第9話 ダルトたちの嘘
ギルドを出てから、俺は宿に戻る前に少し街を歩いた。夕暮れの喧騒の中、頭の中ではガレンの言葉が引っかかったままだった。
「死亡したと報告した、か」
撤退したことそのものは、緊急時の判断として責められないかもしれない。だが、生きているかもしれない仲間を「死亡」と報告するのは、明らかに別の話だ。重傷者を見捨てた事実を隠すための、嘘だったのだろう。
宿の部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。今日一日の出来事を思い返すと、改めて現実感が薄かった。荷物持ちとして馬鹿にされ、死にかけ、覚醒し、独りで危険度Aを討伐し――そしてパーティの嘘まで知ることになった。
「……明日、ギルドから連絡があるはずだ」
そう思っていたが、連絡は思った以上に早く来た。夜が明ける前、宿の扉が叩かれた。
「ロウ殿、ギルドより使者が参っております」
扉を開けると、見覚えのある若い職員が立っていた。緊張した様子で一礼する。
「ガレン様より、緊急の招集です。ダルト様のパーティについて、事情聴取が始まっております」
「分かった。すぐに行く」
ギルドに着くと、昨日とは違う、もっと厳重な雰囲気の部屋に案内された。中に入ると、ダルトとリーネ、そして他のパーティメンバーが並んで立っていた。全員、顔色が悪い。
「ロウ……」
ダルトが小さく呟く。俺は何も言わず、ガレンの指示で用意された椅子に座った。
「では、改めて確認する」ガレンが厳かに口を開いた。「ダルト、君たちは《深層喰らい》との戦闘で、ロウが死亡したと報告したな」
「は、はい……それは……」
「しかし、ロウは生きており、自力で討伐まで成し遂げている。これは、明確な虚偽報告だ」
部屋の空気が一気に重くなる。リーネが俺を睨むように見た。
「あなたが、勝手に生き残っただけでしょ。私たちは、確実に死んだと思って――」
「確認もせずに、勝手に死亡と決めつけて報告したのか」
俺が静かに言うと、リーネは言葉を失った。
ガレンが続ける。
「虚偽の討伐報告、および負傷者放置の罪は、ギルド規約に基づき厳正に処罰する。パーティの資格停止、および罰金が科せられる」
「待ってくれ! あれは緊急時の判断で――」
「緊急時の撤退自体は問題としない。だが、死亡したという嘘の報告は別問題だ」
ダルトが言葉を失い、肩を落とした。リーネも、これまでの強気な態度が消え、ただ顔色を失っていた。
俺は黒い感情が湧き上がるのを感じたが、それ以上に、不思議な冷静さがあった。もう、彼らに何かを期待することも、恨むことも、特別な意味を持たない気がした。
「ロウ、何か言いたいことはあるか?」ガレンが俺に視線を向ける。
少し考えて、口を開いた。
「特にありません。事実を、正しく処理してください」
ダルトが驚いたように顔を上げる。何か言いたげだったが、結局何も言わなかった。
聴取が終わり、俺はギルドの外に出た。冷たい朝の空気が、頭をすっきりさせてくれる気がした。
「これで、本当に終わりだな」
過去のパーティとの繋がりは、これで完全に切れた。これからは、自分の力で、自分の道を進むだけだ。
胸の中には、まだ見えない可能性が静かに広がっていた。
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