」


「青城はなぁ、十年以上前から教団の宗教法人の認可に関わっていたのだよ。我々は宗教法人として認可されれば、税金が免除され資金的にも運営の面で大いに助かる訳だ。それは知っているだろう? ところが外務省の外交総合政策室の山根沢春樹は政教分離の点から宗教法人の認可に対して強硬に反対し、文化庁宗務課の青城と意見を同じくして絶対に認可はしてはダメだと主張していたんだ。我々としてはその二人がいるとこの先、教団の将来は明るくないと思った訳だ」


「そうだよな。教団は選挙の応援にも出かけて行き、組織票にもなるし、自由民政党の議員にすれば嬉しい話だなぁ?」


「そうだ。だから教団の理事には政府のお偉方もいて、そこからも山根沢や青城へ圧力をかけていたのだが、頑として己の考えを改めなかったのだよ」


「それが正論で正しいことなんじゃぁないか? そうは思わんか」

 柳瀬の思いは野末のそれとはかけ離れていた。もちろん、そうでなければならないのに……。


「教団が生き残れるかどうかはそれに掛っていたんだよ。だから、彼らにいてもらっては困るんだな」


「それで殺ったって訳だ。自分勝手な考えだとは思わんのか?」


「そうだよ。自分勝手だよ。人間は皆、そうだよ。あんただってまずは自分のことが第一だろう?」


「そうだよ。だがなぁ。法を犯してまで自分の我を通すことはできない。おまえたちのようにな」


「ふん」と野末は薄笑いを浮かべた。


「ところで青城をどうやって呼び出したんだ?」と柳瀬は青城殺害の仔細を知りたがった。


「……」と野末はまだ自白を渋っていた。


「おまえ一人では青城は出てこないだろう? 誰を使ったんだ? 教団の奴だろう?」


「そうだよ。青城の弱点を突いてな。あいつの弱点は女だ。しかも若い女だ。以前にも銀座のクラブで接待したことがあって、あいつの弱点は分かっていた」


「教団の誰だ?」


「自立支援センターにいた若い女だよ。敦子っていう名の女だ。妙に色っぽくってな。しかも教団の運営については協力的で、薬を使わなくても我々の意志に沿って言うことを聞いてくれる女なんだよ」


「敦子か? その敦子を使ってどう呼び出したのだ?」


「敦子には直接、文化庁へ行かせたんだよ。宗務課へな。受付で青城を呼び出して相談したいことがあると言わせたのだ。自分は本栖湖の自立支援センターにいるのだが、そこは国民真理の会と言う宗教団体の施設で、退居し自宅へ帰りたいのだけど許してくれないと言わせたんだ。そうしたら青城はお昼休みにでも外で相談しましょうと言ったらしい」


「なるほど。それで?」


「敦子は、お昼休みは時間が短いので、仕事が終わったらにしてくださいと申し出たのだ。おそらく青城は敦子を見て男としての何かを感じたのかも知れない。馬鹿な男だ。そして青城の仕事が終わった午後六時頃に銀座のレストランで待ち合わせしたのだ」


「何かを感じたとは何を感じたのだ?」


「あんた、鈍感なやつだなぁ。分からないのか? 中年男が若い色っぽい女を前に相談された時の気持ちだよ……。言わなくても分かるだろう」


「ふん、それで?」


「二人は待ち合わせして、青城は敦子の話を聞いた訳だ。敦子には前もって青城を本栖湖近辺に連れ出すように言ってあった。敦子はまぁ、言ってみれば色仕掛けで青城をどうにか連れてきたのだよ」


「敦子は何て言って連れてきたんだ?」


「そんなことは知るかよ。敦子自身に訊いてみろよ。だが、敦子の話だと、自立支援センターは教団の施設で、自分はそこを辞めたいので青城に助けて欲しいと懇願したら、じゃぁ、一度そこに行くと言ってくれたそうだ。詳しいことは分からんが……」


 柳瀬としては、青城はどういうつもりだったのかと考えた。唯、若い女の魅力に引かれたのか、それだけではないと思う。教団の施設を自分の目で見て、そして宗教法人としての認可を下さないための証拠集めの目的があったに違いない。しかし、そこへ出向いたことが青城の運命を決定づけたのだった。



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