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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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華からの送られた隠しカメラビデオを再生し驚いた

  三

 一方、私と深川は華が施設へ入所してから捜査一課の柳瀬と情報共有していて、新たな情報が入ってきた。


 山科管理官の積極的な捜査命令で外務省と文化庁への捜査が入り、今まで推測の段階であったものが違った事実であることが判明した。


 それは、鎌田によって殺害された山根沢春樹は国民真理の会の認可に対して反対の立場をとっていたことはどうやら事実らしかったが、宗務課の青城秀則はその認可に対して賛成の立場をとっていたと思われていたが、実際はそうではなかったとのことだ。柳瀬からの情報だが……。


「深さん、山根沢春樹も青城秀則も国民真理の会の認可については否定的な見解を示していたようです。我々は思い違いをしていました」


「青城も宗教法人として認可をすれば、より自由民政党との繋がりが強くなり、政教分離の点で好ましくないと思っていたようです。これは宗務課への聴き取り調査で分かったことです。管理官が新しくなって可能になった訳ですがね……」と柳瀬からの電話があった。私もその電話を音声に出してもらい、隣で聞いていた。


「そうなのか」と深川のしみじみとした返事。さらに柳瀬は続けた。


「青城は十年間もの間、ずっと宗務課長の役職にいましたよね? それは国民真理の会としては目の上のたんこぶみたいなものですよ。彼がいるといつまで経っても宗教法人の認可が下りない訳です」


「なるほど……。だけど今回の遺体は山根沢春平だ。春平の立場はどうだったのか?」


「春平はキャリアとして外務省に入省して間もないですよ。将来が約束されていました。それに父親の春樹のように宗教と政治についてどっぷり浸かっていた訳ではありません。教団としてあまり関心はなかったと思います。それよりも宗務課の青城ですよ」


「そうすると殺害されたのは春平ではなく、青城ってことはないのか?」と深川はいよいよ本題に入ろうとした。


 私はその会話を傍らで聞いていた。私の言いたいことを深川が代弁していると思った。そう思うと自然と固唾を呑み込んだ。


「前から頼んであったが、DNA鑑定のことだが、検体をどこかの段階ですり替えられたってことはないのか?」

 深川の攻めの質問だ。


「それは……、まだ分かりません」


 電話の向こうで柳瀬もたじたじしていることは想像できた。


「例えばだなぁ、鑑識の中に国民真理の会の信者がいるとか……」


「それはまだ、調べてませんが……。これから調べますよ。少し待ってください」と柳瀬の困った声が聞こえた。そこで一応電話を切った。


「真里花さん、もしかしたらご主人は生きているかも知れませんね?」と深川。


「そうでしょうか? 生きているとしたらあの施設の中でしょうか?」


「私はそう思っています」との深川の言葉に私も少し希望が出てきた。


後は施設へ潜入した華からの情報を待つばかりだ。

   *

 深川とそのような会話を交わしたその日の内に華から手紙が届いた。


 その手紙の趣旨は特別な内容ではなかったが、詩集を送れということと、もう一つは手紙にSDカードが貼り付けてあった。


「深川さん、このSDカードを見てみましょう。手紙には特別なことは書いてないですが……」と私は少し焦った。


 深川は、

「真里花さん、そうしましょう。おそらく施設では手紙の内容などもチェックされるのかも知れませんね。そうでなければこんなつまらん手紙など書きませんよ。SDカードを送るためのものですよね。きっと」と言った。


 SDカードをパソコンに挿入し動画を再生した。


 私、深川所長、そして佑香の三人で繰り返し見た。それを見て私は確信した。なんと春平はまだ生きていたのだった。施設の運転手として生きていた。墨田彩芽も生きている。佑香も同じように思ったに違いない。


 施設内の講堂で行われていた教義なるものは、暗くした室内でローソクを灯し、幻想的な雰囲気醸し出し、一人の男が入所者たちに向かって現在の日本の政治的問題点などを話していた。その会場に春平と彩芽も座っていたのだった。


 華が送ってきたSDカードの中に半分以上の時間を割いて映し出されたものがあった。それは施設の付属診療所と思われる診察室の隅にある薬品棚をゆっくりと映した動画だった。私はなぜ華がこんな薬品棚を映したのか分からなかった。


「深川さん、これは何を意味するのでしょうか?」とその疑問を深川にぶつけた。


「分からんが、華は薬品棚に何かを発見したのかも知れないな」


「それは何なんでしょうか?」


「そこまでは分からんねぇ。華が帰ってからじゃぁないとね」


「この動画では中心は薬品棚ですよね? 施設では調べられないような薬品を調べて欲しいと思ったのではないでしょうか?」と私の推理を述べた。


「そうかも知れませんね。ちょっと調べてみましょうか? せいぜい五十種類程度ですから……」


 深川と佑香、それに私で手分けをしてネットで薬品を調べた。ほとんどは抗生物質、鎮痛解熱剤、胃腸関係の薬剤、降圧剤、糖尿病薬などの一般的な薬剤であった。


 その中で聞き慣れない薬剤があった。しかも薬品棚の一番下の隅の方に置かれていた。それはDCZと記載されてあった。その他の薬剤は全てネットで掲載されたものであった。DCZのみが何人で何度調べても出ていないものだった。


「このDCZって何でしょう?」


 私たち三人が調べてもネットなどには出ていない。


「DCZって新しい薬剤なのかも知れないな。もっと専門的なルートで調べないと分からないなぁ。さて、どうしようか?」


 深川も顎に手を当てて少し困った様子だった。


「それって、私、心当たりがあるのよ。調べさせてもらえる?」


 ずっと大人しく聞いていた佑香が突然のように話した。

「もしかしたら、私にも活躍できることかも知れないわ、うん」と佑香の確信した言い方。


「何か心当たりがあるの? 佑香さん」と私が訊いてみた。


 すると、

「そのDCZって薬、聞いたことがあるのよ。東日土木建設で。逮捕された山下と鎌田がやり取りしていた薬かも知れないわ。書類を見れば分かると思う。ちょっと時間を頂ければ会社に戻ってその書類を持ってくるわ」と言って、直ぐに新宿の会社へ戻って行った。


 東日土木建設は山下社長が逮捕された後も、専務が社長代行として営業を続け、佑香自身も今までと変わらず、社長代行秘書として勤務していた。


 そのため専務には無遠慮に何でも手に入れることが可能であった。その専務も元社長秘書の佑香には一目置いていたので、彼女自身もやり易かったのであろう。


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