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失踪夫、夫が失踪した。なぜなんだ?  作者: 井埜利博(いのりはく)
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心強い味方が現われた

   五

「もしもし、山根沢真里花さんですか?」と優しい女性の声だった。


「はい、そうです。山根沢です」


「私、誰だか分かりますか? 今日、お逢いしたものです」 相手は電話の向こうで笑っているようだった。


「もしかしたら、あの秘書さん? 朝比さん? でしたよね?」


「そうです。朝比です。今日はもう夕食済ませましたか?」


「いいえ、まだです」


「よろしかったら、夕食ご一緒しませんか?」

 一瞬、私は戸惑った。山下の命令で私のことを調べろと言われているのだろうかと思った。


「はい。いいですよ。何かお話でも……」

 とは言ったものの、話って何だろうと思った。


 山下の秘書なのだから、山下に何か言い含められて探りにくるのかも知れない。注意しなければ……。でも華が一緒なら安心ができるが。


「あのぉ、食事ですけど、今日一緒にお邪魔した女性も連れて行っていいですか?」と申し出た。


「あぁ、あの方ね。華さんでしたか? いいですよ。じゃぁ、私の知っているフランス料理店がありますので、そこでいいですか? 七時に待ち合わせしましょう。お店のホームページをメッセージでお送りします。新宿ですが、大丈夫ですか?」


「はい。では今から伺います」と言って華に電話し、了解を取った。直ぐにタクシーを拾い、華を途中でピックアップし新宿へ向かった。


 そのフランス料理店は「セーヌの(ほとり)」というしゃれた名前の店だった。東日土木建設から近いところなので、朝比は良く利用しているのかも知れない。


 彼女は先に着いて待っていた。既にディナーコースを注文していたらしかった。その店はビルの地下一階にあった。


 タクシーの中で、華と「何の話でしょうね。後から組員が来るなんてことはないわよね」とあくまでも注意は怠らないようにしようと話し合った。


「セーヌの畔」は静かな空間を醸し出していた。客も皆品の良いカップルばかりだった。


 私たちが入ると直ぐに、

「突然で申し訳ありません」と朝比は私たちを椅子から立ち上がって笑顔で迎えた。


「あぁ、いいお店ね? ここ良く利用しているのかしら?」


「そうです。近いですので……」と言って、「ワイン飲みます?」と朝比。


 それから三人でワインを飲み始め食事が始まった。そこで思いもよらない事実が分かった。


「真里花さん、華さん、お名前でお呼びしてもいいですか?」


「どうぞ、仲良くなるにはそれが一番よね、真里花さん」と華は私の方を見ながら言った。三人とも頷いた。


「真里花さん、私のこと覚えていますか?」と朝比は尚も笑顔だった。


「……」と少し考えさせられた。


「最初お逢いした時からどこかで見たことがあると考えていたのよ」と私は正直に話した。


「うふふ、私、あまり目立たない顔形だから……、記憶にないのね」


「ごめんなさい」


「私、春平の妹の佑香です。あなたの義理の妹よ。結婚式にちょっとお逢いしたきりですものね。私は山根沢家と疎遠になっていて兄の結婚式もほんのちょっと出席しただけなのよ。あなたとも言葉も交わさなかったの。私は母と兄から嫌われていたから、無理もないわ」


「え、うそでしょ? 春平さんの妹さん?」


 私はそう言えば春平には妹がいたことは聞いていた。でも二人の間ではほとんど妹佑香の話は出なかった。結婚式で見かけたのだろう。その程度の面識だった。


 しかし、その話で私たちは一気に佑香に対する疑いの気持ちが吹っ飛んだ。


「そうよ」


「でも、どうして佑香さんが山下の所にいるの?」


「それは色々あるのよ。父の死について調べているうちにこうなってしまったのね。そのうちに兄が失踪しているって分かったのよ」と佑香はグラスのワインを一気に飲み干した。


「私たちもそのことを調べているのよ。華さんはね。深川探偵事務所の所長の娘さん。私が春平の捜索を依頼して、それで一緒に捜索しているの。所長さんは昔、警視庁捜査一課にいたの。調べているうちに山下の所にたどり着いたって訳よ」


 私の話に隣で華は頷いていた。


「そうだったの……。私の方はね、もう十年前になるけど、父の春樹が殺害された時から警察の対応に疑問を持っていたのよ。ろくな犯人探しもしないしね。父が亡くなった時はまだ私は高校を卒業したばかりだったのよ。当時から母との折り合いが悪くて、大学にも行かず、家出を繰り返していたわ。その後、父の在籍していた外務省総合外交政策室の部下という人に訊いたところ、教団絡みのトラブルじゃぁないかと言われたのよ」


「その教団って、国民真理の会ですか?」


「そうです。それで私は国民真理の会が主催している研修会に一人で出席したんです。どんなものか様子を窺うためにね。新宿区の公民館で開かれていたわ。大学生のような若い人ばかりでしたが、講演をした人は教団の上の方の人だったと思います。その時、声を掛けられたのが今の山下社長だったのよ。私、今フリーで仕事がないと言ったら、山下にじゃぁうちの会社へ来いと言われ、つれて行かれたのよ。それから可愛がってもらっているのね」と佑香はあっけらかんとした言い方だった。


「可愛がってもらってるって? もしかしたら愛人ってこと?」と華が単刀直入に訊いた。


「あはは、何言ってるのよ。違うわ。山下には他に愛人がいるわよ。私は最初、事務員から初めて社長とその愛人に気に入られて秘書になったのよ」


「そういうことなの。朝比って苗字は?」


「教団の研修会に参加した時、記名させられたのよ。その時から山根沢佑香から朝比佑香って、勝手に苗字を変えたのよ。だからもちろん戸籍は未だに山根沢よ。それは結果として良かったと思うわ」


「それってどうして?」


「それは後で分かるわ」と佑香は含みのある笑いを浮かべた。


「それで、お父さんの春樹さん殺害の犯人やお兄さんの春平さんの行方など何か情報を得られたの?」


 華のその質問だが、それが私の一番知りたいことだ。華ももちろんのことだ。


「そうねぇ、話をすると長くなるけど……。山下は広域暴力団の梅沢組の幹部なのよ。組の中では結構力があって警察組織や政治家、官僚などにも顔がきく人なのね」


「それって、山下の人物? お金の力? それとも誰か大物がいるの?」


 私はその大物の名前を知りたい。


「はっきり言えばお金よ……。それも自分のお金じゃぁない。他人のお金よ。」


「どういう意味かしら? 他人のお金って」


 私は佑香の言っている意味が理解できなかった。


「真里花さん、ポカンとしているわね。山下は国民真理の会の幹部なのよ。教団は山下を暴力団と知っていて入れているの。寄付してくれさえすればヤクザであろうと何であろうと構わない。教団の信者から沢山の寄付を得ているのよ。その一部を使える立場なのよ」


「そういうことなのね。ところで教団で資金を切り盛りしている人って誰なの?」と華は惜しげもなく訊いた。


「華さんってはっきりしているのね?」と佑香は少し戸惑ったようだった。


野末(のずえ)(たか)(あき)という人よ。教団理事にもなっているわ。山下とは都立高校の同級生って言ってたわ。野末は高校卒業してから直ぐに教団に入ったらしい。弁の立つ人よ。あの人の話を聞いたら皆、教団に入らなくちゃと思うわよ」


「なるほど。だいぶ分かってきたわ」と私は話を聞いていてそう思った。


 とにかく、私にとって佑香という大変心強い味方が現れたのだ。深川と華にとっても同じだ。しかし、佑香が十年前に殺害された山根沢春樹の娘で、失踪した春平の妹だと山下たちに分かってしまったら佑香の命が危ない。そう考えると私も佑香に頻繁に会うのは止めよう。


「佑香さん、私たちの連絡もラインでしましょう。実際に顔を合わせることはしない方がいいわ」


「そうね。そうしましょう」と言って佑香のラインのIDを交換し、事務所へ帰ってきた。



これから面白くなるんです。

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