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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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DNA鑑定って絶対なの?

  三

 私は華を伴って文化庁へ訪れ、受付の案内嬢に宗務課へ行きたい旨を話した。


「すみません。宗務課の青城秀則さんにお会いしたいのですが……」


「お約束でしょうか? ちょっとお待ちください」


 二人座っていた受付の女性の一人が宗務課へ電話をかけてしばらく何か話していた。内容は聞こえなかった。受話器を置いてから、「申し訳ありません。青城は退職されています」とのこと。


「退職ですか? よろしければこちらの退職後のお勤め先を教えて頂きたいのですが……」と私は咄嗟に言った。その受付嬢は怪訝な表情を見せ、隣に座っていたもう一人の受付嬢と顔を見合わせて頷いた。


「実は青城は一か月間も無断欠勤で、ご家族にも知らせず行方不明のため、ご家族の了承のもと退職の手続きを取らせて頂いたのです」と受付嬢は急に小さな声で答えた。他に聞こえないように囁いた。


「行方不明なんですか?」


「そのようです。それ以上のことは私どもには分かりません」


 驚いた。青城が行方不明になっていると。その受付嬢に青城の住所・電話番号など訊いたが、個人情報なので教えられないと断られた。それなら自分たちで調べなければならない。


「深川さん、青城について調べられませんか?」


「いいですよ。柳瀬に頼んでみますよ」と深川は直ぐに柳瀬に電話をした。


 翌日には深川から折り返し連絡が入り、青城の様子が分かった。警視庁捜査一課の柳瀬らは既に青城と国民真理の会の関係について捜査していた。


 それによると、国民真理の会は当時、宗教法人としての申請をしていて、その認可を担当していたのが青城だった。しかし、宗務課の課長一人がその認可の可否を決定づける権限はなかったが、上役に卒なく説明すれば認可を下すだけの力があった。


 国民真理の会の役員はそのことを知っていて、青城に度々接触していた。青城はどちらかと言えば認可には積極的であった。そこに金が動いていたのかどうかは不明であるが……。


 ところが、外務省の総合外交政策室の山根沢春樹は認可に反対していた急先鋒だった。国民真理の会とすれば宗教法人の認可は税金逃れの手段として必須なのだ。そのため、国民真理の会の山下は鎌田を使って山根沢春樹を殺害したって訳なのだ。捜査一課はどうやらそう考えていたようだった。


 一方、それ以前から国民真理の会は国政選挙の時には必ず自由民政党からの候補者の応援に駆け付け、票集めも積極的であり、候補者として是非必要な団体であった。


 そのことを義父、山根沢春樹は政教分離の観点から是としなかった訳だった。私としたら当時の義父の考えは当然のことだと思えた。


「深川さん、それで青城の行方についてはどうなのですか?」

 私のその質問に深川は困ったようだった。彼の眉間に皺が寄った。


「えぇ、結局、家族や仕事上の同僚たちの話からは、そのことについては分からないのですよ。奥様の話ではいつものように職場へ出かけて行って、そのまま帰って来なかったということです」


「それじゃぁ、夫の春平と同じような形ですね? しかも同じ時期ですよねぇ」


「そういうことです」深川は何か含みがある一言だった。


「それって、今回は外務省総合政策室の夫と文化庁宗務課の青城課長と行方不明者が二人。しかも二人とも国民真理の会の法人認可で揉めていたのは確かですよね。十年前には同じ部署の義父山根沢春樹と新藤大和が梅沢組フロント企業である東日土木建設のヒットマン鎌田に殺害された。青城は十年前から宗務課課長として長年在籍している。その中で夫は青城課長とはおそらく宗教法人認可については全く逆の意見を持っていたのだろう。それにも拘わらず二人ともなぜ、行方不明にならなければならないのでしょうか?」と私は深川に疑問をぶつけた。


「それはもっともな質問ですね。私にも分かりません」と深川は頭を少し捻った。


「国民真理の会の法人認可は未だに下りてないのですよね?」と華。


「そのようだね」


「とすれば、教団側はどうしても早く認可を欲しい訳よね。青城を拉致したりはしないわよ。いなくなったら認可が遅れるし困るものね。むしろ、邪魔になるのは春平さんよね?」

 華のもっともな意見だ。


「うむ……」深川はじっと目を瞑って考えていたようだった。


「あの遺体は春平さんよね? DNAも確認されているのだから」

 華は何か別のことを考えているのだろうか?


「DNAは絶対よ。だって、春平さんの残された毛髪と遺体の骨から得られたDNAなんでしょ? それが一致したってことは科学的にも証明された訳よね」と華は自分に質問し、自分でそう言い聞かせた。


「DNA鑑定は個人の特定については間違いないと思っていいだろう。百パーセントではないが九十九・九九パーセント以上の確立だ。一人が骨髄移植など受けていると不正確になるらしいがな……」と深川。


「そうですよね。二人ともそういう移植など受けてはいないわ。でもそれって……」


 私は何かそのDNA鑑定ってやつ、本当に大丈夫なのかと思った。


 確か夫春平のDNA鑑定をするときに、警察から検体の提出を依頼された。通常はDNA鑑定の検体は頬の粘膜を擦って、それを第三者が確認し、検体として用いる。


 しかし、その時は既に夫はいなかったのだ。警察の鑑識員は、『毛髪の何本かでいいのですよ。ブラシなどについている毛髪でも……』と言い、ピンセットみたいな器具で夫のブラシから何本か毛髪をとり、試験管に入れ持ち帰った。


 その試験管の中の毛髪が取り違えられたらどうなるのか? しかもそれが故意であっても、過失であっても。


「真里花さん、何かあるの?」と深川は私がずっと考え込んでいたのを不審に思ったのだろう。華と一緒に私の顔をじっと見つめた。


「えぇ、ちょっと気になることがあるんですよ」


「それって何?」


「深川さん、DNA鑑定って鑑識か科捜研などで行うのですよね? その辺りに教団の息がかかった人物はいないのでしょうか?」


「それは調べないと分からないですが、何を考えているのですか? 真里花さん」


「はい。まだ分からないのですが……」私はそれを言う気にはならなかった。全く自分よがりの考えなので、説得力がないと自分で思ったからだ。


「真里花さん、何でもいいので言ってみて!」と華。


「えぇ、私はまだ夫は生きているんじゃぁないかと思っているんですよ。笑われるかも知れませんが……。あの白骨遺体が夫だとされたのはDNA鑑定と指輪ですね。指輪は第三者によって入れ替えられますよね。DNA鑑定は絶対ですが、それは検体が確実に夫のものであった場合ですよね?」


「ということは春平さんの毛髪と誰かの毛髪と入れ替えられたということなのかしら?」

 華は深川の方を見て、何か言ってと促した。


「もしかしてあるとしたら、春平さんと失踪した宗務課の青城秀則と入れ替わったという可能性はあるよなぁ。丁度、同じ時期にいなくなったのだから。全く関わりのない二人ではないのでね」


 深川の考えは私の考えを代弁したのだった。


「そうですよね? 真里花さん」


 華も同じ考えでいたのだった。


「そうです」と私もその方向へ期待を込めて心が動いた。


 三人はその可能性を調べるにはどうするかを議論したが、なかなか良い考えは浮かばなかった。


 私は本栖湖の自立支援センターがどうしても頭から離れなかった。夫の昔の恋人、墨田彩芽のこと。夫が生きているとすれば教団との関係だ。


 しかし、生きているのに私に何も連絡しないというのは納得ができない。連絡ができない何かがあるとしたら、何なのか、それも知りたい。


 一度、どうしてもあそこに行ってみよう。いや、行かなければならない。そう思った。


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