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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
30/45

いよいよ施設の綾尾、凛子などの逮捕に踏み切ることを決めた。

  五

 深川の事務所に四人が集まった。


 深川、華、佑香それに私。華はこちらに戻って一週間が経ち、服用させられた薬も体外に排泄されたのか意識もはっきりし、今までの華に戻っていた。


 そこで今までの捜査状況をまとめ、これからどうするかを相談するために集まったのだ。


 元を正せば本来は私が失踪した夫の山根沢春平を探すためにこの深川探偵事務所を訪れたのが始まりだ。夫の居所は突き止めたが、まだ私としては納得していない。


 その間、いくつかの殺人事件の真相が明らかにはなったが、夫の心の中がまだ読めない。それをはっきりさせるまでは止める訳には行かないのだ。そして夫の身と心を取り戻すことができればそれでいい。


 四人でまずは華の全快を祝って、ワインで乾杯した。佑香が自分でチーズを持って来た。彼女は匂いの強いブルーチーズが好きだそうだ。梅沢組の中にいて酒も強くなっていた。


「華、良かったな。本当に心配したよ。一時はどうなるかと思ったよ」

 深川の嬉しそうな顔、本当に娘を心配していたのだなと私は実感した。


「心配かけてごめんね。皆さん。でもあの施設の色々なことが分かったわよ。徐々に思い出してきたのよ」と明るい華に戻っていた。


「私もそうだったけど、入所者のほとんどは私が飲まされたDCZを継続的に服用させられているのよ。あのDCZは毎日服用すると昔のことなどどうでもよくなって、思い出したくなくなるのよ」


「特に帰宅願望の強い入所者は必ず飲まされていたわ。施設を出ないようにね。薬で縛り付けているのよ。真里花さんのご主人の春平さん、東野篤さん、もおそらく飲まされていたのだと思います。いつもボーとしていたわ」


「もう一人の運転手さんの話だと施設に入職する前に、春平さんは施設に何度も何度も訪れていたと言ってました」華は元通りになっていた話し方だった。


 春平が何度も訪れていた……。それっておそらく昔の恋人の墨田彩芽を探すためだったのだろう。でも十年も経っても探していたのか?


「夫が施設に訪れたのはやはり墨田彩芽を探すためだったのでしょ?」


「そうだと思います。春平さんは墨田彩芽さんが約束していたキャンプ場に現れなくて、失踪したため、その居場所を探していたのだと思います。色々調べて行くうちに、警察署員や近所の住民の話でその時にキャンプ場入口付近で事故があり、被害者がこの施設の診療所へ運び込まれたのではないかとの証言を得たのではないでしょうか」


「それで夫は施設へ探しに来たという訳なのかしら?」


「そうです。最初、春平さんは施設の中にも入れないくらい冷たく帰されたようでした。しかし、何度も何度も探しに来たようです。それは、春平さんが車で付近を通りがかった時に墨田彩芽さんに似た人が施設内で農作業をしていたようなんですよ。それはもう一人の運転手の話です。施設での運転手は二人だけなので、春平さんは後から自分のことをその運転手さんに色々と話をしていたみたいです」


「やはりそうなんですか。私もそう予想していたのですが……。しかし、夫は何故そこに居着いてしまったのか分からないのです。その施設は宗教の教団であることは知らなかったのでしょうか?」


「調べて行くうちに分かったのだと思います。それでもどうすることもできなかったのではないですか。十年もの長い間、ずっと考えていたのだと思います。墨田彩芽に対して済まないと思っていたのでしょうか? これは私の推理ですが……」と華は自分の推理を明け透けに話した。


「何に対して済まないと思っていたのでしょうか?」


 私は華の言う『済まないと思う』の意味、どうして済まないのか分からなかった。


「華さんは夫と直接、話をできなかったのですか?」これは私が華に訊きたかったことだ。


「何度か接触を試みたのよ。でも東野篤さん、こと春平さんは私が施設にいた時のようにボーとしていて、昔のことを話せる状態ではなかったのです。おそらく私と同じようにDCZを継続的に服用させられていたのだと思います」


 私は華のその話もそうなんだろうとは思った。しかし、そんな状態で運転手を務められたのか。やはり私はどうしても春平に会って直接訊きたい。そして私の顔を見せて話し合わなければ真相は分からない。早く施設へ行って直接春平に会いたい。その思いが日に日に強くなってきた。


「深川さん、やはりどうしても夫を連れて帰りたいです。何か方法はありますか?」


 私の顔はおそらく泣き顔になっていたに違いない。


「うむ……、そうすると我々だけではちょっと難しいかも知れませんね。やはり柳瀬に頼んで警察に動いてもらわないとダメでしょう」


 深川は私の依頼に覚悟を決めたようだった。捜査本部の柳瀬に連絡し、まずは東野篤だけでも身柄の確保はできないかを訊ねた。


 柳瀬の話では、今回の深川華は血液中から検出された睡眠薬およびDCZを強制的に服用させられ監禁されたとして刑法二百二十条逮捕・監禁罪が適用されると考えていた。


 したがって、現在入所中の東野篤こと山根沢春平にも同様にその罪が適用されると判断した。


 深川の要請を受けたからかどうか不明ではあるが、捜査本部は自立支援センターの浜島雄三施設長、凛子副施設長こと墨田彩芽および診療所の綾尾医師を組織的犯罪処罰法三条一項八号が適用されるとして逮捕に踏み切った。



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