第10話 新たな依頼
ギルドを出て数日が経った。ダルトたちのパーティは資格停止処分を受け、街でも噂が広まっているらしい。「荷物持ちを見捨てて嘘をついた末路」として、あまり良くない評判が立っているようだった。
俺自身も、討伐報酬と素材の買取で、これまでとは比べ物にならない額の金を手にしていた。だが、それよりも気になっていたのは、ガレンの言葉だった。
「時空魔法について、何か知っている、か」
宿で過ごしていたところ、ギルドからの呼び出しが来た。今度は事情聴取ではなく、個人的な面談という形だった。
ギルドの応接室に通されると、ガレンが一人で待っていた。
「来てくれたか。ロウ殿」
「殿、はやめてください。まだ駆け出しの冒険者です」
「いや、もう違う。危険度Aを単独討伐した実力者だ。それなりの敬意を払うのは当然のことだ」
ガレンは静かに笑い、椅子を勧めた。
「今日は、二つの話がある。一つは、新しい依頼について。もう一つは、君の時空魔法についてだ」
「時空魔法の話、聞かせてください」
ガレンは少し間を置いて、口を開いた。
「この国には、数百年前、伝説的な時空魔法使いが存在した。名を、アーシェル。彼は時空魔法を極め、国を救ったとされる人物だ」
「アーシェル……」
聞いたことのない名前だった。
「彼の最後の足跡は、ダンジョンの深層にあると言われている。長年、多くの研究者や冒険者がその真相を追ってきたが、誰も辿り着けなかった」
「もしかして……俺が遺跡で会った存在は――」
「遺跡? 何のことだ」
ガレンが鋭く反応する。話していなかったことに、自分でも今気づいた。
「第十二層で、古い遺跡を見つけました。そこで、声のようなものに出会って……魔法が覚醒したんです」
ガレンの表情が、明らかに変わった。
「それは……間違いない。アーシェルの遺跡だ」
「なぜ、分かるんですか」
「アーシェルの伝承には、必ず『時空の血を引く者』という言葉が出てくる。そして、彼の遺した力は、欠片として様々な場所に散らばっていると言われている」
「俺の中にあったのは、その欠片の一つ、ということですか」
「おそらくな。そして、君がそれを覚醒させ、さらに先へ進んだということは……」
ガレンは少し言葉を選ぶように、続けた。
「アーシェルの遺した、本当の力――その全貌に近づいているのかもしれない」
部屋の空気が、にわかに緊張を帯びた。
「もう一つの話というのは、これに関係していますか」
「ああ。ギルドとしても、君に依頼したいことがある。アーシェルの遺跡について、さらに調査を進めてほしい」
「俺に、ですか」
「君以外に、適任者はいない。時空の血を引く者でなければ、おそらく遺跡の核心には近づけないだろう」
俺は少し考えた。荷物持ちとして見下されていた自分が、まさか伝説の魔法使いの後継者扱いされる日が来るとは、想像もしていなかった。
「分かりました。受けます」
ガレンが満足そうに頷く。
「報酬は別途用意する。それと――一つ、忘れずに伝えておきたいことがある」
「何でしょうか」
「アーシェルの伝承には、もう一つの言葉がある。『時空の血を引く者は、いずれ時空そのものと向き合う運命にある』」
その言葉の重みが、胸の奥にゆっくりと沈んでいく。
「……時空そのもの、と」
「意味は、まだ私にも分からない。だが、君がこれから進む道に、深く関わっているはずだ」
部屋を出て、外の空気を吸い込む。これまでとは違う、もっと大きな何かが、自分の前に広がろうとしている気がした。
「アーシェルの後継者、か」
荷物持ちと呼ばれていた頃には、考えもしなかった言葉だった。だが今は、不思議とその重みを受け入れられる気がした。
第十二層の遺跡へ、再び向かう日が近づいている。
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