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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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華との面会もさせてくれない施設側

第七章 内情

   一

 深川は本栖湖自立支援センターへ直接電話をした。


「もしもし、私はそちらに娘を預かって頂いている深川華の父ですが、親戚の不幸がありまして娘の華に通夜と告別式に出席してもらいたいと思っています。その件で直接話をしたいのですが……」と電話で申し出た。


 電話に出たのは女性だったが、この間の凛子とは違うようだった。


「そうですか。それはご愁傷様です。華子さんは今、農作業中ですので電話には出られません。そちら様のご用件をお伝えしておきます」と言われた。


 そう言われては「分かりました」としか言えなかった。


「すみませんが、折り返し電話をくれるようにお伝えください」と言って電話を切った。


 その電話の後、三日ほど待っていたが、華からの折り返しの電話はなかった。もちろん手紙もだ。深川はもう一度、施設へ電話をし、華と話をしたいと申し出た。


 すると、

「華子さんは熱が出て、今診療所で休んでいます。体調が悪いようで、葬儀には出られないと申しております」と先方の答えだ。


「そうですか。直接、華と話をしたいのですが……」


「それはちょっと無理かも知れません。体調がすぐれないので。申し訳ありません」


 その後、二回ほど電話をしたが、のらりくらりの対応で、華を取り次いでくれなかった。


「深川さん、それっておかしいですよ。何かありますよ。父親なのに……。体調が悪いって本当なんでしょうか?」と私はつい深川の気持ちを考えず、感情的になってしまった。


「真里花さんの気持ちは分かります。私も同じ気持ちです。やはりあの施設は怪しいですね。華が心配です。一度、直接訪ねてみようと思います。真里花さん、一緒に行きますか?」と深川に訊かれた。


 私としては華のことが心配だし、春平や墨田彩芽にも会って確かめてみたいことが沢山あるし、施設内のことももっと調べたいと思っている。しかし、私のことを施設側は既に知っているとしたらただでは済まない。そう考えると深川に任せるしかない。


「私一人で大丈夫ですよ。華に会いに行ってきますよ」と深川は笑った。


「でも深川さん、もう一人誰か同行できる人はいないですか?」と私は心配だった。


「そうですねぇ、佑香さんは面が割れている可能性が高いしね。一人で行くしかないかなぁ」


 深川はそう言って、一人で施設へ向かった。その日のうちに帰らなかったら、捜査一課の柳瀬に連絡を頼むと言い残した。

   *

 深川は前と同じように自立支援センターの門柱インターフォンに向かって、

「深川です。娘に会いにきたのですが……」と大きな声で告げた。


 しばらくして、

「はい。どうぞ入口までお出でください」と女性の声だった。


 深川は入口までの長い道のりを速足で歩いた。入口で凛子が待っていた。凛子の案内で応接室へ入った。


「今日は娘の華に会いにきたのですが、会わせてもらえますか?」と深川は少し怒った口調で言った。


「華子さんは今、身体の調子が悪く自室で寝ています。どうしますか?」

 凛子は涼しい顔で答えた。


「どうするって、会いたいです。調子が悪いのは何かの病気なんですか?」


「診療所医師の診察では身体は何ともないとのことですが……、気持ちの問題なのではないでしょうか? 少しうつ的な状態なんですよ」


「会えないのでしょうか?」


「そうですね。ちょっと本人に訊いて参ります」と凛子はそう言って、応接室を出て行った。しばらくして、戻ってきた。


「華子さんは、今日は深川さんには会いたくないと言っております」


「私が会いたいのです。会わせてください。父親なんですから……」


「そう言われましても、華子さんは今自室のベッドで休んでおります。少しそのままにさせてあげてください。華子さんは私たちが責任を持ってケアしますので、もう少し待ってあげてください」と凛子は頑なに深川に会わせるのを拒んだ。


 深川は華に何かが起こっていると直感した。やはりこの施設はおかしい。普通ではない。ここにこれ以上華を置いていては華の命も危ない。どうにかしなければならない。


「分かりました。華のことはまた日を改めて参ります。ところでお訊ねしたいことがあります」


「何でしょうか? お答えできるものでしたら……」

 少し凛子の口が斜めに歪んだ。


「凛子さん、あなた、墨田彩芽という名前を聞いたことがありますか?」


「墨田彩芽ですか? 知りません。その方がどうしたのですか?」と凛子は涼しい顔で答えた。その表情は本当に知らないという顔だ。


「十年前にこの施設の近くで交通事故があり、一人の女性が意識不明でここに運ばれたと聞いています。そのことは知っていますか?」


「以前、聞いたことがありますが、それが私だというのですか?」


「そうです。これを見てください」そう言って彩芽の母親から預かっていた写真を見せた。それは彩芽と山根沢春平と銀山一郎の三人が映っていたものだ。


「これって、あなたですよね? それにこれ。ここの運転手さんですよね?」と深川は

凛子の目をじっと見つめた。凛子はその写真を手に取ってよく見ていた。


 そして、

「これ、私によく似ていますが、私ではないと思います。それにこの人もうちの運転手ではないですよ」と答えた。


 その言い方、顔つきなど深川には嘘を言っているとは思えないように感じた。


 写真を見せても心の動揺が全く見えない。どういうことなんだろう? 


 もう十年も前の写真だからなのか。髪型なども変えているからなのか。違うと言われれば違うのかも知れないと深川は思うようになった。


「そう言うのならあなたの身元ははっきりしているのですよね? 出身地とか本籍とか」


「えぇ、もちろんです」と凛子は自信を持って答えた。


 続けて「もういいですか? 警察の取り調べみたいで不愉快だわ。もうお帰りください」と怒った言い方だった。


 そう言われて深川は仕方なく施設を後にした。


ご意見を頂ければ嬉しいです。

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