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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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華はDCZを飲まされていた。

  二

 深川は仕方がなく東京の事務所へ戻ってきた。その話を聞いて私はますます施設が何かを隠していると確信した。


 それに華の命が危ないと感じた。顔を見たら深川も同じ気持ちであることがはっきりした。


「深川さん、それって捜査一課の柳瀬さんに相談した方がいいと思うわ」


「そうですね。早速、電話しましょう」とそう言って、直ぐに柳瀬に電話で相談した。


 電話を受けて柳瀬は捜査一課による家宅捜索で押収した資料をもう一度確認した。しかし、凛子や春平と思われる運転手に関する身元を証明する書類は確認できなかった。もちろんそれらの書類は上手く改ざんされていると考えられる。


 また、深川の話を聞いて、柳瀬は深川の娘である華の安否を確認するには警察が直接的に訪問するしかないと判断した。


 その考えに沿って捜査本部を設置した所轄の富士吉田警察署の応援を求めた。柳瀬は直接富士吉田警察署に出向いて、山科管理官に一連の経過を説明し再度の家宅捜索が必要と説明し、許可を取った。もちろん、本栖湖長崎半島での白骨遺体の捜査も含めてであることは言うまでもない。


 深川が柳瀬に連絡してから四日後に柳瀬と所轄の富士吉田警察署員四名、それと深川、私の七名が車二台に分乗して施設へ向かい、家宅捜索を行なった。


「富士吉田警察署です。門を開けてください。捜索差押令状を持っています」と富士吉田警察署員の高圧的な言葉に返答はなかったが、門が自動的に開いた。我々は車で入口まで入って行った。


「強制捜索です。いいですね?」と柳瀬が警察手帳と捜索差押令状を示した。


 応対に出たのは澄子だったが、直ぐに凛子が現れた。しかし、突然であったため驚くばかりで言葉が出なかったようだ。


 深川と私は凛子に華の自室の場所へ案内させ、二人で華の部屋に入った。華は自室のベッドで横になっていた。


「華、 華!」と深川は呼びかけた。華の目はボーとしていて、身体を揺り起こしてもぐったりしていた。


 おそらく何かの薬を飲まされているのだろう。普段はあのようにハキハキしているのに全く別人のようだった。深川の呼びかけにも答えない。能面のような表情、虚ろな視線、立てそうにない。


「これはどういうことなんだ!」と深川が後ろにいた凛子をしかりつけるように訊いた。


「私たちにも分からないのですよ。診療所の綾尾先生にも診察して頂いたのですが、精神的なものだとのことです。うつ症状の一つだと言ってましたが……」


「単なるうつ病ではないだろう。見れば分かるわ。とんでもない施設だ」と深川はそう言って、華を抱きかかえた。


 そして入口付近に駐車しておいた車まで抱っこして運び、後部座席のドアを開け、華を寝かせたまま乗せた。私もその隣に座り、華の頬を叩いたが虚ろで別人のようだった。私は華のことはもちろん心配であったが、春平が何処にいるのかが気になっていた。


「真里花さん、華の隣にいて上げてください」と深川に言われ、そこから離れることができなかった。


 華の状態からして意識は虚ろだが、心肺機能は保たれているようなので、直ぐに救急処置などしなくてもよいだろうと勝手に思った。


 車の中から駐車場の方を眺めた。気になっていた春平らしい男が駐車場の方に佇んでいた。髪の毛も依然と違う短髪で、地味なアイロンのかかっていないグレーのスーツを着て白の手袋をしていた。見るからに運転手の出で立ちだ。


 隣に華がいなければ、直ぐにでも車から降りて春平の方へ走って行きたかった。そうしているうちに深川が華の自室から私物を持って戻ってきた。深川は華のことで興奮気味だった。


「このまま家に帰りましょう。すみませんが、とりあえず、河口湖当りの病院へ連れて行ってください」と警察署員の一人にお願いした。そのまま柳瀬などは施設に残して、河口湖総合病院へ向かい、救急外来へ受診させた。


 そこの医師は、

「何かの睡眠薬の過剰摂取のような感じですね。点滴して様子を見ましょう」と言った。


 私も深川も例のDCZを服用させられたのではないかと思っていたが、口には出さなかった。

「薬物の検査はできますか?」


「ここではできないのですよ。外注でできますが、調べたい薬物はありますか?」


「いぇ、特にありませんが、できれば採血した血清を頂きたいのですが、可能ですか?」と深川が言った。おそらくDCZの濃度測定などは一般の病院ではできる筈はないと思ったのであろう。華は点滴を五百ccほどしたら徐々に目が覚めてきた。


「華、華、分かるか?」と深川の呼びかけにも首を縦に振っただけで、言葉を発することはできなかった。私と深川は華の点滴が終わった後、車に乗せ東京の深川事務所へ戻った。


 深川の気持ちしては早く華と二人になって、元通りにさせたいと思ったのだろう。帰りの車の中で華は少しずつ言葉を発するようになった。


「すみません。どこへ行くのでしょうか?」と華は静かに話し始めた。


「目が覚めたのか? 華。大丈夫か? 分かるか?」と深川は心配そうに声掛けした。


「華って私のことでしょうか?」と後部座席で華は私の方を見ながら言った。


 私は華のその言葉に『やはり、そうか』と心中思った。深川もそうであろう。華は記憶を失っている。このままにして置いて大丈夫なのか。


 まずは私たちが推測したDCZを華に飲ませているかどうか、預かった血清中の薬物を調べなければならない。


 点滴を繰り返せばおそらくは薬物は何であろうと排泄され、記憶も元に戻ると思われる。


 そう考えると早く帰宅し、近くの病院で点滴をするのがよい。


 そして一方では、警視庁科学捜査研究所に依頼しDCZの血中濃度を測定することだ。



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