第4話 明るい場所へ
私はジルニオン様と実家へ戻って来た。
「こ、これはドラグール令息様! ようこそお越しくださいました」
先触れを出していたため、父と義母そして異母妹が玄関先で到着を待っていた。
皆平身低頭状態で、ジルニオン様をお迎えしている。
「出迎え、痛み入る。さあおいで、ルティーザ」
「ルティーザ?」
外で家族が異口同音に私の名を口にする。
私はジルニオン様の手を取り、馬車を下りた。
「な! 何であんたが! それにその格好は!!」
アイナが驚きの声を上げる。
「…あんた? 今、ルティーザをあんたと呼んだのか?」
「あ、…その…っ」
ジルニオン様がアイナに鋭い視線を向ける。
その瞳に、アイナは口元を押さえながら委縮した。
「ジ、ジルニオン様…っ」
私は止めるように彼の名を呼んだ。
そうしないと、今にもアイナに何かしそうな気配がしたから。
「…ルティーザの事で話がある」
私の声を聞くと軽く息を吐き、今回の目的を父に伝えたジルニオン様。
「え? ルティーザの事…でしょうか? あ、あのまずは中へどうぞ。応接室にご案内いたします」
ジルニオン様は私の肩を抱き、父の後に続いた。
アイナの前を通りすぎる時、彼女の鋭い視線が私を突き刺す。
「…なんでジルニオン様と…っ!」
義母にくやしそうな声を上げている異母妹の声がした。
応接室には入口側のソファに父と義母そしてアイナが座っている。
ジルニオン様と私は反対側のソファに座った。
「それで…あの…ルティーザの事とは…?」
「ルティーザは俺の番だ。よって本日より未来の伴侶として、我が屋敷で暮らす事となる」
「つ、番?! は、伴侶…っ? ルティーザが…ですか!?」
皆、彼の言葉が意外すぎて、理解できないと言う顔をしていた。
そしてすぐに反発したのはアイナだった。
「な、何かの間違いではありませんか!? そのおん…っ…異母姉がジルニオン様の番だなんて、とても信じられません!」
「…おまえに名を呼ぶ事を許した覚えはない」
「え…っ」
「おまえはルティーザを虐待していたようだな。そして親であるあなたたちは黙認していた」
「え、そ、それは…っ」
「……っ」
父は口籠り、義母は押し黙っている。
「!! ……そ、そのような事、私はしておりませんっ その…あ、異母姉が何を言ったか存じませんが…」
アイナは虐待の事を否定し、憎々し気に私へ視線を向けていた。
その視線から守るように、ジルニオン様が私の肩に手を回す。
「異母姉をおまえ呼ばわりする人間の言葉など信用できるか!」
「!!」
アイナが顔を赤くして、両手でスカートを握り締めている。
「言っておくが、またルティーザを傷つけるような事があれば、ドラグール家の力を以ってグラント家を取り潰してくれる!」
「わ、私どもは娘にそのような事は…っ」
「耳障りな言い訳は聞きたくない。今後のことは追って連絡する。話はそれだけだ。いこう、ルティーザ」
父の言葉を遮るように、用件を言い終えるジルニオン様。
「…はい、ジルニオン様」
「何か取りに行くものはないか?」
「いえ、何もございません」
母が亡くなってから、全て奪われた。
想い出の品も全て。
もうこの家から持って行きたいものなど、何もなかった。
今までのつらかった過去も全て置いて行こう。
私はその大きな手に触れ、共に部屋を後にした。
「…………許さない…っ」
微かに聞こえたアイナの言葉。
けれどもう、怯える事はない。
今は私を大切に想い、守ってくれる人がいる。
この暗澹たる場所から明るい光へ導いてくれる人が…
もう、独りじゃない。
その事が、私の心を強くしてくれた。




