第5話 動き始めた謀略(side:アイナ)
「嘘よ! あの女がジルニオン様の番だなんて! 何かの間違いよ!!」
「ア、アイナ!!」
ガッシャ―ン!!
パリ―ン!!
二人が応接室を出て行ったあと、私は怒りの感情を物へぶつけた。
ジルニオン様の番がルティーザである事実を到底受け入れる事が出来なかった。
しかもあの姿!
身に着けていたのは最高級のブルーダイヤ。
ドレスだって、上質な絹で仕立てられたものだ。
あの女が、私よりも最高級の物を纏うなんて!!
なぜ私ではなく、あの女なの!?
なぜ私ではないの!?
その疑問に答える声はなく、怒りばかりが募っていく。
腹立ち紛れに、そこら辺にあったものを片っ端から床へ叩きつける。
「ジルニオン様…私を蔑んでいたわ…」
『異母姉をおまえ呼ばわりする人間の言葉など信用できるか!』
その瞳には侮蔑と憤怒が浮かんでいた。
ルティーザはそんな彼の隣を当然のように立ち、手を携え出て行った。
「あああああああ!! ルティーザのせいよ! あいつがジルニオン様にあることない事言ったのよ! あの女!!」
ダン!ダン!ダン!
私は狂ったようにテーブルを何度も叩きつける。
傍にいた侍女たちは怯えながら見ていた。
「アイナッ! おまえたち出ていけ!」
「落ち着きなさい、アイナ!」
お父様が侍女たちを追い出し、お母様が私を必死で宥める。
「落ち着けるわけないでしょ!? あいつがジルニオン様の番だなんて、何かの間違いに決まってる!」
「番は本能で見分けるのよ…会った瞬間それだと分かるらしいわ…」
母が私の両肩に手を置きながら、言い聞かせた。
「う…悔しいっ 悔しい悔しい悔しい! あんな女をジルニオン様が選ぶなんて!」
「可哀そうなアイナ。ねぇ、あなた…何とかならないのかしら? ジルニオン様にはアイナのような美しい令嬢がお似合いだわ。それに家門にとっても、アイナが番になってくれた方が都合がいいのではないの?」
「そ、そうは言っても…番というのは唯一無二の存在だ。それを覆す事など不可能だ」
父が苦しそうに大きな溜息をつく。
ああ…なぜ私がジルニオン様の番ではないの!?
………!
そうよ…番……
「私が番になればいいのよ!」
「…な、何を言っているの!?」
私の言葉の意味が分からず、戸惑っているお母様。
「私…聞いた事があるの。番になれる薬がある事を…」
そう、番ではない人間が番になるための秘薬。
『番結び』という薬の存在を。
「そ、それは違法薬物だ、アイナ! 使用はもちろん、売買や所持する事も重罪になる! そもそも『番』の存在はこの国では何よりも尊ばれている。だからこそ、そのつながりを変える事は違法とされているんだ!」
「バレなければいいだけの話でしょ? この事は三人の秘密にすればいい事よ。だから、何とか薬が手に入る方法はないかしら? お父様!」
「…い、いや、でも…っ」
いつもは私の頼みならなんでも聞いてくれるお父様も、違法薬物に関わるとなると及び腰になっていた。
「あなた、ルティーザはこの家での仕打ちをきっと恨んでいるわ。さっきのジルニオン様の様子を見たでしょ!? あの子がジルニオン様と結婚したら、侯爵家の力を使って仕返しするかもしれないわ。そうなれば、私たちはただではすまないのよ? だったら、どんな手を使ってもアイナを番にするべきよ! アイナの幸せと家門を守るためよ!」
「…そ、そうだな…っ うん、そうだ! アイナが番になるべきだ!」
母の言葉に背中を押され、父もやっとその気になった。
「一人…闇市に詳しい仲介人を知っているヤツがいる。そのツテを使って『番結び』が手に入らないか聞いてみよう」
「お願いねっ お父様!」
ふん、せいぜい番になれた状況を楽しんでいればいいわっ
絶対に、その座から引きずり降ろしてやるから!
ルティーザ!!




