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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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私の疑問

 DCZの影響から解き放された華の話によれば、入所してから凛子から毎日白い錠剤を飲むように渡された。


 凛子は『それはビタミン剤のサプリで元気が出て肌も綺麗になるのよ』と言っていて、同室の敦子も何の疑問も持たず服用していたとのこと。


「最初のうちは怖いので飲まずに、その白い錠剤を机の中に仕舞っておいたのよ。それが凛子さんに見つかって、結局飲む羽目になったの。それを毎日飲んでいるうちに全てがどうでもよくなってきたのよ」


「お父さんのことや真里花さんのことなどぼんやりして、何かを頼まれてここにいるのだということも分からなくなってきたのよ。それよりも毎日の農作業や掃除洗濯などのやり方や野末先生や綾尾先生の話が頭に残って、一日中眠い感じだったわ」


 と華はそう言った。


「今から考えると、あの白い錠剤がDCZだったんだと思います。入所者たちは全員ではないけど、あれを飲まされていた人が多いと思うわ」


 私はその話を聞いて夫とも話をしたのかを訊きたかった。


「あの運転手さん、東野篤さんって言うんでしょ? その人と話ができた?」

 私の疑問をぶつけた。


「いぇ、できませんでした。施設内で逢うのは講堂で教義の時くらいなんですよ。でもその時はお互いに話はできませんから」


 華はまだ元通りになっていないようだ。以前のように打てば響くようなリスポンスはない。私の気持ちを察して次にどうするかなどを提案していた以前の頭の良い華ではない。深川もそう感じていたに違いない。


 私と深川は春平と青城が交換された経緯を知りたいのだ。


「華は診療所のビデオを撮ったのは覚えているか?」と深川が華に訊ねた。


「えぇ、覚えているわ。それをSDカードに保存し送ったのも覚えているわよ。その後くらいから自分が何をしたのか覚えていないのよね」


「凛子とあの運転手が接触していたかどうかも分からないの?」と思わず私が気になっていたことを訊いてみた。


「何度か話をしているのを見たことはあったわ。でもそんなに親しいようには思えなかったけど……。それよりも最初は施設の運営については凛子さんが全て決めているのだと思っていたのだけれど、実際は綾尾先生と看護師の時子さんが指揮を執っていたことが分かったのよ」


「綾尾先生って言葉巧みなのよ。それに私たちに薬を渡していたのは綾尾先生と時子さんなの。凛子さんや澄子さんはあの薬がDCZだって知っていたのか私は今となって考えると疑問なのよね」


「それに時々教義にやってくる野末はいつも凛子さんたちの接待の後、診療室で綾尾先生と長い時間話し合っていたのよ。そして、野末が帰った後必ず新しいことが決まり、凛子さんから『そのことは今度からこうなったから……』って言ってくるの。


 それって命令系統が野末―綾尾―凛子となっていると思うのよね」


「なるほど。その通りかも知れないな」と深川は頷いた。


「それから本栖湖長崎半島の遺体の捜査は進んでいるの?」と今度は華から深川に質問した。


「捜査本部の柳瀬から時々情報が入るけど、なかなか難航しているようだよ。施設への家宅捜索でも犯人に結び付く物証は得られなかったようだ」


「ただ、警視庁科学捜査研究所に遺体のDNA鑑定を担当している女性鑑識員がいて、春平さんと青城のDNA検体を誰かの命令で取り換えたのではないかとの疑いが出ている。その女性鑑識員は国民真理の会の信者だということのようだ。だが、警察としては一度、発表したことを警視庁内部の落ち度だと発表するのは信用にかかわるとのことで、上からの圧力がかかりその事実は隠ぺいされているとのことだ」


 と深川は柳瀬からの秘密情報を話してくれた。


「そうなんだ」と華はそれ以上質問しなかった。それもいつもの華とは違う。その話を聞いていて私は、「また、警察はそんなことを……」と思った。


「しかし、遺体のDNA鑑定の検体を入れ替えたことはそれでいいとしてもだなぁ、指輪を青城にはめさせたのは誰なのか? そいつが犯人ということになるなぁ。遺体は拳銃で頭部を撃たれた筈だ。そして死んだ後、遺体を運び長崎半島の林の中に埋める時に指輪をはめたということになる。また、殺害現場は何処かだ。長崎半島の遺体発見現場ではそれは難しい。あそこに実際に行ってみたら分かる。別な所で殺害されて運ばれたに違いない」


 深川の推理に私も納得した。


「拳銃はそんな簡単に手に入るものなのでしょうか?」


 私の単純な質問にも深川は答えてくれた。


「真里花さん、それは手に入れようと思えば、できますよ。しかも、教団は梅沢組と絡んでいます。その辺から手に入れることは容易(たやす)いのではないですか?」と深川。


「ということは教団の誰かが青城の殺害を実行し、春平さんと思わせるように仕組んだということなんでしょうか?」


 私の考えはどうしても春平のことになってしまう。それって冷静な捜査はできないのかも……。


「そうかも知れないなぁ。拳銃は梅沢組から出ているとしたら佑香さんがもしかしたら知っているかも。訊いてみよう」


 深川は直ぐに佑香に連絡し、東日土木建設と教団との間に拳銃の受け渡しがあったかどうか、またその物証などが手に入るかどうか確かめようとした。


 また、柳瀬にも連絡し、捜査本部ではその拳銃の出どころについてはどうなっているのかを訊いた。


 柳瀬からの情報では、使用された拳銃の種類や弾丸の情報などは白骨化された頭部からは全く得られていないことが分かった。白骨化した遺体からはそれらの情報は無に等しい。


 ただ、前頭部を拳銃によって撃ち抜かれているとしか分からないということだ。弾丸は後頭部に掛けて貫通していたのは確かだ。もちろん鑑識からも遺体の周囲に弾丸などが残っていたとの証拠もない。


 一方、佑香の情報では、逮捕された山下社長の使っていた金庫の鍵は自分が持っているとのこと。その中には拳銃一丁と弾丸がワンセットいつも置いてあることは知っていたとのことだった。


 しかし、その拳銃が今回の犯行に使われたものかどうかは分からないという返事をもらった。深川はできたらその拳銃と弾丸を携帯で撮影し送ってくれと頼んでおいた。


 佑香によれば金庫の鍵は二つあった筈だ。山下と佑香、山下が逮捕されてその鍵が誰に渡っているのかは分からないらしい。しかし、山下と一番親しいのは野末だ。とすると野末は本栖湖の施設にもこの会社にも時々顔を出しているので、その拳銃を持ち出している可能性もある。


 でも私の分からないことは、春平のことだ。何故あの施設にいるのか、凛子こと墨田彩芽となぜ一緒に同じ施設で暮らしているのか、あの幸せな私との生活を終わりにして何故こんな施設で運転手などしているのか、疑問だらけだ。


 その上、殺された青城の指に私たちの結婚指輪がはめられていた。それって春平が自分から外さなければそうはならない筈だ。あるいは無意識のうちに誰かに外されたのか……。説明できないことばかりだ。


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